#1 再会
バリューガは立ち上がる。なんだか久しぶりに立ったような気がした。
「もう、大丈夫か?」
そばにいるセクエに声をかける。セクエは頷くと、立ち上がった。バリューガはセクエの顔を覗き込む。目は真っ赤だが、もう泣き止んでいた。
「早く、ここから出ないと…。」
セクエは焦ったように呟く。その様子を見ていて、なんだか恐ろしく感じた。その体がグラリと傾く。バリューガは慌てて支えなければならなかった。
「お、おい!本当に大丈夫なのか?フラフラだぞ。もう少し休んだ方が…」
「崩れる…。」
「何が?」
「ここは、メトの魔力で支えられてたから…メトがいなくなると、いつ崩れるか、分からない。早く出ないと、危ない。」
しかし、そう言っている本人がここまで動けないとなると、セクエを歩かせることなんてとてもできそうにない。
(こんな状態で逃げようなんて、無茶だ。)
バリューガはセクエに背中を出して言った。
「そんなに言うなら背負ってやる。ここから出たいんなら、とっとと乗れ。」
セクエが肩に手をかけた。バリューガは姿勢を低くしてセクエをすくい上げるように背負うと、出口に向かって歩き出した。自分より小さなセクエの体は、ずいぶん軽かった。これならいけそうだな。バリューガは階段を上がる。セクエの長い髪がバリューガの肩にもかかっていた。背中を通して心臓の鼓動が聞こえる。生きてるんだ。唐突にそう思った。だが、なんだか苦しそうでもあった。息が荒い。それに、体がやけに熱い。
(さっきもフラフラだったし、セクエのやつ、何したんだろ…。)
何も知らないことが辛かった。階段を上がりきり、外へ出ると、バリューガはセクエを降ろして地面に横たえた。セクエは目を閉じて額に手を当て、苦しそうに息をしていた。
「さーて、これからどうしたもんかな。」
学舎は崖に覆われている土地だ。セクエならともかく、魔法の使えないバリューガには出ていくことはできない。ましてやこの状況では、セクエも出られない。閉じ込められたような感じがして少し怖かった。困っていると、セクエが薄く目を開けて呟いた。
「ケイン…が、来る…。」
「は?」
よく聞き取れなかった。ケイン?何だそれ。危険なのか、それとも安全なのか、この言い方だと分からない。かといって問いただすことも気がひけるので、バリューガは無駄と知りつつ脱出方法を考えた。しかし、いや、当然のことながら、何も浮かばない。
(まいったな…。)
そこでふと何かを感じて辺りを見渡す。セクエの時に感じた気配みたいなものだ。それでも何も見えないので、今度は上を見上げてみると、何かがいた。おそらく人だろう。魔法を見慣れていたバリューガは別に驚きはしなかった。その男はしばらくしてバリューガの前に着地すると、声をかけてきた。
「君たち、こんな所で何をしているんだ?」
バリューガとしては、こんな所にわざわざ飛んでくるこの男にまず何をしているのか尋ねたかった。だが、質問に質問で答えるのもおかしいので、簡単に答えることにした。
「閉じ込められたんだよ。出る方法が分からねえんだ。」
「そこの少女は?だいぶ具合が悪いようだが…。」
「それは、オレにもよく分かんねえんだよ。あんたなら、何か分かるか?」
同じ魔法使いなら、セクエに何があったのか分かるかもしれない。そう思って言った言葉だった。男は、かがんでセクエの体に触れようとしたが、触れる寸前でその手を止めた。眉をひそめている。
「なんか、あったのか?」
「異常だ…。」
(おいおい、いきなり『異常だ』はさすがに失礼ってもんじゃないか?)
「何がだよ?」
男はセクエの様子が信じられないように真剣な表情をしていた。そして話し始めた。
「魔力が、大きすぎるんだ。下手に触ると、その大きさに飲み込まれてしまう。いくら魔力が多いといっても、こんな意識も危ない状態でここまで圧倒できる魔力なんて見たことがない。君は、触っても平気なのか?」
男がバリューガを見て尋ねる。
「ああ。別になんともない。」
「そうか。…とにかく、このままではいけない。かなり危険な状態だ。」
「危険って…?」
「このまま放置すると、魔力が暴走する可能性がある。もしそうならなかったとしても、意識が戻らなくなったり、歩けなくなったりという後遺症が残る可能性が高い。」
男は立ち上がると、バリューガに向き直って言った。
「君は、ここから出られないと言っていたな?だったら、私と一緒に来てくれ。」
「来てくれって、どこへ?」
「私はこの近くの小さな村に住んでいる。今から君たちを連れてそこへ転移する。この子は本当に危険な状態なんだ。急がないといけない。」
男はそれだけ言うと、バリューガの返事を聞かず、呪文を唱えた。
「瞬間転移。」
バリューガが何かを言う暇もなく、三人は転移した。
ーーーーーー
気がつくと、どこかの部屋の中だった。かなり広い。辺りを見渡していると、男が言った。
「ここは私の部屋だ。彼女をそこのベッドに寝かせていてくれ。私はいくつか道具を持ってこないといけない。すぐ戻る。」
それだけ言うと、男は部屋から出て行った。バリューガは言われた通りセクエを寝かせると、男が戻ってくるのを待った。
(にしても…)
バリューガはもう一度セクエを見る。なんでこんなに容姿が変わってしまったんだろう。自分の意識が無い間にセクエに何があったんだろう。
(やっぱり、メトと何かあったんだよな。白い髪も、青い目も、メトと同じだもんな…。オレ、結局何もできてねえな。セクエは頑張ってるのに。)
扉が開いた。本当にすぐ戻ってきたな、と思いながら男を見ると、バリューガは思わず口をポカンと開けてその男に見入ってしまった。何かの医療器具を持ってくるかと思っていたが、男が持ってきたのはただの箱。その中から取り出されたのは、指輪やら、ネックレスやら、装飾品ががほとんどだったのだ。そして、それをせっせとセクエにつけ始めた。
「これ、なんだ?」
思わず尋ねると、男は手を止めずに言った。
「魔力を制御するための道具で、一般に魔道具と呼ばれている。大きすぎる魔力は本人も制御できないことがある。それだと危険なので、このような道具を使うんだ。見た目はただの装飾品だが、効果は間違いない。」
そう言うと男は手を止め、バリューガの方を見た。ふっと笑みを浮かべ、これだけつければもう大丈夫だろう、と言って箱を閉めた。
「まあ、何も知らなければ、遊んでいるように見えるだろうな。…剣使いならば、なおさら。」
「やっぱり、気づいてたのか。」
バリューガはメトの言っていたことを思い出して顔を曇らせた。この人も、剣使いを嫌っているのだろうか。
「まあ、君が本当に魔法使いなら、この子に触れて無事でいられるわけがないからな。…君のことを教えてくれないか。名前は?」
バリューガは答えたくなくて黙った。なんとなく、まだ信用できないのだ。
「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。これは失礼なことをした。私は、アトケインという。シェムトネというこの村で、賢者をしている。見て分かる通り、魔法使いだ。」
バリューガは、何も気にしていないようなアトケインの反応に驚いた。メトの言い方だと、大半の魔法使いが剣使いを怖がって嫌っているように感じたが、そんなことはないのかもしれない。
「ケンジャ、って何だ?」
「ん?…そうか、剣使いにはそういう文化は無いのかもしれないな。いや、そもそもシェムトネ特有の文化なのか?まあいい、賢者というのは村を治める者のことだ。私で二十六代目になる。」
「ふーん、じゃ、村長、ってわけだ。」
アトケインの反応を見ていて、この人は信頼してもいいと思えた。まだ少し不安は残っていたが、バリューガは名乗ることにした。
「オレ、バリューガ。あんたらで言うところの剣使いだ。」
バリューガがそう言うと、アトケインが明らかに驚いた顔をした。何かまずいことを言っただろうか?
「バリューガ…?もしかして、セクエという方をご存知では?」
「えっ、まぁ、知ってるけど…」
(というかそこで寝てるんだけど。)
アトケインはバリューガが自分の知っている人だと分かって感激したようで、目を輝かせて言った。
「そうか!あなたがバリューガ殿だったか!セクエ殿から話を少し聞いている。魔法使いを受け入れているそうだな。分からないかもしれないが、我々魔法使いにとって、その存在はありがたい。お互いに理解し合えれば、昔から続く種族間の争いも終わるかもしれないからな。一度会って話をしたいと思っていたんだ!セクエ殿がいないのが残念だが、剣使いについて、色々と教えてほしい。」
バリューガは反応に困る。そんな風に扱われるとは思っていなかったのだ。それに…。
(だからセクエはすぐそこで寝てるんだって。)
だが、なんだか面白いのでしばらく黙っていることにした。
「なんだよ、その『殿』って。」
「私は、尊敬する人や、身分のある人は『殿』とつけるようにしているんだ。なにせ、賢者をしていると身分というものが分からなくなってくるからな。相手のことを自分がどう思っているのか、いつでも分かるようにしておきたいんだ。」
なるほど、身分が高いとそんなことで困ることがあるのか。アトケインの心がけに感心していると、アトケインはまた尋ねた。
「剣使いは、やはり魔法使いと文化が違うのか?魔法が無いのにどうやって生活していくのか、非常に興味がある。色々と教えてくれないだろうか?」
「色々って…」
バリューガは答えに詰まる。
「…知らねえ。分からねえよ。そんなこと…。」
「なら、故郷のことでも構わない。どんな些細なことでもいいんだ。」
「だから、分からねえんだって。なんにも覚えてねえんだよ。故郷とか、家族とか、そういう記憶は全部抜かれちまってるから。」
自分の過去のことを考えると、いつも、嫌なことを思い出したような気持ちになる。みんなには当たり前に知っているのに、なんで自分は分からないんだろう。メトに捕まらなければ、記憶だってあったはずなのに。
「それは…魔法使いが?」
アトケインは何かまずいことを尋ねてしまったと思っているらしく、顔を曇らせながら言った。
「ああ。ちょっと面倒なことに巻き込まれた。今は多分、何もない。自由…だと思う。」
「生贄、というやつか?」
「それもセクエに聞いたのか?…まぁ、そんな感じだ。今思えば、なんでオレなんかが選ばれたのか分からねえけど、そのせいで、オレは親の顔も、故郷がどこかも分からねえよ。」
アトケインが申し訳なさそうにうつむいた。それを見て、バリューガは慌てて言った。
「あ、なんか、ゴメンな?あんたも魔法使いなのに、そんなこと言っちまって。あんまり気にしないでくれよ?オレは別に、それで魔法使いを憎んでるわけじゃないんだからさ。セクエとなんて、むしろ仲良しなくらいだし、剣使いにだって、良い奴も悪い奴もいるわけだし…」
言葉が続かなくなって、バリューガはまた黙った。アトケインは、いきなり話し始めたバリューガに驚いたのか、バリューガをじっと見つめている。そして、堪えきれなくなったように吹き出して笑った。
「ハハハッ!なるほど、バリューガ殿がセクエ殿と仲良くなれた理由が分かるような気がするな。あなたから見れば、魔法使いも剣使いも同じなんだな。…そんな人には初めて会った。剣使いは、魔法使いを恐れるものだと思っていた。私はずいぶんと視野が狭かったようだ。争いの終わりを願っている私がこんなことでは、争いなど終わるはずもないか。考えを改めなくてはならないようだ。」
アトケインが微笑む。バリューガとしては、魔法使いと剣使いの間には大きな差はないと考えていたので、アトケインが言っていることはなんだかおかしいのだが、とりあえずは笑ってくれたので良しとしよう。
「それにしても、記憶が無いとなると、故郷へ帰すこともできないな…。剣使いのことはよく知らないし、無理に記憶を戻そうとすると体にかなりの負担がかかってしまう。」
アトケインが思案していると、ベッドで何か動いた。セクエが起きたようだ。
「おっ、起きたか。具合は大丈夫か?」
バリューガは起き上がってもまたすぐに倒れてしまうのではないかと心配になって尋ねた。だが、セクエはだいぶ良くなっていて、体を起こして大きく頷くとバリューガに向かって言った。
「うん、もう平気。」
それから装飾品だらけになった自分の体を見て笑って言った。
「ずいぶんジャラジャラとつけられたみたいだけどね。」
すると、自分につけられた魔道具を外し始めた。アトケインが慌ててそれを止める。
「外さない方がいい。また魔力が暴走してしまう。」
しかし、セクエはそれを止めない。それどころか、アトケインに向かってこう言った。
「こんなにつけてたら、魔法が使えないよ。心配しなくても大丈夫。どれが自分に合ってて、効果が高いかは、見れば分かるから。」
それから、アトケインの足元に箱があるのに気づくと、それを拾って自分のつけている物と取り替え始めた。魔道具にも組み合わせというものがあるのか、箱の中から指輪を取り出してつけたと思ったら、それをすぐに外して腕輪をつけたり、両方つけたりしている。最終的に、セクエはほとんど魔道具を身につけなかった。残ったのは宝石の付いてない銀色の指輪が二つ、幅のある腕輪と細い腕輪が一つずつ、それから紫色の宝石の付いたネックレスが一つだけだ。十分多いのかもしれないが、そこはバリューガには分からない。セクエは外した魔道具を丁寧に箱にしまい、それをアトケインに差し出して言った。
「じゃあ、これ、返すね。ほんとに助かったよ。ありがとう、ケイン。」
(ケインって、こいつのことだったのか…。)
セクエは親しみを込めて言っているようだが、当の本人はなぜそんなことを言われるのか分かっていないようだった。
「ケイン…?なぜ、あなたがそんな呼び方をするんだ?」
「えっ?」
何を今さら、とでも言いたげな顔のセクエを見て、バリューガはもうおかしいのをこらえ切れなかった。まさかセクエは自分の変化に気づいていないのか?バリューガは会話の噛み合っていない二人の前で腹を抱えて大笑いした。
ーーーーーー
セクエとしては、何が何だか分からない。なんでアトケインは自分のことが分からないんだろう。そして何より、なんでバリューガはそんなに笑っているんだろう?バリューガはひとしきり笑って満足すると、セクエに言った。
「おい、そんな外見で名乗ったって信じてもらえるわけないだろ?」
やっぱり何を言っているのかが分からない。
「外見?何のこと?」
「気づいてないのかよ?おまえ、何があったのか知らねえけど、まるで別人だぜ?鏡見てみろ。」
セクエはキョロキョロと辺りを見た。鏡はこの部屋には無かったが、窓のガラスに自分の姿が映っていた。そこにいた自分は、明らかにセクエの知っている姿をしていなかった。
まず、髪が伸びている。確か、自分の髪は肩のあたりまでだったはずだ。しかし、今ではずいぶん伸びている。いや、そんなものではない。正座をしたら髪が床に当たりそうなほど伸びている。思わず髪に手を当てて見てみると、その色にも驚いた。真っ白だ。
「えっ…」
(何がどうなってるの?)
しばらく考える時間が必要だった。ようやく思い当たることが見つかり、バリューガに確認する。
「もしかして、私の目って、青い?」
「もしかしなくても青い。おまえ、ホントに気づかなかったのか?」
悔しいが、気づかなかった。だが、原因は分かった。
「そっか、メトに合成魔法を使ったから、魔力だけじゃなくて体も合成されちゃったのか。そこまで考えてなかったな…」
ブツブツと呟いて、それからアトケインが話題について来れていないと思って説明した。
「変な言い方するけど、私は間違いなくセクエだよ。それから…えっと…この格好は、メトっていう人を合成魔法で合成して、それで、その人が青い目に白い髪をしていたから、こんなことになってるんだけど…」
アトケインを見る。全く信じてもらえていない。どう説明したら分かってもらえるんだろう。
「すまないが、私には記憶が混乱しているとしか思えない。本当にセクエ殿だといえる証拠は、何かあるのか?」
「証拠…ほら、これでいいでしょ。」
セクエは自分のネックレスを見せた。これは母が残してくれた物で、同じものは一つとして無い。これなら証拠になるはずだ。アトケインはしばらく考え込んでいたが、もはや納得するしかないと思ったようで、仕方なさそうに言った。
「…なるほど、確かにあなたはセクエ殿で間違いないようだ。だが、なぜそんな姿になってしまったんだ?今の説明では、よく分からない。」
「それはオレも知りたいな。やっぱり気になるし。」
この反応にはセクエも困った。何から説明したらいいのか分からない。やはり最初から話すしかないのだろうか。
(まあ、仕方ないか。全部知ってるのは私だけなんだから。)
セクエは、とりあえず一番古いことから話し始めた。
ーーーーーー
この村、シェムトネに、昔、二人の男がやってきた。一人は若く、一人は老人だった。若い男と老人の名はそれぞれ、メト、ゲイウェルといった。二人は旅人で、なおかつとても優れた魔法使いだった。特にメトの魔力は村の誰のよりも強かった。村人の中には、メトに魔法を教えてもらう者もいた。二人は村に留まって、しばらくその村で生活することになった。
しかし、ゲイウェルはメトには使えない力を持っていた。ゲイウェルはそれを特に隠そうとはしなかった。だから、村人の誰かがうっかり使ってしまった危険な魔法を見たとき、その力を使って被害を抑えた。ゲイウェルは、魔法の力を無効化し、打ち消すことができたのだ。ゲイウェルとしてはこの力は村人を守るための当然の手段であり、別に特別な考えがあって使ったわけではなかった。だが、村人の反応はそうではなかった。
その力を見た村人は、初めて見るその力に感激し、ゲイウェルを深く尊敬した。村人の誰もがゲイウェルに村に留まることを求め、気の弱いゲイウェルは村人の頼みを断れなかった。村人はゲイウェルの力を大いなる賢者、大賢者の力と呼んで崇めた。ゲイウェルはこの結果を招いた自分の力を嘆いた。だが、メトはそれ以上にその力を憎んだ。そしてゲイウェルを憎んだ。
メトがその時何を思ったのか、もはや誰にも分からない。だが、考えてみれば当然の結果といえた。メトはゲイウェルがその力を使ったばかりに、今まで魔法の使い方を教えてきた村人全員から、ほとんど無視されるような扱いを受けることになったのだ。そして、今まで村人たちからは目を向けられなかったゲイウェルが今度は魔法を教えている。さらに、ゲイウェルがこの村に留まることを選んだがために、今まで通りの旅をしながらの生活ができなくなってしまったのだ。メトの恨みは深かった。
メトは、ゲイウェルの力をはるかに上回ることができれば、今まで通りの生活に戻れると信じた。その目的のために、メトはある魔法を使った。その魔法を使うとどうなるか、メトは深く考えていなかった。その魔法が何の魔法だったのか、それを知る者はいない。だが、メトはその魔法によってさらに強力な魔力を得た。メトはこれで村人たちが自分を無視するようなことはなくなると思っていた。
だが、現実は違った。村人は、その大きすぎる魔力に恐れを抱き、状況はよりひどくなるだけだった。メトは村人を恨み、ゲイウェルを恨んだ。ゲイウェルはこの悲惨な事態を引き起こしてしまったことに責任を感じ、村人に頼まれ、仕方なくメトを村から少し離れた地に封印した。そこは村からよく見える場所だった。こうすることで、村人たちにこの記憶を残そうと考えたのだ。そしてゲイウェルは、自らの魂を自分の日記に封じ込め、いつかメトが復活した時にまた止められるように備えた。
メトは長いこと眠り続けた。封印されている間、メトは歳をとらなかった。次に目覚めた時、メトは自分の置かれた状況をすぐに理解し、封印を破壊するためにさらなる力を求めた。その力を得るため、メトは魔法によって人工的に魂を作り出した。そしてその魂を外の世界に放し、人間の体を使って魔力を蓄えさせた。セクエはその魂の中の一つだった。
セクエは本来ならメトの命令通りに魔力を奪われ、命を終えるはずだった。しかし、セクエはそれに逆らい、メトを止めようとした。しかし、メトの恨みは今もなお深く、セクエは止めることができなかった。かといって殺すこともできないセクエは、合成魔法を使ってメトをその身に取り込み、メトを殺すことなく戦いを終わらせた。メトを合成した影響で、髪と目はメトと同じように色が変わり、髪はメトの寿命に合った長さに変わった。
ーーーーーー
「と、いうことだと思う。」
セクエは曖昧に言った。はっきりとしたことは分からない。何の実験もしていない、おそらく前例も無い魔法を使ったのだ。何が起こるかはセクエでも予想できなかった。
「なあ、セクエ。」
バリューガが言う。
「別に言ってることを信じてないわけじゃないけど、お前が生まれるより前の話だよな、それ?」
「うん。そうだね。」
バリューガが少し首をかしげてから続けて言った。
「…なんでそんな昔のこと知ってんだ?」
「確かにそうだな。バリューガ殿の言う通りだ。シェムトネの歴史書にはそんな細かいことは載っていなかった。どうしてセクエ殿はそのことを知っているんだ?」
セクエは当然のように答えた。
「だって、私はメトから作られたんだよ?だから記憶の一部も共有してるんだ。それに、今のこの体はメトの体でもあるからね。メトの記憶がほとんどそのまま体に残ってるんだよ。」
この言葉に対する二人の反応は対照的なものだった。
「そうか…なるほど。」
と納得するアトケインに対し、バリューガはやはり首をかしげたまま、
「全ッ然分かんねえ。」
と言っている。まあ、魔法を知らないのだから仕方ない。
「バリューガには、後で分かりやすく説明するよ。」
セクエはベッドから立ち上がっていった。
「で、これからどうしよう?」
「そうだな…ひとまず、バリューガ殿の事情は分かっている。このままここで暮らすのが良いと思うのだが、バリューガ殿はそれでもいいか?」
「ああ。むしろここに置いてくれた方がありがたいや。知り合いなんていないからな。」
アトケインが頷く。
「それで、部屋だが、二人はあまり離さない方がいいだろう。セクエ殿の隣の部屋を使ってくれ。そこなら、私の目も届くからな。」
セクエはアトケインの言い方が少し気になった。
「離さない方がいいって、どういうこと?」
アトケインはセクエとバリューガの顔を交互に見ながら答えた。
「バリューガ殿の知り合いは、とりあえずセクエ殿しかいないんだろう?だったら、無理に引き離さない方がいいということだ。それに…バリューガ殿を怪しいと思っているわけではないのだが、セクエ殿とよく似た魔力を感じる。」
「それって…」
ありえないことだ。剣使いは魔力を持たない。だからこそ魔法を使えないというのに。
(バリューガが魔力を持っている?それも私と似ている…ということは。)
「メトに入れられた分が、まだ抜けてないんだ。」
セクエは呟く。バリューガが心配そうに尋ねてくる。
「それって、何かヤバいことなのか?」
安心させようとしてアトケインが答えた。
「いや、大した問題ではないだろう。だが、剣使いがどういうものなのか、私はよく知らないからな。どんな影響があるのか、私には予測できない。大丈夫だとは思うが、念のためだ。」
それでもバリューガはまだ不安そうな顔をしていた。このまま会話を続けていてもバリューガは安心できないだろう。そう思って、セクエは言った。
「とりあえず、色々あってまだ落ち着いてないと思うし、自分の部屋に行ったら?」
「ん?あ、ああ。」
セクエはわざと少し笑ってからかうように言った。
「片付けが必要だったら呼んでね。私の時なんて、ホコリだらけで散らかってて、それはそれは大変だったんだから!」
「せ、セクエ殿っ!もうそんなことはしない。あれは…少し考えないで言っただけなんだ。バリューガ殿の部屋は管理が行き届いている、はずだ。」
そのやり取りを見ていて、バリューガもなんだか落ち着いてきたらしく、かるく笑うと、片付けくらい一人でやれるさ、と言って部屋に入っていった。
「…すまない。気を使わせてしまって。」
バリューガがいなくなって静かになるとアトケインは言った。
「気にしないでよ。ケインが剣使いに慣れてないのは当然なんだから。…バリューガは、これからどうするの?村の人たちにいきなり会わせるのは危険だし、かといってずっと外に出さないわけにはいかないでしょ?」
「そのことなら考えてある。もうじき行われる魔力祭でみんなに紹介しようと思っているんだ。その時なら、みんな祭で盛り上がっているだろうから、剣使いを見てもそれほど怯えはしないだろう。」
「魔力祭?」
セクエは何のことだか分からずに首を傾げた。アトケインが呆れたように言う。
「忘れたのか?セクエ殿が私の代わりに競技大会に出てくれると言ったではないか。」
セクエはようやく思い出した。思えば祭の名前を聞いていなかったのだ。魔力祭だけでは分からないのも当然。そう自分に言い訳をした。
「ああ、その祭ね。」
「あの時からまた何日か経ったからな。だいたい来月くらいに行われる。今出られないと言うなら、それは仕方ないからいいのだが、どうなんだ?」
「私は大丈夫だけど…」
「だけど、どうかしたのか?」
セクエは少し困った顔をして答える。
「この外見と名前じゃ、村の人たちが怯えないかな?」
セクエとしてはそれだけが心配だ。この村には白い髪の人はほんの一握りの老人だけだ。さらに、分かる人ならセクエというその名前だけで数年前に姿を消した子供だと見当がつくだろう。下手をすると自分だけでなくアトケインにまで非難の目を向けられかねない。
「髪の色なら大丈夫だ。この祭は本当によく盛り上がる。魔法で外見や声を変える人もいるし、髪の色を変える人もいる。そんなに目立ちはしないだろう。」
「じゃあ名前は?」
「匿名にすればいい。セクエ殿はまだ子供だし、さらに賢者代理となると、注目の目も集まりやすい。名前を出して騒ぎを起こしたくないということにすれば大丈夫だ。」
セクエはもう一度頭の中で確認する。名前が知られず、さらに髪の色も気にしなくていいのなら、それで大丈夫そうだ。
「それから、競技大会では守らなければならない決まりかいくつかある。まず、浮遊魔法は使用禁止だ。これは、浮遊魔法が使える人と使えない人では使える方が圧倒的に有利だということから設けられている決まりだ。それから。」
アトケインは少し間を置いてから言った。
「使える魔法は一種類だけだ。」
「一種類って、一つだけってこと?」
「いや、そうではない。同じ系統の魔法しか使えない決まりになっているんだ。炎なら炎、風なら風、雷なら雷、それ以外の魔法を使ってはいけない。例えば、もし風魔法を選んだなら、風や竜巻を起こす魔法は使っていいが、火炎魔法や氷魔法は使えない。さらに、風とその他の魔法の合わせ技も使用できない。」
うーん、とセクエはうなる。これはなかなか難しい。今まで魔法を系統で分けて考えたことはなかった。なるほど、こんな決まりがあるならアトケインが代理を頼むのも当然だ。魔法製作の力を持たない彼は、一つの系統の魔法しか使えないとなると、同じ魔法を何回も繰り返すことになる。それでは観客は喜ばない。
「それって、自分で決めていいの?」
「ああ。自分が最も得意とするものを選んでいいことになっている。」
「そっか…うん。なんとかなりそう。練習できる場所ってある?」
「そうだな…大抵の人は村から離れた森の中で練習することが多い。自分がどの系統を選んだかは秘密にしておいたほうがいいからな。」
「そう、じゃ、今から行ってこようかな。」
アトケインは驚く。セクエがまた壁を抜けようとしているのが分かったからだ。思えば、セクエは賢者の館の出入り口を使ったことがない。アトケインはセクエを止める。
「ちょっと待て、その格好で行くつもりなのか?」
壁を抜けるのはいいとしても、その長い白髪をそのままにしていくのは目立ちすぎる。
「髪の毛くらい隠していかないと、祭が来る前に村人の注目を集めることになるぞ。」
アトケインはそう言うと帽子を持ってきてセクエに渡した。真っ白な毛糸で編まれた帽子だった。
「もらい物だが、これはセクエ殿に譲ろう。ちょうど白いし、髪もうまく隠せるだろう。それに、外もだいぶ寒くなってきたしな。」
言いながら、自分はなぜこんな父親のようなことを言っているのだろうと恥ずかしくなってきた。セクエが姿を消して壁をすり抜けると、その思いを振り払うように頭を振って、魔道具の箱を片付けるために部屋を出た。
ーーーーーー
バリューガは、とりあえず部屋に入り、特にすることもなくだらだらしていた。部屋は綺麗に片付けられている。セクエの心配は無駄だったようだ。部屋の中には、まず中央に机と椅子、窓ぎわにベッドがあった。
窓は開けられるようになっていて、外を見てみると何人かの人が見えた。なんとなく見られてはいけないような気がして、慌てて窓を閉めたが、そうなると、この部屋には本当に何もないので、やることに困る。
(それにしても、なんなんだろうな…セクエと賢者さんから感じる気配…。)
それが『魔力』というものなのだろうか。だとしたら、なぜ剣使いである自分にそれを感じることができるのだろうか。
(やっぱり、魔力があるから、なのかな…。)
自分の中には魔力がある。あるといってもそれを使って魔法を使うなんて芸当はできない。だが、その魔力が自分に魔法使いの存在を教えているのかもしれない。
(魔力があるせいで変なことにならないといいけど。)
もう一度部屋の中を見渡してみる。さっきは気がつかなかったが、机の下に何か落ちていた。
「指輪?これも魔道具なのか?」
赤い石のついた小さな指輪だ。とっさに拾い上げようとしゃがみこんで指輪に触れた、その瞬間。
バチッ、と何かが弾けるような大きな音がして、バリューガは驚いて手を離した。指先がチリチリと痛む。
(なんなんだよ?これ。)
この指輪は魔力を制御するためものではないのだろうか。
とりあえず賢者さんを呼んでみようか。そう思っていると、向こうから声をかけてきた。
「バリューガ殿?何か音がしたようだが、大丈夫か?」
「ああ。ちょうどいいや。ちょっと来てくれよ。」
アトケインが部屋に入ってきた。セクエは一緒ではなかった。まあ、一緒じゃなくていいのだが。
「これ、なんだ?」
アトケインはバリューガが見つけた指輪を拾い上げて言う。
「これは…ただの制御用の魔道具だな。これが、どうかしたのか?」
「いや…それに触ったらバチっていってさ。壊れてるんじゃないかと思って…」
ふむ、と、アトケインは指輪を眺めた。
「別にそんな様子は無いようだが…?」
「えっ…そんなはず無いんだけどな…。」
確かに様子がおかしかった。これが制御用なら、セクエがつけているのと大した差はないはずなのだが、それがなぜかバリューガをはねのけたのだから。いや、そもそもなんでアトケインは触っても大丈夫なのだろう?
「バリューガ殿。悪いが、もう一度触ってみてくれないか?」
アトケインが言う。冗談かと思ったが、どうやら本気のようだ。
「この魔道具に不備があるなら、修理しないといけないからな。」
「まあ、そういうことなら…」
バリューガが右手を出すと、アトケインがその上に指輪を乗せた。すると、やはりバチッという大きな音が鳴った。それと同時に手のひらに刺されたような鋭い痛みが走り、バリューガは指輪を放り投げて手のひらを押さえた。
「いってぇ…」
「バリューガ殿!大丈夫か?」
アトケインが手の様子を確認しようとバリューガの手に触れた。だが、アトケインが触れたところからまた痛みを感じた。いや、今度は痛みというより違和感と行った方が正しかったかもしれない。バリューガはすぐさまアトケインの手を払いのけたが、違和感は残ったままだ。締め付けられるような痛みがじわじわと手首、肘へと広がっていく。見えない蛇に締め付けられているようで気持ち悪かった。
やがて痛みは肩にも届き、バリューガは耐えきれなくなってその場に座り込み、肩を押さえて目を閉じた。痛みは広がり続けている。肩へ到達した痛みは首、左手、そして下半身の三つに分かれてバリューガを締め付けた。
(オレ、今どうなってんだろ…。)
怖かった。痛みは別にそれほど強くはないのだが、なぜこんなことになったのかが分からない。もし、このまま痛みが消えなかったら?そう思うと、体だけでなく胸までもが締め付けられるようでやはり怖かった。
幸いと言うべきか、痛みは全身に広がった後、嫌になるほど長い時間をかけて収まっていった。痛みが完全になくなった後も、バリューガは恐ろしさで動けなかった。体がわずかに震えている。
(情けねえな。)
「バリューガ殿、大丈夫か…?」
アトケインが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、大丈夫。悪いな。」
「そんなことはない…!」
思いがけずしっかりとした返事が返ってきて、バリューガは少し驚いた。
「賢者さん?」
「悪いのは私の方だ。もう少し現状が分かっていれば、こんなことをしなくても済んだ。本当にすまない。…苦しかったのだろう?」
アトケインが不安そうにバリューガと視線を合わせてくる。
「いや、別に苦しいってほどじゃ…」
そこから先は言葉が続かなかった。確かに体は苦しくなかった。だが、精神的にはどうだっただろう?自分は恐怖に押しつぶされそうだった。苦しいといえる状態だったのは間違いない。
「バリューガ殿。これから言うことをよく聞いてくれ。あなたがこの村で生活するにあたって、非常に大切なことだ。」
アトケインが改まって言う。これはきっと自分の魔力に関することだ。直感的にそう思った。
「バリューガ殿は、これから魔法使い、及び魔力を持つものに触れてはいけない。」
「…は?」
アトケインは続けて言った。
「バリューガ殿の体には今、あなたが制御できる限界の量の魔力が入っている。そこまでは分かるか?」
「あ、ああ。」
「もし仮に、その魔力が制御できなくなると、それはつまり、魔力が暴走するということだ。あなたの魔力はすでに限界寸前。だから、その魔力に刺激を与えると、すぐに暴走してしまうんだ。」
「じゃあ、今のは…」
「魔力が暴走した時に現れる症状だった。幸いにも、こうしてそばにいるだけでは何ともないようだから、普段の生活では困ることはあまり無いとは思う。」
「ちょっと待てよ。オレは、セクエに触った時は平気だった。それは何でだ?」
アトケインは少し悩んでいたが、それでもきっぱりとこう答えた。
「バリューガ殿の魔力は、セクエ殿のものとよく似ている。だから、むしろセクエ殿の魔力はバリューガ殿の魔力を安定させるのかもしれない。」
「…オレの中には、そんなにたくさんの魔力が入ってるのか?」
「いや、魔力自体はそれほど多くない。むしろ少ないくらいだ。だが、バリューガ殿は制御できる魔力が少ない。だから、少しの魔力でも暴走させてしまうんだ。」
アトケインがうつむいて続けた。
「本当にすまない。何の知識もなくて…もう少し、力になれたらいいのだが…。」
「気にすんなよ。魔力がうまく扱えないのは、オレが剣使いだからで、賢者さんは何も悪くないんだから。」
バリューガはそう言った。すべての魔法使いが駄目というわけではない。少なくともセクエとは今まで通り接することができるなら、今はそれで十分だった。
(そのうち困ることが起きたって…きっと何とかなるさ。賢者さんだって何とかしようとしてくれてるんだから。)
そう思うと、なぜか嫌な気分にはならなかった。
ーーーーーー
セクエは全速力で飛んでいた。村に残してきたバリューガはまだ少し心配だったが、それでも急いで村から出たのには理由があった。
セクエは今、学舎へと向かっていた。自分とバリューガは脱出できた。だが、他の器たちは?あの時はどうなったかを確認する暇はなかったが、もしまだそこにいるなら、急いで助けださなければならない。学舎はいつ崩れるか分からないのだから。
ようやく学舎に到着したが、そこは見るも無残に崩れていた。周囲を取り囲む崖はどれも崩れ、中央付近の地面には大きな穴が空いていて、どこにも人の気配は無い。セクエは飛び回って学舎中を探し回ったが、結局誰一人として見つけることはできなかった。
セクエはうなだれながらも何とか気を取り直し、村に帰った。その途中でふと人の気配を感じ、そこへ近寄ってみると、そこに器たちがいた。
(よかった、無事だったんだ…!)
もう少し近づこうとしたが、そこで彼らの中に数人の大人が混じっていることに気づく。おそらくはこの人たちに見つけられて助けてもらったのだろう。もうこれ以上彼らにつきまとう必要は無さそうだ。そう思ってセクエは安心して村へ向かった。
(でも…なんでこんな所に人がいたんだろう。この辺りは一面が森で、近くに人の住む所なんて無いはずなのに…。)
あの大人たちは何をしていたんだろう。そんな疑問がふと頭をよぎったが、セクエは気にせず村に帰った。
ーーーーーー
セクエは村の近くの森に着地すると、辺りを見渡し、誰もいないことを確認してから帽子をとり、座り込んだ。少し急ぎすぎていたかもしれない。かなり疲れていた。息を整えながら、セクエは競技大会で使う魔法を考えた。
(やっぱり氷魔法かな?)
氷魔法はナダレと一緒にいた時によく使った魔法だ。使い慣れているし、さらに使い勝手がいい。氷は様々な形に変えることができるからだ。
(でも、それじゃあちょっとありきたりな感じがするな…。)
セクエは、できるだけ誰も使わないような魔法を使いたかった。もしくは難易度の高い魔法でもいい。なにせ賢者の代理なのだ。みんながあっと驚くようなことをしてみたい。
「よしっ、決めた!」
この魔法は今まで使ったことがない。やや魔力の消費も大きく、戦いには向かない魔法だ。だが、それだからこそ腕の見せ所がある。
セクエは立ち上がる。風が吹いてセクエの長い髪をなびかせた。セクエは目を閉じる。魔力を集中させ、呪文を唱えた。
「フィオウラ!」