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一人ぼっちの魔法使い  作者: 星野 葵
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プロローグ

「氷の魔法使い」の続編です。前作を読んでから見ることをお勧めします。

昔、村にある魔法使いがいた。彼は人並みの魔法を使うことができたが、それ以上に変わり者として村では有名だった。


彼は本が好きだった。多くの本を読み、そこから新たな魔法の知識を得た。生まれ持った魔力量は他の人より劣ったが、その知識で補っていた。だが、彼は本が好きすぎた。物語の世界に入り込み、精霊や怪物などといった伝説を本気で信じていた。そのせいで、村の誰もが彼を笑い、馬鹿にした。


まだそんなものを信じているのか。もう子供じゃあるまいし。


そんなことを言う村人を無視し、彼はいつか伝説の生き物たちが自分を、そして村を守ってくれるのだと信じ続けた。


ーーーーーー


「まったく、どうして僕の言うことを誰も信じてくれないんだ?物語の中には、あれほどまでに細かく、精霊や怪物の容姿が書かれているというのに、その存在を誰も信じないなんて…」


彼は、村人に自分の主張を言いにいったあげく、結局誰にも分かってもらえず、とぼとぼと家路についていた。


彼からしてみれば、村人の方がよほど信じられない。本当に存在しないのなら、どうして本にはあんなにも細かい説明が書かれているのだろうか?答えは一つだ。本物がどこかに存在する。それ以外にない。


彼は家へ帰った。狭い家だ。部屋は無く、扉をくぐるとすぐ目の前に仕事用の机と椅子、そしてその奥に布団が敷かれている。床はきれいにされていたが、窓のふちにホコリが積もっていることから、彼はあまり掃除が好きではない。壁が薄いため、冬は寒く、夏は暑い。お世辞にも住み心地が良いとは言えない部屋だった。


やがて夜になり、彼は布団の中に潜り込む。彼は信じ続けていた。いつか精霊の力が必要になった時、その存在を信じる自分には、その力を扱うことができるはずだと。だが、こんなにものどかな村で、そんな大きな事件が起こることなど、ほぼほぼ無かったのである。


彼がようやく眠りについた頃、その眠りは外から聞こえる慌ただしい音でかき消されてしまった。村人の声が聞こえる。何か叫んでいるようだった。


(一体何事だ?)


慌てて起き上がると、布団をたたむより前に、バタン、と大きな音がした。驚いて振り向くと、そこには大柄な山犬がいた。 普通なら、人里には近づかないどころか、山で偶然出会った時でさえ逃げ出すほどの臆病な性格のはずなのだが、かなり興奮しているようで、彼に向かって唸り声をあげている。今にも飛びかかってきそうだ。外から村人の声が聞こえる。


「おーい、早く逃げろ!かみ殺されるぞ!」


(そんなこと、今さら言われても…)


この家には入り口が一つしかない。その入り口には問題の山犬がいるので通れない。後ろに窓が一つあるが、この窓は開かないようになっているので、そこから外へは出られない。絶体絶命だ。


外からは明かりが見えた。おそらく村に迷い込んだ山犬を松明で追い立てていたのだろうが、何かの間違いで山犬がこちらに逃げてきてしまったのだろう。本当に運がない。


(そうだ、こんな時こそ、精霊が私を助けてくださる…!)


彼はこんな時でもその可能性を諦めなかった。


「尊き精霊よ!どうか我が身をお守りください。その存在が確かにあるのなら、今こそ、あなたを信じる者にご加護を!」


手を合わせて、まるで子供がするように願った。しかし、いや、当然というべきか、そんなものは現れない。山犬は何も起こらないと分かると、机を飛び越えて彼に襲いかかった。彼はとっさに腕で顔をかばった。しかし、山犬は一向に噛み付いてこない。恐る恐る目を開けてみると、そこに目を疑うような人影があった。


彼と同じくらいの年の青年が、山犬の前に立って彼をかばっていた。それが人間でないことはすぐに分かった。体全体から淡く緑色の光を発していたからだ。山犬はしばらくその人影に向かって唸っていたが、やがて落ち着き、唸るのを止めた。人影はおとなしくなった山犬の頭にそっと手を置いて、撫でた。それはまるで信頼しあった飼い主と飼い犬のようなやりとりだった。


しばらくその光景に呆然としていた彼はハッと我に帰り、その人影に話しかけた。


「も、もしやあなたが…精霊、なのか?」


その人影は首を縦にも横にも振らなかった。やがて村人が家の様子を覗きにやってきた。村人はその人影に驚いて、しばらく見ていた。人影は、しばらくその姿を村人の前にさらすと、煙のように消えた。村人たちは騒然となった。


「み、見たか?みんな!」


彼は興奮した面持ちで言った。


「精霊だ。本当にいたんだ!私の言っていたことは正しかった!」


ーーーーーー


その日を境に、彼は精霊をいつでも呼び出すことができるようになった。彼のその力は村じゅうで話題になった。彼はその力から『召喚者』と呼ばれた。彼はやがて村の娘と結ばれ、一人の子を授かった。そして、彼はやがて年老いて死んだ。


それからしばらく経って、村ではある病が流行った。その病を治そうとありとあらゆる手が尽くされたが、治すことはできなかった。やがてある人が彼の家族の元へ行って頼んだ。彼の使っていた力を使って、なんとか病を治してもらえないか、と。しかし、出てきた人はこう答えた。


「精霊?何を言っているんですか。そんなものがいるわけないじゃないですか。子供みたいなことを言わないでください。」


それ以来、村で召喚者は一人も現れていない。

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