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第十四章:迷路 後編

 おかしい。


 小休止の後も順調に歩を進め、なにかあるはず、と、目測を立てていた積荷の仮置き場の様子に、俺は首を傾げてしまった。

「どうした?」

 千鶴も、俺の様子から予想外の事態が起こったと気付いたのか、路地から顔を出さないようにしつつも――、いや、左記の通りへの好奇心は抑えられない様子で、背伸びしながら訊ねてきた。


 目の前の荷物の仮置き場――、いや、今は、荷箱がひとつもないので、ただの広場にしか見えないが、そこにはこれ見よがしに屈強そうな男が十人程配置されていた。

 憲兵の黒い制服ではない。

 遠目には作業員にも見えそうな灰色の制服を着ているが、遠目にも良く映える朱と蒼の意匠の肩飾りが左肩に乗っている。

 武装は拳銃が主で、小銃――いや、騎兵用の短銃身を持ったものが二名。

 広場へ出てくる人間を警戒しているが、捜索に出る気配は無い。

 待ち伏せ組、だ。


「ああ……、うむ」

 曖昧に俺は返事をして、少し状況を整理してから口を開いた。

「あの場所に、あれだけ兵隊を配する意味が分からないだけだ」

「なにを言ってる? 目の前の船着場へ、あれでは行けぬではないか!」

 苛立った声を上げる千鶴に、首をゆっくりと横に振ってから俺は答えた。

「抜けられるんだ」

「え?」

「目の前の荷物の仮置き場――、今は、広場のようにしか見えないが、あそこに誘い出すには、封じていなければいけない道が塞がっていない。それに、これ見よがしに兵を置いては、他の道を通ってさっさと進めといっているようにしか思えない」

 そう、だからこそ俺は、他の道を封じて誘い込む、もしくは、無人を装って進入してきたところで四方から、という状況を想定していた。

 しかし、その予想が外れた。

 数で押すには不十分な作戦で、罠だとしたら網の目が随分と粗い。敵が余計に見え難くなってきた。

 ずぶの素人なのか……いや、最終的には、補給船の元へと向かうのだから、そこを押さえれば――国際問題になるんだよな。岩倉家の価値と、日英同盟を維持した形での対米戦略の重さを比べれば、掛け値なしに後者が勝つ。

 密航予定の船に対する買収工作……、時間的に、微妙なところだな。

「……細い路地に誘いたいなら、確かに悪い手でもない、が――、実際、路地で追い詰められるのも不味い状況ではあるが、……しかしそれでは、数の利を活かしきれぬしな。路地の出入り口を全部塞ぐのは――、確かに可能かもしれないが、埠頭が稼動し始めれば、幾らでも抜けられる」

 今考えられる可能性としては、路地によっぽどの必勝条件を備えて待ち構えている、ことだが……。

 いや、逆なのか?

 勝算があるから路地に誘い込みたいのではなく、今回の筋書きを書いた人間にとっては、人目につかない場所でこちらに接触することが目的なら、理に適っては……。


「どうする?」

 千鶴が、不安なのか、急かすように尋ねて来た。

「いずれにしても、抜けなければならないんだ。迂回して抜けてみよう」

 終着点はもうすぐ。

 多少の想定外は、むしろ、発生するのが普通だ。

 俺は、謎を解くことを優先し、敢えて、向こうが残していた露骨に誘っている路地の道を選んだ。

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