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第五話 もう一人のシキ

「あー!お前さっきの!」


「!」


 こちらを指さしながら大声でそう言った他と比べて対して警戒がなく小さめの男性。

よく見れば、その男性は私がここにきてから一番初めに会話(と言いうよりかは相手が一方的に話を進めとりあえず頓所内に私を連行)した人で、その人が幹部の集まるこの広間にいた事実に私は思わず頭を抱えた。


 あの警察の人にはあるまじき対応の人が、まさかの幹部なのだ。頭の一つも抱えたくなる。


「平助、お前の知り合いか?」

「違うよ。こいつが頓所の前うろついてたから迷子か総司に用かと思って入れたんだ。」

「でも、その子は平助やほかの子よりは、頭は凄くきれるんじゃない?だって平助を小馬鹿にしてる感、顔にでてるし。」


 ちょっとばかし体が大きめで肩より少しながい髪を斜め右後ろに結う男性と今朝の人がする会話に、ただずっと警戒をしている人のうちの一人が、そう口にした。

 まっすぐで長い髪を結っていて大人しそうなのに喋るとどこか人を試すような、なんだか胸糞むなくそ悪い口調のその人は、私を品定めするように見つめる。


「人を見る目が子供の目じゃないから、尚更だけど。」

「総司、もうその辺にしておけ。近藤さんが泣く。」

「え。なんで泣く必要が?」


 総司(?)さんの質問に、土方さんは周りを見ながら言う。


「こいつはその辺の一般人じゃなく、近藤さんの身内だ。…まぁ、娘ってことだ。」

『えぇ⁉』

「こ、近藤さんの娘⁉」

「あ、あぁ。母親の方が亡くなって一人にするのも心配なんで来させたんだ。」

「…似てない、ですね。」

「ははは。」



 この目、嫌いだ。

こちらを物珍し気にみる目。似てないと何度言われたことか、考えたらだしたらきっと死ぬまで囚われるだろう。

 まぁ、孫じゃなくて娘ならそうなるか。


 私の外見は、普通じゃないってお医者様から言われてたもの。


 少し顔を俯けてじっと床を見つめ動かない私に、何を思ったのか誰かが私の頭に手を置いた。

 見上げた先にはどこかで見たことのある人の顔。


 その人は、にっかり笑ってガシガシと手荒に頭を撫でた。


「い、いたっ。痛いです!」

「お、喋った。会話ができるならあながち嘘じゃねぇな。」


 馬鹿にしてるなこの人。


「んじゃ、まず名前から。」

「……詩祈です。苗字は母の方からで幸咲華ですが。」

「シキ、か。うちにも同じ名前のいたよな。土方さん大っ好きな奴。」

「いますね。ま、僕はあの子よりはこの子の方がいいですけど。」

「そういってやるな。あの娘もこの娘とたいして年齢が違わない。多少あれなのは、子供故だろう。」


 私と年齢がかわらない、女性の中でも強い人…。

土方さん大好きなのは異常に思えるが、それ以外はその辺の子と変わらないのか。


 …なれ合いは無用だ。


 いつの間にか自席につく土方さんは無表情だが、あの平助と呼ばれた男性が地味に私を見ていた。


「…なにか。」

「あ、否さ、お前女の子だったんだなって。」

「初めから、坊主と呼ばれて返事はしてませんよ。」

「そ、そうだな。…あ、座れよ。」

「……。」

「遠慮すんなって。」

「…では、失礼します。」


 隣に音もなく座りただじっと床を見続ける。

これが、一番落ち着くのだ。なにも考えないことが私の休憩。


 山南さんは、警戒しないでやれというけれど、間違いだ。

私が彼らを警戒するのではなく、彼らが警戒するのだ。まるで、生まれて間もない子猫の様に。

 まぁ、この隣の男は全くの別だが。


「そうだ、名前!まだ名乗ってなかったな。」


 のんきにもそう笑うその人は、私のこの冷たい目線なんて気づくどころか眼中にすらないのだろう。その素晴らしき能天気さを是非ともわけてもらいたいものだ。


「俺は藤堂平助とうどうへいすけ!一応、これでも八番組組長なんだぜ。」

「へぇー…。」

「き、興味無さげだな…。」

「多分、平助だからじゃない?馬鹿だし。」

「んなっ!?」


 話に割り込んだ男性は、私を見て頬杖をつきながら笑顔で言った。


「詩祈さん…でしたっけ?僕は沖田総司おきたそうじといいます。隣の堅物は一ちゃ……斎藤一さいとうはじめで、そこの四人は、右から順に原田左之助はらださのすけさん、永倉新八ながくらしんぱちさん、武田観栁斎たけだかんりゅうさいさん、たに三十郎さんじゅうろうさん。あとは、左にいる二人が井上源三郎いのうえげんざぶろうさんと松原忠司まつばらちゅうじさんです。」


 長々しい紹介が確かに私の頭の中に書き込まれていく。

それは、紹介の終わった後も続いた会話を耳に入れながらも続いていく。


「総司、あんまり一気に言ったら流石に頭がいっぱいになっちまうだろう?」

「え、でもちゃんと教えとかなきゃダメでしょう?」

「お前じゃないんだから。ったく。」

「すまねぇな。悪気はねぇんだ。ゆっくり、覚えてくれりゃいいからな。」


 永倉さんは案外人に注意を言ってくれる人、原田さんは見た目通り大人びていて、谷さんは意外にも優しい人か。

 私は、彼らを見たのち、ちらりと勇さんを見る。

笑って頷いたので、これは言っても平気なのだろうと考えを巡らせる。


「大丈夫です。全員、覚えました。」

「…全員を、今?」

「はい。」

「え、否、じ、嬢ちゃん?そりゃ笑い話か?」


 …ここの奴らは、皆失礼な奴しかいないのだろうか。

谷さんの言動にそんな冷めた考えがわいた時、松原さんがクスリと笑って見せた。


「谷さん、それは失礼というものですよ。」

「う…わ、わかっちゃいるが……なぁ?」

「…世の中は広い。記憶力のいい若者はいくらでもいるだろう。」

「それは……尤もだが…。」


 優しく笑って注意をする松原さんに対し、どこかしぶった返答をする谷さんは、松原さんの意見に賛同する様な言葉を口にした斎藤さんに、少し納得をしづらそうに返事をした。

 自分の意見がちゃんとある人ならではに見られる光景だ。仕方ない、としか言いようがないだろう。

 

「まぁ、いいじゃないですか。記憶力がいいってことは、あの子の時より大きく苦労が減るってことですし。」

「それもそうだな。」


 最後のこの会話は、私にとって少し疑問の生まれる会話だった。

苦労…。つまり、私ではない誰かの時は名前を覚えさせるのがとても大変だったということか、と。

 言い方の解釈をすると必然的にそうなる。だが、人それぞれ違うのだからここで言っていたって仕方ないのでは?


 だって、まさか女性の中で一番とかいうあの子ではないだろうし。


 こうやって一人で勝手に考え込んで自問自答するのは、私の悪い癖だ。自重すべきだろう。


「ところで、さっきから土方さんと近藤さんは何話してるんだ?」


 不意に藤堂さんがそんな質問をなげかけると、最初に永倉さんが食いつく。


「恐らく、最近起きた若い娘の惨殺事件についてだろう。発見場所はバラバラな上に、娘等の出身や身内が全て不明だからな。」

「へぇ…。大変そうだなぁ。」


 …やはり能天気だ。だが、耳に入れつつ話題の二人を目にやる私も私だ。


 気になった理由は、いくつかある。


 一つは、祖父から聞いた若い娘が亡くなる話。

今更だが、今いるここは250年も前である時代で、恐らく私が〈怪異〉に喰われたというところなんだろうが……問題はそれではなく、偶然にも私がここに来た頃と時期が同じという事だ。

 思えば理由を勇さんからも山南さんからも聞いていないし、幼馴染も見当たらない。故に、私がここに来た理由と関係がありそうだと思ったのだ。

 もう一つは、その惨殺された身元不明の娘たちだ。

まぁ、これも一つ目と似ているが、未来である現代と過去であるこの時代との事件が重なって起きている事だ。しかし、〈怪異〉関係なら起こりうる事件だろうし、身元が不明でも問題なんてほとんどない。

 だって身元が分からない、死因もわからないんじゃあ、どうしようもない。


 結果、問題なんてない訳だ。


 でも、警察側からしたら真実を突き止めなきゃいけない使命感におわれ、血眼になりながら未解決事件にさせまいと動く。新選組は、そんな状態なわけだ。

 孫としては、そんなお疲れ状態になることをしている祖父がとても心配なのだ。それは、どの家の警察の身内も同じだろう。

 そんな大変な時期に、私がきてこんな歓迎会みたいなことして…。大丈夫なのか否か。



 人の心配をしていた束の間に、どんどん時間は過ぎていく。



長い一日か、はたまた短い一日か。周りは楽しく騒いだのちに酒の効果で眠くなった者達は、解散していった。

 最後の方で、疲れた私の体が悲鳴を上げ、私も広間を出てしまった。後片付けはきちんとしたが、与えられた部屋に戻る最中に、明らかに面倒な目に遭う土方さんを見つけた。

 私より少し大きいが、でも髪を一つに結う袴を着た女の子が土方さんを引き留めたのだろう。女の子は楽しげだが、土方さんは若干困っている。


(うわぁ、かかわりたくないなぁ…)


 元々土方さんは失礼な人だったし、ほっとけと思いつつも、私の体は正直だった。


「楽しいお話し、その辺にしてもらえると大変助かるのですが。」

「え?」

「…。」


 おい、無言でその助けろと言わんばかりの視線を送るな。

などと心で土方さんに言ったところで届きはしまい。私とて、このまま自室に入れないのは困る。

 それだけだ。


「名乗らずすみません。今日からここでお世話になる、幸咲華詩祈といいます。お邪魔して何ですが、個人的に父の勇さんの事で土方さんに用があるので…おかりしても?」

「…⁉」

「あ、すみません!ダイジョブです。えと、あ、名前…。」


 おどおどしてるが顔は幼い。けれど…〈色〉が今まで見てきたものと大幅に違うため、思わず敬語になってしまったが……。この人が、同じ名前の荒冷華さんだ。


「聞いてます。同じ部屋で過ごすものとして、名は頭に入れてますから。」

「あ、はい。」

「じゃあ、おかりします。」


 にっこりと笑って土方さんの腕を引っ張り、彼女の横を通る。

彼女が強いのは、目に視えてわかった。だが、もう私が土方さんを恐れる対象にすることはないだろう。

 身をもって、確信した。



 沖田さんや斎藤さんなどの幹部らは、力が強い。すごく強い。

 けれど、彼女は……荒冷華志輝は…。



「おい、いつまで引っ張ってる。」

「…。」

「…?」





……〈色〉に〈怪物〉を飼っている。本人が決して、人には見せないけがれきった〈怪物〉を。

 視えてはならぬそれが、私にははっきりと視えた。これが何を意味するか、私はもう、これを否定することは、できない───────。

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