表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第壱話 突然の引っ越し 

私の生きる世界は、いつも人と違った。

すべてが白黒で、誰かとすれ違う度にその人達につく者達がえて───。

 それは年を重ねるごとに濃く、そして強く視える様になっていった。


 それでも普通の人であろうとした私は、身をもって、知ることとなる。

 自分がいかに弱く、人ではない存在かを──────。



                



 三月のはじめ頃。

それは、突然の事だった。


「京都、ですか?」

「あぁ。」


 ともに住む祖父が呼んでいると幼馴染から聞き、祖父の部屋へと来た私は、祖父から、京都へ行く事を勧められたのだ。

 突然の事に驚く私に、祖父は話を続けた。


「心配はない。京都には、直継なおつぐも一緒に行かせるし、“イサミ“もいる。」

「イサミ……って、父さんのお父上の…?」


 祖父は、小さく頷き自分の手元に置いていた刀を私の前に置く。

どこかずっしりとした重みのある気を漂わせるそれは、模造刀では感じられないものだろう。

 妙な緊張感が部屋の中に漂いだす。

  

「あの、これは…………?」

「護身用だ。…さっきも言ったが、京都は治安が悪い。下の奴らがいうに、つい最近も若い娘が立て続けに亡くなったと聞いている。今じゃ武器の所持は当然。それに、丸腰ではこころもとないからな。」

「…。」


 大体80センチ位の刀を手に取ると、その重さは持ち上げるのも大変な程だ。

こんなものを持ち歩くなんて無理だ。


 顔をうつむけ沈黙していると、祖父は私の肩に手を置いて優しく微笑んだ。


「大丈夫だ。この刀は、今のお前には重く感じるだろうが、時が来ればお前にも使える。」

「……はい。」




 ───理由のない突然の引っ越し。

今日今すぐにでも向かえというのだ。なにか、大変な事でもおきたんだと、この時は思った。


 だから、私は京都へ向かった。

 12歳の私にとっては、いまこの世界は普通で、京都へ行く事も、疑うことなんてしなかった。否、できなかったんだ。


 人の感情の〈色〉を視る自分を受け入れる事が。




 浮遊してきた祖父の友人の車に乗って、5時間。

 外をぼーっと見つめていた。


 人の群れ、しっかり造られた和風の建物、腰にさげられた刀は、本物だろうか?

とくに何かを思うことも考えることもなく見続けた景色の中で、すっとすれ違った男の子と、ふと目があう。


 その一瞬、私の心臓が大きくはねあがった。


 初めてだった。あんなに綺麗な〈色〉を視たのは。

 まるで空の様に青い浅葱色の〈色〉から、誠実な強さを感じる。


 あの人⋯なんて名前なんだろう⋯⋯。


「お嬢。」

「!」


 名を呼ばれ、ハッと後ろを振り返ると、ドアが開かれ、すこしかがんだ祖父の友人・山南さんがこちらに微笑みかけていたのが目に映る。


「着きましたよ。あなたの新たなお家に。」


(?⋯⋯よく見えない。)


 光がまぶしすぎて見えやしないが、出ればわかる。

 そう思い、車の外へと足を踏み入れた時だった。



「頑張ってください。私達は、すぐ傍にいます。」

「え?」


 耳元で聞こえた言葉に、思わず大きく左を見たその刹那の事だった。



 まるでさっきまで見ていた街の光景が、綺麗さっぱり消えていた。

学生服を着た生徒たちも、視えていたモノも。そして、車と山南さんも。


 その代わりに、たった一人ポツンと立ち尽くす私の前に、圧倒的な存在感を放ちながら邸が建っていた。

まるで、人が立ち入ることを拒む様に───────。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ