表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

キョーコ〜強気な格闘娘〜1

「ちょっと、近づかないでよ!」

「んなこと言ったってしかたねぇだろ!?」


「手錠で繋がれてんだから!」


突然だが、今俺は危機的状況にある。

どのくらいの危機かというと、もう、命すら危ない程の危機だ。

なんせ、今俺はキョーコと手錠で繋がれてるんだ、いつ殺されてもおかしくない――その場合犯人は十中八九、今俺の隣でキーキー言ってるのが犯人で間違いない。

キョーコはとある道場の跡取り娘で、天童白河流とかいう空手だか少林寺だか合気道だかの武術の使い手だ。

その手と脚で、沈めた男は数知れず。

まぁ、その半分近くはナンパ目的で近づいた奴らなんだけどな。

キョーコの奴見てくれだけは良いからなぁ。

最近、短く切った髪がまた良く似合ってるんだ、これが。

それに引き締まった体に、小顔でキリッと爽やかな目鼻口。

まさに運動少女?

萌えだよな、萌え。

ま、中身がこいつでないなら、だが。


キョーコとの出会いは、まさに衝撃だった。

あれは高校に入学してまもなくの事だ。

俺は地元の中学じゃそこそこ有名な悪で、腕っ節にはかなりの自信があった。

そんな俺がまだ馴れない道を頑張って登校してた時、ふと視界に茶髪だの金髪だのでピアスなんか開けてる、いかにも調子にのってる奴らが群れをなして歩いてるのが見えた。

実のところ、俺はそういうチャラチャラした奴らが大嫌いだ。

そこで俺は喧嘩をふっかける口実を探してたんだが……。


「ねぇねぇ、君可愛いね、新入生? 俺達サッカー部なんだけどさ、マネージャーとかやってみない?」

「私は部活に入るつもりなんてないですし、あなた達みたいにチャラついた人がいるような部ならなおさらです。どこかへ行ってください。」

「毒舌だなぁ。そんな事言わないで見学だけでもしてみてよ。あ、そうだ、メアド教えてよ。そしたら、練習日とか教えれるし、ね?」


探すまでも無かった。

群れは一人の女生徒を中心に歩いていた。

しかも、その女生徒は嫌がっている――やけに強気だったが。

奴らをボコれて、そのうえあんな美人に恩を売れる。

最高の状況だと思ったね、俺は。

それで俺は意気揚々と近づいて、一番後ろにいた奴の肩に手をかけて喧嘩をふっかけようとした、その時。


カチャ、カン、カン、カ……


一瞬空気が凍ったね。

どうやら女生徒が、リーダー格の男が出してきた携帯を弾いたらしい。

それで、今携帯はその女生徒の足元に落ちてるわけだが……。


バキッ、ガチャッ


躊躇いなく踏みつけやがった。

しかも、その後ぐりっと踏み躙ったぞ、あいつ。

俺はその行動に思わず口笛を吹きそうになったね。

けれど、奴らがそんな女生徒を許すわけもない。

いきなり態度を豹変させて、女生徒の胸倉を掴んで――羨ましい事しやがって!――腕を振り上げた。


「テメェ、ちょっと面が良いからってチョーシこいてんじゃ、ねぇよ!」


その声と同時に振り下ろされた拳。

しまった! あの女の天晴な行動に見惚れてて、動くのが遅れた、間に合わねぇ!

しかし、そんな必要はこれっぽっちも必要なかった。

次の瞬間にのされてたのは、その男だったからだ。

どの男って、拳を振り下ろした奴だよ。

え? なんでそうなったのかって?

そんなの決まってる。

その女が拳をひらりと避けて、回し蹴りを男の後頭部に叩き込んでたからだ。

俺の記憶では、あの男は最後まで起き上がらなかったな。

まぁ、ニュースになってないところを見ると、死んじゃいないんだろうが。

さて、そんな見事な蹴りを見せられて俺は久々に興奮したね。

しかも、その群れの残党も全員一瞬でやられてた。

俺はこいつとは気が合いそうだと思ったね。

なんせ、奴らの屍――死んじゃいないが――を見下して――


「どうせ、あなた達みないな連中は他の生徒にも迷惑をかけているんでしょ。これを天罰だと思って、今後は行動を改めることね。特にその髪とピアス、それからそのだらしない服装もなんとかしたら?」


――とか言いやがった。

まさに共感。

俺は思わず話しかけた。

もう、感動と興奮で胸を高鳴らせてだ。


「よう、やるじゃん、お前。実は俺もこいつら――」

「まだ仲間がいたのね!」


ドゴッ


俺は一瞬意識を失いかけたね。

この俺が一撃で意識を失いかけるなんて、初めてのことだ。

何があったのかを把握したのは、その一撃で失いかけた意識を必死で堪えきってからだった。

クラクラする頭……痛い。

あぁ、俺もさっきの奴みたいに回し蹴りを側頭部――さっきの奴は後頭部だったが――にくらったんだ。

でも、何でだ?


「あら、なかなかしぶといのね。」


俺が聞いた最後の声だった。

次の瞬間には鳩尾に強い衝撃を受けて俺は意識を手放していた。


俺が目を覚ましたのはそれから数時間後だった。

目覚めた時、俺は保健室のベッドの上だった。

カーテンで区切られた、その空間で、俺は事態を把握するために思考を開始した。

ま、考えるまでもなく、俺は被害者だろうな。

最後に「仲間」とか言ってたから、大方あのサッカー部とかいう奴らの仲間だとでも思われたんだろうな。

とんでもない女だ。

状況も確認せずに、無差別に攻撃するとは。

でも、不思議と怒りは湧いてこなかった。

むしろ、興味の方が強かった。


「あの女何者だよ!」


そう、ズバリ……って今の声は俺じゃないぞ?

さらに続く声は別の奴だ。


「チョーシ乗りやがって。ただじゃおかねぇ!」


あぁ、この声、さっきの……。

そうか、あいつらも一応生徒だもんな、登校中――しかも、あの場所は学校の目と鼻の先だ――に怪我したら保健室行きだよな。

それにしても、こんな物騒な会話が普通に行われてるのをみると保険医はいないらしいな。


「おい、仲間集めろ。さっきの女、帰りにやっちまうぞ」

「お、いいねぇ。じゃあ俺ケンゴ達に電話してみるわ」


待て、それはまずいな。

あの女、のされた俺が言う事じゃない気がするが、そこまで強くない。

力がそこまであるわけでもないし、油断せず、やろうと思ってやれば10回中10回勝つ自信がある。

ただ単に、闘い方と人体の構造を知っているってだけだ。

あの時は全員油断してたから簡単に倒せたけど。

あいつらが油断せず、力と数でこられたら、あの女、ひとたまりもないぞ。


「あ、もしもし、俺だけ――」


バキャッ


俺は気付いた時にはカーテンから飛び出して携帯を蹴り飛ばしていた。

頭ごと蹴っちまったから、電話してた奴はまた気絶しちまった。

慌てて立ち上がるサッカー部連中。


「てめっ、何しやがる!?」

「ってかぶっ殺すぞ、あぁ!?」


いかにも頭の悪そうなセリフだな。

ま、俺にはよく馴染みのある雰囲気ではあるが。

俺の胸倉を掴んだのは、最初にのびたリーダー格の奴だ。


「なんだ、最初にやられた奴じゃねぇか。まだ懲りてねぇのか?」

「ってめ! ぜってぇ殺す! オラァッ!」


繰り出される拳。

やはり、力だけなら、あの女には勝ち目はあるまい。

あの女には、だけどな。

その拳をバシッと受け止め、思いっきり握ってやった。


「誰が、誰を、殺すって? あぁ?」

「が、いた、いたたた、は、離せ! テメェ、いてぇっつってんだろうが!」


あまりの激痛でか顔を歪めて俺に蹴りを入れようとする男。

周りの奴らは、何が起こってんのかもわからないみたいで、戸惑って動きやしない。

俺は男が蹴りをいれようとした瞬間に、軸足を軽く蹴ってやった。

ただ、それだけで男は面白いようにケツからこけた。

俺はそいつを見下してから、周りの奴らを睨んで威嚇して、もう一度、リーダー格の男を見下した。


「お前らよぉ、さっきの女に手ぇ出すの止めろや」

「あぁ? 何言ってんだ。テメェにゃ関係ねぇだろうが!」


そう、確かに俺には関係ないのかもしれない。

でも、俺は気になっちまったんだ。

なら仕方ねぇだろ。


「関係? あぁ、ないな。けどよ、そんな事はどうだっていいんだよ。俺が止めろって言ったら止めりゃあいいんだ」

「っザケンナ! ぶっ殺すぞ!?」


変わり映えしないセリフ。

俺は溜息一つ溢してから、奴らに『教育的指導』ってのをしてやることにした。

それから数分後には、その場にいた殆どの奴が半殺しになっていた。

流石の俺も何発か貰っちまったけど、完全に俺の勝ちなのは明白だろう。

俺は虫の息のサッカー部共を見渡してこう言ってやった。


「てめぇら、次あの女に手を出したら、こんなんじゃすまさねぇぞ!?」


――パタパタパタ……


足音?

誰かが騒ぎを聞きつけたか。

俺は先公が来る前にとんずらを決めた。


それから数日様子を見ていたが、奴らがあの女を襲うことは無かった。

流石に懲りたと見える。

あの女はどうやら俺のクラスだったらしい。

今までまともにクラスの連中なんて見てなかったからなぁ。

全然気付かなかった。

それを知ったのはあの事件の次の日だ。

俺がいつものように教室に入った途端にあの女が目に入ってきた。

俺は一瞬硬直したが、別に怒っているわけでもないので、さっさと自分の席につくことにした。

あの後で、よくよく考えてみたら、あのタイミングであんな出方をしたら誤解されてもおかしくないしな。

俺は席につくと、いつものように突っ伏して眠ろうとした。


「ね、ねぇ。ちょっと、あんた」


いきなり俺の頭の上から声が降ってきやがった。

俺はめんどくさげに頭を上げた。

相手があの女だってのはわかっていたんだが、それでもなんとなくそんな態度をとってしまった。

そんな態度が気に食わなかったのか、口調がちょっとキツくなった。


「あんたよ、あんた。昨日の喧嘩の時、あんた、いたでしょ?」

「あぁ? いたけどそれがどうしたんだよ。」


どうせこいつはサッカー部の仲間とか勘違いしてやがるんだ、どうせわけのわからない事をほざくんだろうと、俺は聞き流すつもりでいた。

誤解をとくのも面倒だったしな。

でも、返ってきた言葉は意外なものだった。


「そ、その……い、いきなり蹴ったりしちゃって、わ、悪かったわね。」

「……は?」


俺はあまりの事にバカみたいな声を出してしまった。

女は赤い顔を逸らして続けた。


「だ、だから悪かったって言ったのよ! あんたは関係なかったってミヨから聞いたの!」


あぁ、それでか。あれが誤解だったって気づいたわけだ。

たぶんミヨってのは、教室の前の方でこっちに向いてウンウンと頷いてる女だろう。

まぁ、あの時にでも、たまたま一部始終を見ていたんだろうな。

俺はなんとなく気恥ずかしくて、やはり、どうでもいいという風にぞんざいに答えた。


「あぁ、いいよ、んなこと。謝ってる暇があったら、少しは男のかわし方くらい学べよな。」

「な、わ、私だって謝りたくて謝ってんじゃないわよ! ミヨがどうしても謝れっていうから仕方なくで!」


女は赤かった顔をさらに真っ赤に染めて叫んだ。

その声にクラス中がこっちに注目したが、俺が一睨みしたらすぐに視線を逸らした。

そんな俺の様子を見ていた女が目を吊り上げて俺を責める。


「あんたがいつもそういう事ばっかりやってるから誤解されるのよ! そうよ、日頃の行いが悪いんだから、天罰だわ!」

「きょ、キョーコぉ!」


流石に言いすぎだと思ったのか、ミヨらしき女が女を止めた。

俺は女の言葉には特に怒りを覚えず、「そうか、キョーコって名前なのか」なんてぼんやりと考えていた。

キョーコも、しまったと思ったのだろう。

俯いて黙り込んでしまう。

……いつまでもいられても邪魔だな。


「……で、キョーコちゃんとやらは、結局何が言いたかったんだ? あれは俺が悪かったんだから反省しなさいとでも?」


こういうタイプを動かすには挑発が一番だ。

目論見通り、キョーコは林檎みたいな顔で――


「だ、だから……最初に言ったでしょ。そ、その……ごめんなさいって」


徐々に声が小さくなっていくので、最後の方はよく聞こえなかったが、謝っているのはわかった。

それでも俺はわざと意地悪く言ってしまった。


「あぁ? 聞こえないんだけど?」

「だ、だから、こめんなさいって言ってるのよ! 何度も言わせないでよ、バカ!!!」

「あ、キョーコ! 待ってよぉ!」


言いたい事を散々言って、キョーコは自分の席に戻ってしまった。

ミヨがその後を慌てて追い掛けていく。

俺はさっきのキョーコの真っ赤な顔を思い出して吹き出しそうになるのを、突っ伏して堪えた。


やっぱりあいつは面白いな。

短編集なのに連載ものです^^;


まぁ、垂れ流し作品なんで良いかなぁ、と。

後悔はしていません(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ