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「こればかりは仕方がないよ。だれかに惹かれる気持ちは、自分でコントロールできないものだろ。沙樹ちゃんにしたって先輩のこと男として惹かれなかった以上、別れて正解だったんだよ」

「そうですか?」

 沙樹のうるんだ瞳が自分を映している。そんな些細なことがワタルを心地よくさせる。

「沙樹ちゃんの複雑な気持ち、理解できないでもないかな。おれも最近、ふったかふられたか解らない別れ方したところなんだ」

「ワタルさんが?」

 沙樹は目を見開き口元に手をあてる。同病相憐れむといったところか。ワタルはコーヒーを一口飲んだ。口の中に苦みが広がる。

「彼女って、アルバイト先の元教え子でしたっけ?」

「そうだよ」

 去年受験生だった彼女は、ワタルの恋人になりたい思いで必死に勉強し、その甲斐あって同じ大学に入った。塾で告白されたときから「つきあえない」と拒否していたのに、入学後は押し掛け女房のごとくワタルに突撃し、恋人のようにふるまっていた。それが最近になって彼女のほうから「他に好きな人ができた」と言い残し、以来まったく姿を見せなくなった。

 ワタルは彼女に対して特別な気持ちを感じたことがなかった。自分を慕ってくれる妹のような存在で、それ以上になることなく終わった。でもそばにいてくれた人がいなくなると、寂しさは残る。そういう意味では自分も失恋したようなものだろう。

「彼女曰く、好きになった人にも彼女がいるけど、気にせずに告白するってさ。まったくあの子らしいよ。たしか同じ学科の先輩で、放送研に入ってて……」

 ワタルはハッとして言葉をとめた。もしかして相手は沙樹の元彼ではないだろうか。沙樹も同じことを考えたらしく、頬を赤く染めている。視線が泳ぎ始めた。

 まさかと思いつつも、ワタルは彼女の名前を告げた。

「信じられない。その人ですよ」

 なんという偶然だろう。ワタルに押し掛けてきた元教え子は、沙樹のつきあっていた先輩を好きになり、恋人がいることも構わずに告白した。そして先輩は沙樹ではなく彼女をとった。


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