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「今なんて言った? おれの聞きまちがいかな」

 おずおずと問いかけるワタルに、沙樹はグラスを手にとってふりかえり、笑顔で答えた。

「先輩と別れました」

 言葉の意味するものは重い。なのに沙樹の口調は、語尾にハートがついているのではと思わせるほどにさわやかで明るかった。

 泣いている子なら慰めることもできる。でも隣にいる女性は、自分の失恋を笑顔で告白した。こんなときどうやって返せばいいのだろう。

 困惑して固まってしまったワタルをちらと見たあとで、沙樹は残った琥珀色の飲み物を一気に流し込んだ。

「別れたって、沙樹ちゃん?」

 今飲んだのは水割りだろうか。ワタルは嫌な予感がした。ちょうどそのときマスターが料理を持ってきた。

「おまたせ。今日は寄せ鍋定食だぞ。寒い日は鍋に限……」

「マスター、沙樹ちゃんお酒を飲んでた?」

 ワタルは言葉をさえぎって問いかけた。マスターは不思議そうな面持ちで、

「飲んでるよ。でも沙樹ちゃんは二十歳過ぎてるし、飲んだのも薄い水割り一杯だからたいしたことないよ」

「そうそう。たいしたことありませんって」

 沙樹はにっこりと笑った。だが目が据わっている。

 ワタルは沙樹が酒に弱いことを知っている。この妙なテンションはすでに酔っているからに違いない。

「ワタルさんも一緒に飲みませんか。ひとり酒なんてつまんないです」

「せっかくだけど止めとくよ。今晩中にレポートを仕上げなきゃならないんだ。飲んだら書けなくなるからね」

 明日は日曜だが、バンドの練習で朝からスタジオに入ることになっている。

 ワタルは大学の仲間と作るバンド、オーバー・ザ・レインボウのリーダーだ。そんな立場の者が二日酔いや徹夜明けのコンディションで、練習に臨むわけにはいかなかった。


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