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一
OVER THE RAINBOWシリーズの一作です。
そのときの沙樹の口調は、朝の挨拶をするようにさわやかだった。
あまりにもあっさりと話すので、ワタルは危うく聞き流しかけた。手元の湯飲みに視線を落とし、ふと立ち止まって言葉の意味を考える。事実ならあんなに明るい口調で話せる訳がない。単純に聞きまちがえたと判断した。
だが右隣に座る沙樹からは、口調とは裏腹に儚げな空気が漂ってくる。無表情で手元のグラスを眺める姿が、すべてを無言のうちに語っていた。
秘めた気持ちは今の自分と同じかもしれない。今夜はお互い寒い夜になりそうだ。そんな予感がワタルの胸をよぎった。
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