<4話 裏> 共に往く旅路
あったかい。
なんかとってもあったかい。
お布団で寝るのは久しぶり。気持ちいい。
また、夢の中なのかな?
それなら、彼の居る世界の夢がいいな……
「おはよう」
横から聞こえた声で、ここが何処かわかった。
目の前に、わたしが逢いたくて仕方なかった人の顔がある。
(異世界……彼の居る、世界!)
夢かな?
でも、彼に体を揺さ振られている。
夢じゃないよね、これ、夢じゃないよねきっと。
(本当に、来ちゃったんだ!)
うん、願ったら本当に叶ったみたい。
嬉しい、何でここに居るのか全然わからないけどとにかく嬉しい。
だけど、眠い……
なんか、あったかいお布団に包まれていると……
「ん、もう朝なんだ……」
外から入ってくる朝の光がまぶしい。
「で、何でここに居る?」
嬉しい。彼の声が聞けるだけでも嬉しい。
今ここに居る事が全て……
幸せ、嬉しいからもう一回寝ちゃってもいいかな。
一度眠って、もう一度目を開けて彼がいれば……
その時はもう、夢と思って寂しい思いをしなくていい。
「いい加減にしっかり目を覚ましてくれ、
理不尽もここまで来ると嫌がらせに近くなるぞ?」
その前に、彼がお怒りのようなので……
仕方なくわたしは眠ろうとするのをやめた。
そして、反論する。
「嫌がらせじゃないもん」
少なくともそんなつもりで来たわけじゃない。
わたしはあなたに逢いたくてここに居るの。
経緯とか全くわからないけど、きっとそう。だから……
「これからはずっと一緒だもん」
「さらりと爆弾発言しないでくれないか?」
「一緒なのは一緒だもん」
「だから……」
なんで、わかってくれないのかな。
わたしはずっと、あなたに逢いたかったんだよ。
でも、ちょっとだけ言葉を間違えた気がする。
思っていた事と違う言葉が出てきたみたい。
もし、これが本当の夢のような再会で、
すぐに別れが来てしまったとしても……
今度はもう、言えなかった想いも全部投げちゃう。
これが最後になってしまうかもしれないから。
それに、あの本は完結したけど……
「続編が出るんだって」
「続編?」
「うん、続編だよ」
「おいおい、冗談じゃないぞ……」
嫌そうな顔をされたので、ちょっと辛い。
わたしと一緒に居るの、嫌なのかな……
そう思うと、ほんの少しだけ寂しい気持ちになる。
その後、わたしは彼に……
所持品のこととかを色々と聞かれた。
今回は本などを持ってないし、手に付けられたカウンタも無い。
ここに飛ばされた理由も知らない。
色々な制約で縛られていた前回とは大違い。
そして、話を聞いてもらうごとに、
彼の困惑した表情が険しい表情へと変わっていく。
何か、悪い事でもあったのかな?
「ちょっと待ってくれ、確認したい事がある」
そう言って彼は立ち上がった。
随分と顔色が悪くみえる。も、もしかして……
「逃げるの?」
「思い当たる節があるだけだ」
即座に否定されたけど、何が思い当たるのだろう?
少し時間を置いて、彼は戻ってきた。
何か妙な本を手にしている。
「この本……」
「もしかして、同じ物か?」
「ちょっとだけ違うかも」
装丁は似てるけど、何かが違う。
書かれている絵も、似ているけど違う気がする。
何よりタイトルが……
あれ、もしかしてこのタイトル……
(繋がれた道はいずれ未来へ続く)
これ……
誰が見ても、間違えないよね。
繋がれた道は、わたしと彼の事を指していて、
未来へ続く何かが始まるのは、これからなのかな?
(本も分厚いから、長く続くのかも)
本当の所はどうなのかわからないけど、
彼と一緒に居られる時間は短くはないかもしれない。
その可能性だけで心がどんどん満たされていく。
そっと本を開く。
作者の前書きのような物が書いてあった。
(形は違えども、孤独の中にいた二人に祝福を。
新婚旅行のような初々しさと甘くて蕩けるような旅の記録を、
存分にお楽しみいただければ幸いです)
こ、これって……
わたしは、天にも昇る気持ちになった。
「どうして笑っているんだ?
何か嬉しい事でもあったのか、それとも……」
もちろん、嬉しい事がたくさん。
緩んだ顔が戻らなくなりそうなくらいに。
「うん、本当に、ずっと一緒になれるの」
この先もずっと一緒、それが運命になったの。
だって、この物語はそこから始まっている。
「それで、タイトルは?」
「えへへ……秘密だよ」
ちょっとだけ意地悪。
最初の時にちび妖精って呼んで意地悪したおかえし。
「理不尽なままで巻き込まれる気はないぞ」
「残念、もう巻き込まれてるから無理~」
だって、これが序章だもん。
続編の始まりは、二人の再会から始まるの。
「まさか、拒否権なし?」
「うんっ」
笑顔で返すと、彼がまたため息をつく。
「もう、何に突っ込みを入れていいのかわからないよ」
え……
わたしと旅をするの、そんなに嫌なのかな?
嫌なら嫌って言って欲しい。だけど……
「受け入れるのも大事なんだよ?」
「全部お前の所為だ……」
そう言いながら、笑っている彼の顔。
やっぱり、本心では嫌がっていないと思った。
そうと決まれば、色々と説明しないとね。
このままだと、誤解されたままになりそう。
「もしかして、今度はこの世界に客人を呼び込んで、
三千歩歩かせるとか……」
「それだと二人きりになれないよ」
うん、この先は二人っきりにならないと話にできないはず。
わたしと、彼の物語になるのだから。
「一緒に巡ろうよ、色々な世界」
「何を言い出すかと思えば……」
「今度はわたしと二人でお客様になるの」
タイトルから考えると、
わたし達は色々な世界へとお邪魔する事になると思う。
本当に、二人っきりで回るかもしれない。
「ということは、お前が元々居た世界も……」
「巡れるかもしれない。
それに、前の本も見つかるかも」
実はわたし、あの本を手に入れて読んでみたいと思っている。
それには、彼の協力も必要になるはず。
「結末は見たのか?」
「見てないよ」
タイトル以外、知らない本だもの。
「あなたと一緒に探しに行きたいな」
こんな事を言っても、乗ってこないかな……
わたしは、そんな事を思っていた。
だけど、違った。
「率直に言おう、面白そうだ」
「え?」
彼の目が輝いていた。
(こんな笑顔もできるんだ……)
とても楽しそうな笑顔、思わず惹き込まれそう。
今まで見せてくれなかった一面を見た瞬間、
また心がきゅんとする、どうしよう、どうしよう……
「俺個人としては、お前に振り回されながら、
ただ目的も無く彷徨う旅になるのは勘弁して欲しい」
あたふたしてたのはわたしだけでした。
一緒に居るだけで嬉しいのはわたしの方だけみたい。
仕方ないのかな……
「だけど、何かの目標の為に旅をするなら大歓迎だ」
照れてる。うん、照れてる。
わたしも、あなたも……
思わず見つめ合って、すっと目を離して。
また、もう一度彼の目を見ようとして……
思わず、わたしと彼の顔が真っ赤に染まった。
「お前との旅はきっと良い旅になる」
「うんっ、ありがとう!」
一緒に居るだけの旅じゃなくて、
物語に振り回されるだけの旅でもなくて。
彼が望んでいるのは、目的のある旅。
なら、わたしも目的を持っていこう。
もっと互いを知って、仲良くなれる。
それに彼の心をもっと知って、好きになれる。
いつかきっと、片想いのような状態からステップアップして、
彼の隣へぴったりと寄り添える状態になるまで……
頑張ろう、わたし。
(あれ……本が……)
本が輝いている。
これは、もしかして……
それを見た彼がわたしに手を差し出す。
わたしはそれを軽く握る。
(これからは、ずっと一緒)
もう、独りじゃないから、寂しくない。
さあ、どこまでも連れて行って。
幸せの結末に辿り着く日まで。
二人の物語は、これにて終了。
ですが、二人の壮大なる旅物語はこれから始まるのでしょう。
共に歩く道、終わりの地を踏むその時まで、幸せでありますように。