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こんなん現実であるわけないシリーズ その1

明け方、僕は日課の散歩に出かけます。


僕が散歩を始めたのは中学に上がりたての頃、小学校の頃続けてたランニング中にある人と出会って散歩も楽しいことを教わりました。


そして今日もその人と散歩をするためにいつもの公園に向かいます。


「あ、おはようございます」


「ん? あ、おはよう」


この女の人が僕に散歩の楽しさを教えてくれた人。


名前は聞いても教えてくれないから、わかってるのは僕よりも年上だってことくらい、前に話してる途中で高校生だってわかったから多分間違いない。


謎だらけな人だけど僕はこの人の事が好きだ。


「相変わらず早いですね」


「そうでもないよ? 君がくるちょっと前にきただけ」


彼女はいつもそう言う。


一度彼女より早くこようと30分前に家をでた事があったけど、その時も彼女は僕よりも先にそこにいた。


きっと僕より家が近いんだろう。


そう割り切って今日も彼女と散歩を始める。


どうせ彼女の事を聞いても大体は流されるから、今日の天気はいいですね。程度のほんのささやかな会話。


僕はそれだけでもよかった。


だって彼女はいつだってそこに来てくれていたから。


「ねぇ、今日はちょっとルート変えてみようか」


「あ、はい。 いいですよ」


彼女から話しかけてくるのは珍しいかったので少し驚いてしまったけど、別におかしなことではない。


「でも、どこに行くんですか?」


「えっとね、今日は休日だし目的地を決めてそこまで歩こっか」


「目的地って?」


「それは着いてからのお楽しみ」


彼女はニッコリ笑って足を進める。


彼女を追うようにして、僕も歩き始める。


それからの会話はなく、二人ともまだ日がさして間もないこの時間帯の少し冷たい空気を肺一杯に吸い込んで気持ち良さそうに足を進めるだけ。


そんな感じで足を進めている内に、再び彼女から話しかけてきた。


「ねぇ、そろそろ名前を教えあってもいいと思わない?」


「僕はずっと前から聞きたかったんですけどね、でもいいんですか?」


「いいに決まってるじゃない。 それじゃ私から言うね。 私の名前は皇 晴香(すめらぎ はるか)高校2年、君は?」


「僕は海原 満(うなばら みちる)中学3年です。 改めて宜しくお願いします」


「こちらこそ、そっか〜……私より2つ下かぁ〜」


「そうですね。 僕はあんまり不思議に思いませんけど、でもなんで今まで教えてくれなかったのに教えてくれたんですか?」


「んーとね、今日は特別な日だからかな?」


「特別な日……?」


「そ、ちゃんとわかるから」


何が分かるのかは聞いても教えてくれなかったけど、そう言ったあとから少しだけ彼女の表情が暗くなった気がした。


それから『目的地』に着くまでそうかからなかった。 そして、そこは僕も知ってるところだった。


「ねぇ覚えてるかな? この場所」


僕ははっきり覚えていた。


忘れない、ランニング中にふと見たその光景が美しすぎて足を止めてしまった場所。


そして、彼女に出会った場所。


「私ね、あの時ここでこの湖を見ている君を見て、一目惚れ、かな? その時はまだよくわからなかったけど、ただ無意識に声を掛けたの」


そう、はっきり覚えてる。太陽の光がこの湖の表面に反射して綺麗に輝いているのを見て、思わず足を止めてしまったことも。


「そんなに急いでちゃこの光景を見る時間が短くなっちゃうよ? って、自分でも何言ってんだろって思ったけど、それでもその時見せてくれた君の笑顔でどうでも良くなっちゃったの」


「それじゃ、歩こうって言ってきたのは?」


「一緒に歩きたかったから、君なら歩くことも好きになってくれるかな、と思って」


「事実気にいっちゃったんですけどね」


歩くことも楽しかったけど、何より彼女に会える事が嬉しかった。


「それじゃ次は僕が言う番ですね……僕は皇さんが好きです。 散歩をするのは楽しかったけど、あなたがいたから楽しかったんだと思います。 だから、よければ僕とこれからも一緒に歩いてくれませんか?」


言いたい事は言い切った感じがした。 皇さんを見てみると、少し頬を赤らめてうつむいていた。


「わ、私が言おうとしてたこと全部言ってくれたね……」


「すいません」


「そろそろ戻ろっか」


皇さんはそう言うと、僕の手を握って歩き出した。


「これからもよろしくね、満くん」


「はい、皇さ……いえ、晴香さん」


これからの散歩は今まで以上に楽しくなりそうな気がしました。

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