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未知との遭遇

作者: アキヒロ

「ショウ、準備できたか?」

「うん、パパ」

「それじゃ行ってくるよ、ママ。ソラもいい子にしてるんだよ」

「はい、気をつけていってらっしゃい」

 今朝もショウお兄ちゃんとお父さんは手をつないで家を出ていく。

 僕とママは二人を見送る。


 僕の名前はソラ。

 家族はパパ、ママ、ショウお兄ちゃん、そして僕の四人家族。

 うちの家族はとっても仲良し。

 

 二人が出かけると、ママは家事に取り掛かる。僕は暇なので気ままに過ごす。大好きなママの後をついていったり、お昼寝したり。

「よーし、ひと段落したわー。あとは、掃除とお買い物。その前にちょっと休憩しようかしら。ソラ、こっちにおいでー」

 僕は喜んでママのそばに駆け寄る。

 お昼寝も気持ちよくって好きだけど、ソファーに座るママのお膝に抱っこされるのはもっと好きだ。

 この時間がズーッと続けばいいのになぁ。大人になんてなりたくないや。ああ、また眠たくなってきた。


「まてー、ソラーーッ!」

 家に帰ってきたお兄ちゃんとケンカをした。先にお兄ちゃんがちょっかいを出してきた。

 体が大きいわりに幼いお兄ちゃんだ。

 全くもって落ち着きってやつがない。

 やれやれだぜ。

「くらえぇアアァァッ、イナズマキィーーック!」

 最近のお兄ちゃんお気に入りの攻撃方法はキックだ。

 この前パパが好きなアニメを一緒に見てからお兄ちゃんのマイブームになってるらしい。

 お兄ちゃんにとってはローキックでも、僕にとってはハイキックになる。これは脅威だ。

 身体が小さい僕は得意の噛み付きでやり返す。

「あいたたたたっ、ソラ、痛い痛い痛いーー」

 僕が叩いても痛がらないお兄ちゃんも、噛み付かれたらとっても痛がった。

 ちょっとやりすぎて、血がでちゃった。ゴメン、お兄ちゃん。

「ショウ! いい加減にしなさい! ソラをいじめちゃダメよッ!」

 あ、お兄ちゃんがママに叱られてるよ。向こうから先に手を出したんだから当然だよね。

 ママもパパもケンカのときは、僕の味方をしてくれるんだ。

 僕はカワイイからね。へへへ、こういう時カワイイと得だよ。

 ケンカもするけど、普段はとっても優しいお兄ちゃん。

「今日はごめんね、ソラ」 

 ケンカのお詫びにおやつのホットケーキを少しだけ分けてくれた。

 フワフワで甘くてとっても幸せだ。


 だいたい毎日楽しく過ごしている。

 でも、こんな僕にも悩みがある。

 それは、なかなか喋れるようにならない事。声はだせるんだけどなぁ。

 まだ小さいからかなぁ。

 パパもママもその事でなんにも言わないけど、もしかしたら何か喉の病気なのかもしれない。

 このまま一生言葉が喋れないんじゃないかと思うと怖くなる。

 思いっきり

「ママ、いつもご飯ありがとう! パパ、今度遊びにつれていって! お兄ちゃん、僕のおやつ分けてあげる、と見せかけてやらーーん!」

 って言いたいのに。


「ただいまー」

 ある日、パパが得体のしれない生き物を連れて帰ってきた。

 黒くって、体中真っ黒で目がギラギラと光っている。

 なんだ? この見たこともない生き物は?

 僕、すごく怖いよ。

「この子ね、この前言ってた子は」

「そうなんだよ、近所の公園に一人でいたんだ。この子が増えても問題ないだろう?」

「まあそうね。あ、名前をつけなきゃ」

「わぁーーい! 僕に名前付けさせてーー!」


 なんでパパはこんな生き物連れてきたんだろう?

 ママもお兄ちゃんも怖くないのかな?

 

 僕は初めて見るその生き物が怖くて怖くてソファーのすみに隠れていた。

 玄関で靴を脱いでいるパパの足をすり抜けて、その生き物がトコトコと僕の方に近づいてきた!

「どうもー、はじめましてー、よろしくお願いしまーーす」

 びっくりしている僕に真っ黒な生き物が声をかけてきた。

「うわっ! しゃべったっ!」

「そりゃしゃべるよ。失礼なやつだな。あいさつくらいしろよなー」

「だって……、なんだよ! お前は!」

 あれ?

 僕、今言葉を喋ってるぞ?

「なんだって言われてもなー。どこからどう見てもお前と同じネコじゃないかよー。毛は黒いけど」

「え? ネコ? そんな名前じゃない! 僕はソラ。この家の子供だ!」

 言葉をしゃべれている事に驚きながらも、僕は堂々と自己紹介をした。

「いや、ネコって名前じゃなくて、種類としてのネコだよ。人間、魚とかの種類のことよ。僕ら同じような見た目してるだろう?」

 急激に不安感が襲ってくる。

 そう言われて僕は自分の手に目をやった。色は白い……、でも色が違うだけで確かに目の前のコイツと同じように毛が生えている。

 手先の感じもとても良く似ている。

「あ、もしかしてキミ、ネコに会うのはじめて?」

 ネコと呼ばれる黒い生き物は僕の周りを一周し、頭をスリよせながら言う。

「いやー、最近多いって聞いたことがあるよー。人間の家の中だけで過ごしてきたネコらで、ネコに会ったことないから自分を人間だと勘違いしちゃうやつ。まぁ人間もネコを家族みたいに大事にしてくれるから、いいんだけどさー」

 うそだ。僕が人間じゃないなんて。コイツ、適当なこと言いやがって。僕は飛びかかりそうになる気持ちを抑えようとする。

「いい加減なこというな! 僕は人間だ! パパとママの子だ! この家の子供なんだ!」

「おいおい、そんなに興奮するなよ。フーン、じゃぁ聞くが、何でお前はそんなに体中毛だらけなんだ? そしてなぜ、四本足で歩いてるんだ? 人間だったら二本足で歩くものさー」

「うるさいっ。見てろよ」

 意地悪そうな顔で聞いてくる黒ネコをよそに、僕は二本足で歩こうとする。歩くどころかうまく立つことも出来ない。立とうとするとお尻が床にペタンとついてしまう。

「おや、出来ないね。おかしいねぇ。キミはネコじゃないんだろう?」

 ちくしょう、なんで。僕は人間じゃなかったの? パパとママの子供じゃなかったの? 目の前のこいつが言うようにネコっていう生き物だったの?

「うわぁぁぁぁーーーーっ」

 僕は泣きながら叫んだ。



「ニャーーーーーーッ!」

「おやおや、もう仲良しになったのかな?」

「きっとお友達が出来て喜んでいるのよ」

「パパ、ほら見て。ソラも嬉しくて飛び立ち上がろうとして喜んでるよ」

「ハハハ、ほんとうだねぇ。ショウ、名前は決めたかい?」

「うん。リクっていう名前がいい」

「ソラとリク。うん。とってもいいんじゃないかしら? 仲良しになれそうな名前ね」

「うん。パパもすごくいいと思うぞ。ソラとリク。あと一人いたらパパの好きな順列組み合わせの変形合体ロボと同じだがねぇ」

「やだぁ、パパったら。もうオタク野郎なんだからっ」

「ハハハハ、こりゃまた一本取られたなぁママ」


 うう。みんなニコニコ笑っちゃって。僕のことを笑ってるの? 僕がネコだから? 人間じゃないから?

 僕はパパとママの子供でお兄ちゃんもいて。家族だって思ってたのに。

「僕は、人間だ」

 弱々しくつぶやいた。

「はぁ、まだ言ってるのか。いい加減認めろよなー。これから一緒に生活するんだからネコ同士仲良くやろうぜー、兄弟!」



「ニャー、ニャニャー」

「ニャー、ニャニャーーニャ。ニャーニャニャー。ニャニャニャーニャ、ニャ!」

「ほら、ソラとリクが早速あそんで欲しそうに鳴いているよ」

「あー、ほんとだー。じゃあ行くよーっ」

 お兄ちゃんはそう言うと、いつも遊びに使っているボールを僕らに向かってバウンドさせた。


 こんなに僕はショックを受けてるのに、お兄ちゃんは全然わかってないよ!

 もう、こんなにも悲しい気持ちなのに遊んでる気分じゃないんだよ! 察してよ! 気持ち察してよ!

 僕がネコだったなんて。絶対に認めたくない。

 僕は人間だ!



 気がつくと僕はボールに向かって勢いよくダイブしていた。

 


読んでいただきましてありがとうございます。


良かった、面白くなかったなど、なんでもよいので感想をお待ちしております。

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