紙耐久の魔法使い
魔法使い ゾヴィラー・ウィッジ。彼が、一流の冒険者となるべく初めてのクエストに臨む。
アルディス王国の冒険者ギルド。
マスターに声を掛け冒険者登録の手続きを完了させる。これで晴れて自分も一人の冒険者だ。
冒険者にはそれぞれランクが存在し、自分は当然一番下の『☆1冒険者』。
早速と言わんばかりに、ギルドの受付嬢がクエストを勧めてくる。
『エルミア平原の薬草採集 推奨ランク ☆1』
『シルディアの森のキノコ採集 推奨ランク ☆1』
『ガルディス洞窟の鉱石採掘 推奨ランク ☆1』
最低ランクらしく地味ではあるが、魔物と戦闘する系のクエストがないのはありがたい。
「じゃあ、この薬草採集のクエストで。」
「こちらのクエストですね!採集対象は『ヒーリングラス』を5本です!」
受付嬢は快く受注印を押してくれた。
エルミア平原はこの王国を出てすぐだ。ギルドを後にし、王国の城門へと足を進めた。
城門を抜けしばらく歩くとそこには大自然、『エルミア平原』が広がっていた。
クエスト達成に向け、1度深呼吸。空気が美味しい。
今回のクエスト目標である『ヒーリングラス』。依頼書を確認すると、それは小川の周辺に自生していることが多いようだ。
辺りを見まわし耳を澄ませる。水の流れる音が聞こえる。音を頼りにし、慎重にその方向へと向かう。
当たりだ。発見した川辺には目標の薬草、『ヒーリングラス』がたくさん生えていた。
「これだけあれば、5本なんてすぐだ!ラッキー!」
薬草を必要な数だけ丁寧に摘み取り、ポーチに詰める。
楽勝だなんて思っていると、後ろからガサガサと音が鳴る。
そういえば、水辺にはスライムがよく出るから気をつけてと、よく幼い頃から注意された。
予想通り、茂みからスライムのお出ましだ。ピチャピチャと水音を立てながらこちらに近づいてくる。
即座に杖を構え、炎魔法を唱える。
「フレイム!」
火の球がスライムに着弾し、弾け飛んだ。魔法使いが一番初めに覚える炎魔法『フレイム』。普通ならリンゴ程度の大きさの火の球が放たれるのだが、ゾヴィラーの場合はまるで大砲のようだった。
「よし!撃破完了!」
魔物退治も意外と簡単と思っていると、後ろからとてつもない激痛が走る。
「ぐあっ!?」
スライムは一体だけではなかった。もう一体後ろに潜んでいたのだ。そいつに強烈なタックルをお見舞いされてしまった。
痛い。折れたかもしれない。死ぬかもしれない。身体に絶え間ない鈍痛と恐怖が響く。しかし胸の奥でなにかが燃えていた。痛みとか恐怖とかとは全く違うなにか。
そうだ。こいつに怯えるんじゃ絶対に一流の冒険者になんかなれっこない。勝つんだ。この恐怖に。
「っあああ!フレイム!!」
恐怖を押し殺し、全力で炎魔法を唱えた。さっき放ったものよりも、更に強力なものを。
ゾヴィラーの放った火の球はさっきよりも小さかったが、その分密度が増していた。スライムに着弾した瞬間、火の球は爆ぜ、瞬時に蒸発させた。
これで一件落着...とはならなかった。ゾヴィラーの放った炎が近くの木に燃え移り、火事になった。
「ヤバい...早いとこ離れよ!」
ゾヴィラーはそそくさとその場を後にした。そして王国のギルドへ向かい、『ヒーリングラス』を5本を取り出す。
「...はい!ヒーリングラス5本!クエスト達成です!ありがとうございまーす!」
「こちら、報酬の銅貨5枚です!お疲れ様でした!」
初めての依頼達成。背中に残る鈍痛を消し去るかのように、満足感と達成感が身体に染み渡る。幸い骨まではいっていなかったが、あの痛みは2度とゴメンだ。
「あぁ...。冒険者って楽しいな...」
ギルド内の椅子に座り、感傷に浸っていた。そんな中、とある話題が耳に入る。
「おい、あの平原で火事があったらしいぞ。なんでも、王国の兵と魔法使いが総出で消火活動に回ったとか...」
「えー?なにそれ。魔物が暴れたりでもしたのかな...?」
様々な憶測が飛び交う。サラマンダーが現れたとか、闇の魔法使いの仕業だとか。
(もう話題になってる...。それもそうだよな....。もっとコントロールしないと...!)
ゾヴィラーは反省しつつも、内心バレていなくてホッとしていた。
今回のことを戒めにし、ギルドを出て自宅へと足を進める。
(家に帰ったら、また魔力を抑える練習だな...)
新米冒険者 ゾヴィラー・ウィッジ。膨大な魔力を持ちながら、貧弱すぎる肉体を持つ彼は、明日の依頼に向けしっかりと休息を取る。いつかこの力を完全にモノにし、一人前の冒険者になるために。
終
初めて小説を書きました。文章を書くのが楽しいです。




