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9.不変と変化

 とうとうこの時がやって来たようだ。

私はその現場を影から見ていた。正直辛くて息苦しくなってしまいそうだった。早く全てを止めてしまいたい。


「俺より強い女は初めてなんだ。俺の専属騎士にならないか?」

そう不気味に笑ってキリアに迫っている。

 

「もしそうなったら……そのうちお前が王妃になるかもな?」

その想像はあまりにも下品だ。

 

ここは鍛錬場の近くだ。私は原作でこの場面を知っていたため、ここを訪れたのだが――改めてここが小説の中の世界なんだという実感がやってくる。

 

(最近慣れ過ぎて普通に生活しちゃってたもんな。)


「何をおっしゃってるんですか?あなたはメルユール様のことが好きなんじゃないんですか?」

彼女は言っている意味が分からないと言わんばかりに顔を歪めて問いかけたが

「それはあいつが俺に対して思ってることなんじゃないか?」


その言葉に心底ゾッとする。こんなに拒絶しても伝わらないなんて一体どのような言葉を並べればいいのだろうか。


「理解できません……」

そう言って彼女は全身の力を抜いた。


それを同意とみなしたのか彼は腕を掴もうとしたが、彼女は足を強く踏み込んで逃げ出した。

そんな彼女と目が合う。出くわさないように帰ろうとしていたが、彼女の足の速さを見込み違えていたようだ。


「……ご覧になりましたか?」

この時のキリアはこんなにも傷ついた顔をしていたというのか。

正直この強さを持ってしてそれを知らない人物に嘲笑されたとして、知っている人物たちには侮られたことなどなかっただろう。

先ほど言われたのは結局のところ"愛人になれ"という言葉に過ぎない。あまりにも残酷だった。


「ごめんなさいあなたを助けられなくて、もうこんなことがないように……」


「メルユール様のせいじゃないですから。」

彼女はそうはっきりと主張した。


「こんなことが続いているのは不運なんです。自分がああすれば、こうすれば、そういったことも叶わない状態にまで傷ついて。

 それでもこうやって立って私を案じてくれている……そんな自分を見てください。」

その姿は今までのどんな彼女よりも大人っぽく見えた。


しかしすぐにいつも通りに戻り

「最悪ですよね、こんな目にずーっと遭ってたなんて……本当に。でも幸いなことに私は強いので、どうにでもできますから!」

と笑う。

「だから心配しないでくださいね!」

こう言ってくれる彼女だからこそ私は本当にこれから起きること全てを阻止したいと願ってしまうのだ。


(ありがとう、あと……ごめんね。)


しかし事は思っていた以上に深刻だった。

サンドルはあの後も何かとキリアにちょっかいをかけていたのだが――


「あの女の何も話を聞いてないのか?」

再びサンドルが私のもとを訪れたので、丁度良い機会だと思い話すことにした。


「何の話?」

彼の意図が掴めなかったので知らないふりをすると

「はっ。」

顔を横に向けてバカにしたように笑う。


「あれだけ仲良しごっこをしておいて何も言わないんだな。」

知ったかぶりをされるといい加減口を塞ぎたくなる。

「あいつを王妃にするのに良いかと思って、見目も良いし何より強いから使えそうだろ?」

もう全てを侮辱するのはいい加減にして欲しかった。


極め付けには

「親しいんだからこれからも親しくしろよ、な?」

これだ。


正直聞くに耐えない発言以上に気になることがあった。

(もしかして……?)


「じゃあ私があなたへの気持ちを認めたら私を王妃にするの?」

我ながら薄寒い質問だ。


「……さあな。」

本当に卑怯だ。


しかしこの回答のおかげで分かった。

原作の時点ではメルユールが既にサンドルに依存しきっていたため、彼は彼女から逃れることを望んでいたのだ。

そのためこのような質問をされたら侮辱されるか殴られるかの二択だ。しかしそのどちらでもなかったと言うことは――


(話の進み方が変わってる。)

確実に私が運命を書き換えてしまったところまで辿り着いてしまったのだ。


「大丈夫。そんな日は決して来ないから。」


「おい!」

彼が手を出してくるタイミングも最近は分かってきた。


(剣術の授業を受けているからかな?)


「キリアにこれ以上手を出したら絶対に許さないからね!」

私はそう叫んで、はしたないものの全速力で走ったがまた嫉妬だと勘違いされそうだ……と頭を悩ませたのである。


「困ったものだな。」

ディエラは私たちの話を聞いて横から呆れていた。


「だから言ってるだろう。そもそも論外だと。」

彼はこういう時に全く躊躇わない。いくら家が派閥を表明しているとは言え、あまりの遠慮のなさにヒヤヒヤすることがある。


「それが分からない向こうの派閥は自分の利益ばかり考えて勘定ばかりしているから……」

と言いかけたが止まる。そして私の方を見た。

「君の話じゃないからな?」

そんなことは分かっているのでキョトンとしていると

「随分と信用されているようだな。」

と言って目線を下ろした。


「それより君たちは期末試験の勉強は大丈夫なのか?」

そう問いかけられる。どうやら彼はその勉強を続けていたようだ。


(小説では天才って設定だったけど努力なんだ。)

そう思ってノートを覗き込んでいると

「君には必要ないだろう。」

と伏せられる。


「なぜ?字が綺麗だなって見てただけなのに。」


その言葉に対して少し怪訝な顔をして

「どうせ君はまた良い点を獲得するんだろう?」

そう返される。どうやら私をライバル視してくれているみたいだ。


(これはただ義務教育の賜物なんだけど……)


「でも特別に君には見せてやってもいいぞ。」

そう言って満面の笑みでキリアにノートを渡そうとするのだ。


「この人まあまあな頻度ですごい高度な嫌味を言ってくるだけじゃなくて行動に移すのが嫌ですね。」

と苦々しい顔をして笑っていた。


しかし

「……でも、厳しいので貰っていきますね!」

そう上機嫌で鞄にしまいに行ったようだ。

 

(いいな……)

羨ましい気持ちでいっぱいになって見ていたが

「ここについてなんだが。」

そう言って問いかけられて振り向いた瞬間――思った以上に彼が近くにいて驚いてしまう。


「す、すまない。」


「ごめんなさいっ。」

少し気まずい時間が流れたが

「何の話……?」


彼と試験範囲についての話をすることができたのは嬉しかった。

しかしそれだけではなく、実際に試験勉強の助けになりそうでとても良かったのだ。


そんな期末試験も終わり、夏季休暇が目前となった頃――

 

彼が私の言うことを聞くわけがなく

「おい、ちょっと来い。」

そうやってキリアを呼びつけたりしていた。


「いい加減にしなさいよ。」

私が怒ると

「そう嫉妬すんなよ。」

とあしらう。


「鍛錬場に来て練習に付き合ってもらうんだよ。」

そう彼はしつこく彼女を呼び続ける。


「メルユール様、大丈夫ですから。」

と彼女が向かおうとするので

「もういい加減大丈夫じゃないわ。」

そう彼女の腕を掴んで止めた。


「あなた、剣術大会で彼女が右足を怪我したの知ってるわよね?」

とサンドルに尋ねる。

「それが何だよ。」

彼はまた苛立って足を鳴らしている。


(怪しい……)


「あなたがそうやって練習に付き合わせてばかりだからちゃんと休めてないせいで足が治ってないのよ!」

そう指摘すると何も言わなかった。わざとなのだ。

「国のためになるとか言って彼女を巻き込もうとしてるけど優秀な人物を傷つけるのがなんで国のためになるの?」

保身のために黙られるのももう嫌なのだ。

 

「もう、もう良いですから……」

隣で申し訳なさそうに止めようとしているメルユールに申し訳なくなり、サンドルの腕を引っ張った。

「落とし前をつけましょう。」

彼はその提案を受け入れた。


「お前は俺に何を言ってるのか分かってるのか?」

人前ではないところになるとすぐこれだ。

「俺が言えばお前なんてすぐこうだって、な?」

そう言って指で首元を弾かれる。実際そうだ、だからこそ誰も止めることができなかった。


「でもそうするにはまだ惜しいだろ?つまらないからな。」

あの少し人をバカにしたような笑い方が嫌になる。

 

「じゃああの女と遊ぶのをやめるとしてそれと引き換えにお前は俺に何してくれるんだ?」

心が擦り切れそうな問いかけだった。


「……一体何が望みなの?」

そう口に出したもののこんなことは決して尋ねたくなかった。声が震えていて惨めだ。


「いつも言ってるだろ?引きずって這いつくばって欲しいって、お前が俺を傷つけた分お前も傷ついて欲しい。」


きっと彼が望んでいるのはこうだ"地獄に落ちて欲しい"そのような絵空事のような願い。自分で言って虚しくないのだろうか?


「もう勝手にして、付き合ってられないから。」

そう投げ放った瞬間、腕を掴んで壁に押し付けられる。


「調子に乗るなって言ってんだよ!」


「だから言ってるだろう?女性をみだりに傷つける人間こそ調子を見失っていると。」

そう言ってサンドルの手を私の腕から無理矢理離そうとする。


「ディエラさん。どうして――」

私はそのままその場に倒れ込んでしまった。闇の中で散らばった毛先を束ねようとしていたのが彼だと願うしかなかった。

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