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12.

 「妹と仲良くしてくれると嬉しい。」

そうディエラに頼まれたものの、私はずっと彼女に会いたいと思っていたので頼まれずともたくさん話すつもりだった。


屋敷に滞在させてもらった次の日―― 

「お姉様はお兄様のどこが好きなんですか。」

小さな声で問いかけられると可愛くて仕方がない。

「まずお顔が綺麗でしょう?」

と言うと彼女はパッと笑って

「そうですよね。私はよく似ていると言われるんですがすごく嬉しいんです。」

花が咲いたように笑う姿が確かに彼にそっくりだと言うのに性格は――なんて考えていると


「そろそろ出発しよう。」

ディエラが私を呼びにやって来る。これから私は彼と実家に帰るのだ。

「またお会いできますよね。」

小さな声で呟いて首を傾げる姿が本当に愛らしい。

「もちろん、すぐにお手紙を書きますから。」 

私の言葉を聞いて

「ありがとうございました。」

礼儀正しく挨拶して手を握って来るのだ。


彼女に手を振って退室すると彼は

「ジゼルは良い子だろう。」

自慢げに話して来るので

「確かによく似ているけどディエラさんみたいな毒気が全くなくて可愛らしかったわ。」 

そう返すと彼は嬉しいのか嬉しくないのか分からないような複雑そうな顔をして

「そうか……」

と呟く。彼にしては言い返してこないのが珍しいなと思うと

「もしかして君は褒めているのか?」

突然尋ねてくるので驚く。普通逆ではないだろうか。

「さあ?」

目と手を開いて表情で誤魔化すと彼は私を見続けていた気がするがそれ以上は答えなかった。正直彼への好意がバレてしまうのは時間の問題のような気がする。


そんなこんなで私たちは別々の馬車でセルヒー家の屋敷へと向かったのだが――

「婚約は許さないぞ。」

父はその一点張りでディエラを困らせてしまうことになってしまった。


「せっかく来てもらったのにごめんなさい。」

必死に謝るしかなかった。彼は私のためにここまで動いてくれていると言うのに

「いや、最初から覚悟していたから大丈夫だ。」 

軽い答えの一方で真剣な顔をしている。何か策があるのだろうか。


「君の心が一番大事だと思っているが、それでも本当は君が一番言いたいことを伝えて欲しいとも思うんだ。」

それはそうだった。私は自分という存在がメルユールではないと思っている節があるが、サンドル殿下との間にできた傷に関してはあまりにも感情を共有し過ぎている。全てを恐れていた。それが終わらないことについても、それを告白できないことについても。


「私、ちゃんと話してみようと思うわ。」

そう宣言した時

「メルユール!どういうことなんだ!」

叫んで私に近づいて来たのは兄だ。

「お兄様……」

彼は私の肩を掴んで

「気持ちは分かる。でも焦って婚約しなくても良いじゃないか。こんなことをして状況が余計に悪くなったらどうするんだ。」

確かにこれからのことを思うと怖い。私だけの問題ではなくなってしまうのだ。

「でももう限界なの。近頃のサンドル殿下は私の友人にも見境なく言い寄ったりしているのよ!」

これが愛だと言うならまだ良かったと言うのに、そんな気持ちで伝えた言葉は

「一体どういうことなんだ?」

と先ほど拒絶されてしまった父を再びこの場に引き戻すこととなる。

「殿下はセルヒー家を利用したいだけなの。私の友人は剣術に優れていて……彼の言葉で言うとそれも利用価値があるってことになるのかしら。しかも女性だから関係を結ぶことは簡単。そう思っているだけなの。」

あまりにも惨めだった。父はそれを聞いて唖然としていた。すっかり彼が私を一心に愛しているがゆえに人と違っているのだと思い込んでいたのだ。

「拒絶すればするほど手を上げられて――」 

だんだん涙が滲んでいく声に

「もういいんだ。」

とそっと肩に触れて話すことを止めようとするディエラの優しさが染みる。


「……辛かったわよね。」

そう駆け寄ってきた母に抱きしめられた。私はその後子供のように大泣きして泣き疲れたまま寝てしまったが、家族とディエラの間で様々な話がされたそうだ。


「もし君が伝えたくなかったことを言ってしまっていたらすまない。」

次の日に会った彼はそんなことを話していたが

「いえ、もう大丈夫です。」

一言伝えるだけでも十分気が楽になったのだ。もう躊躇うことはないだろう。


「それより……ソラネル家でもうちでも結局あなたが全部許可を取ることになっててしまいましたよね。本当にありがとう。ごめんなさい、不甲斐なくて。」

少なくともあんな情けない姿は見せたくなかった。


「いや、私が言い出したことだから良いんだ。そもそもちゃんと君が両親に打ち明けることができたのが一番重要なのだから。」

そんなことで私たちの婚約は正式に決まった。あとは発表をどうするかということだけだ。


実家を離れる際に

「メル。」

兄にそう呼びかけられた。

「誰よりも先に気付いていたというのに守れなくてすまない。先に大人になったしまったせいか保身に走ることばかり考えるようになってしまったようだ。自分の大切な人は自分で守らなきゃいけないと言うのに。」

彼はそう言って私の手を握った。薄い傷跡を見ている。

全て綺麗に治って欲しいと思っていると言うのに、今はこれでしか自分を保証することができなかった。

「いつでも私を守ってくれたお兄様を疑ったりしてないわ。」

それは本当の気持ちだったが

「いや、一番の味方でいるべきだったのに……」

と呟くのだ。ディエラへのライバル意識だろうか。正直なところ家族と比べるのは違う気がする。


(彼については私の一方的な感情の方が強いだろうから。でも家族はここまで長く過ごしていると本当の家族みたいだもん。)

寂しそうな顔をしている彼を背伸びして強く抱きしめた。メルユールは本当は甘えたかったのだろう。それを封じられた彼女が心を壊してしまった理由が改めて伝わってくる。

「困ったことがあれば連絡するんだよ。」

それ以上も言いたいことがあるように見えたが押し込んでしまったようだ。人のことを思って真実を隠すことによってかえって本人を傷つけてしまうのはよくあることだ。私はあまりにも隠し事が多い。そしてこれからも増えていくのだろうが、本当にそれで良いのかと考えてしまう。


(実は私、メルユールじゃないんだよって言ったらみんなどんな反応するのかな。)

そんなことを考えながら学園へと向かう馬車に揺られていた。  


夏休みはあまりにも大きな出来事と共に足早に過ぎて行ってしまう。

「おはようございます。ディエラさん。」

新学期に隣の席に向かって挨拶すると彼はもう最初出会った時のような嫌そうな顔はしていない。

「ちゃんと夏休みの課題は全部終わらせたか確認したのかい?メルユール嬢。」  

それでもこの毒気は相変わらずだ。

「もし抜けがあったらお優しい婚約者様が見せてくださるって。」

そう令嬢らしからぬ表情て少し舌を出すと

「どうやら君の婚約者様は君が調子に乗り過ぎた時のために破棄届を準備しているそうだ。」

そんな意地悪で返されるが顔は笑っている。


「ちょ、ちょっと私とお別れした後にディエラ様と会ったりしてないですよね!?」

話に入ってくるのは思っていた以上に目ざといキリアだ。

「なんか怪しい。ちょっとデレデレし過ぎじゃないですか?久しぶりに会ったからですよね?」

私は必死に何もやましいことはないかのように黙っていたが

「君は彼女と素敵な日を過ごしたようじゃないか。良かったな。」

と彼は話を逸らそうとする。それは成功したようで

「そうです!メルユール様が帰られてからすごく寂しかったです。鍛錬をしている時によく見ててくださるのが嬉しいんですよ。」

どうやら自慢しているようだったがディエラには通じていない。


(一体私はどんな顔をしてここにいれば良いんだか……)

そんなことを考えてぼーっとしていると

「あ、そう言えばサンドル殿下が登校されているようですよ。」

彼女は嫌悪に満ちた顔で伝えてくる。

「噂があったとは言え、あんなに休んでも退学にならないなんて。」

その言葉に対して

「だからこそちゃんと過ごせって陛下に言われたんでしょうね。」

私は冷たく言い放った。ディエラも頷いている。


「そんなことよりっ!」

キリアは突然話題を変えた。すごく嬉しそうに話し始める。

「最近寮に戻って学園内で鍛錬してると女の子たちから剣術を教えて欲しいと頼まれるようになって。」

どうやら彼女は抜け駆けして他に友人を作ってしまったようだ。

「教えてみるともっと技術が磨かれるような感じがしますし、すごく楽しいんです。みんなが強くなっていくのを見るのは楽しいですね。」

私はふと思い出した。落ち着いた優しい秋がやってくる。原作において苦労していたキリアにもやっと安らぐことができる時間が訪れるのだ。おそらくこの世界でも同じような展開になるのではないだろうか。


(どうか彼女の願いが叶うと良いけど。)

夏の日、彼女が私に必死に伝えてきたそれを私は改めて思い返していた。  

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