第5話 剣が喰らうもの
「結構、時間かかっちゃったな」
『馬鹿言え。我ありきでも、これほどの迷宮を一人で、かつ一日足らずで突破するのは至難ぞ』
「それもそっか」
リセインはダンジョンの始まりに降り立つ。
見覚えがある景色というのは安心感をもたらした。
「外だ……!」
外の世界がすぐそこにある。
日が沈もうとしているのか、草木がオレンジかかっている。
同じような景色が続いたからか、これだけでも感動ものだった。
ふと、聞き覚えのある声が反響してきた。
「今から行くなんて無茶です!」
「草がダメだった。あいつも失った。オレらは元々聖剣のお守りとしてパーティーを組んでる以上、このまま街に帰れない」
「せめて仮眠を取ってから考えましょう!?」
「……もしかしたら、まだあいつが生きてて、どこかに隠れてるかもしれないだろ?」
「落ち着けリーダー! ヒーラーがいない状態にで突っ込んでも」
すっっっごい気まずい。
なんて言って顔を出せばいいのかわからない。
いま、全身燃えてるし。
ダンジョンクリアしちゃったし。
何から伝えるべきだよ。
まず粋な挨拶とか。
『勝手に殺してもらっちゃ困るな』とか?
『地獄の底から這い上がって来たぜ』とか?
おれなんかが言うことじゃないだろ、恥ずかしさで死にそう。
じゃあやっぱ今するべきなのは……。
「……は?? おま、お前」
眼前に剣士。
振り切ってきたらしく、かち合ってしまった。
「あ。えっと、うん。どうも……ヒーラーさんってど」
「火霊が乗っ取ってるのか!? よくもオレの友だちを!!」
「待って待って待って本物! 本物のリセインです!!! あの! 彼女を治す方ほ」
「なんだなんだどうした、ってリセイン!? 生き延びたのか!? まさかそんな」
「リセインくん!? 幻を操る魔物ってここにいましたっけ」
「……ヒーラーさんがいるところまで連れてってくれ」
村の民家で、ヒーラーは寝かされていた。
村人の女性が看病をしながらリセインに説明する。
「ずっと目を覚まさなくて……。傷はないんですが、このアザといい、昏睡状態といい、同じ症状が出てる者がいて。まだ誰も回復していないんです」
「ちょっと、離れててもらっていいですか?」
「は、はい」
リセインが聖剣を抜くと、周囲にいた剣士たちに緊張が走った。
剣士の手が柄にかかっている。
「怪しいって思うんなら、切りつけてもいいよ」
「……いや、すまない」
ヒーラーに向き直る。
聖剣を彼女の肌に乗せ、目を閉じた。
『魔裂けとは何かだと? なぜお前に教えねばならん』
ボス部屋、ヒュドラの死骸が塵にかえっていく最中。
リセインは聖剣を酸の海にかざしながら言う。
「答えないなら、この酸にお前をぶち込んで誰も触れないようにする」
『お前も死ぬぞ』
「答えろ」
『……わかった』
魔裂けとは、体のなかに張り巡らされた魔力循環が詰まって起こる現象。
加工のしていないコアから魔力を引き出すと、体に馴染まないせいで排出がうまく行かず、蓄積してしまう。
とくに短時間で多量、無加工の魔力を取り込むとなりやすい。
ヒーラーの内側に意識を集中させる。
初の試みだが、失敗は許されない。
彼女のものじゃない魔力だけ吸収しろ。
彼女の魔力は吸うな。命も吸うんじゃない。
絶対に傷つけるな。
そう剣に命じる。
『まさか我が直接人間を救うとは。癪だが、まぁ良かろう』
ギィィィ…………ン
黒い煙のようなものが石に吸い取られていく。
リセインは集中する。
聖剣が悪意を持たないよう、見張る。
日が沈み、夜が来てもになっても誰も動こうとしなかった。
部屋の中を、聖剣と炎が照らしていた。
吸収が終わる。
「お、おいリセインどこに」
ヒーラーが目を開ける前に、リセインは制止を聞かずにふらふらと出ていく。
向かうは、剣士に依頼した子どもの家。
異様な姿の訪問者に、子どもは何も言えずじっと見つめる。
リセインも黙って、寝床に眠る女性へと剣を当てた。
リセインには何かが見えていた。
思考を捨て、それを追う。
あらゆる村人から黒いモヤを吸い取り、圧倒されている魔術師からも吸収した。
何かが見えなくなったらしい。
キョロキョロと辺りを見回したリセインだったが、やがてゆっくりと目を閉じ、倒れた。
「リセイン!」
微睡みのふちで、聞く。
〈聖剣士様! 私たちの村を救ってくださり、ありがとうございます!〉
〈いや〜それほどでも!! 楽勝っすよ!!〉
女性と、若い男が話す。
〈聖剣士どの。此度の貴殿の活躍、見事であった。褒美を使わそう〉
〈光栄でございますの〉
壮年の男性と、女の子が話す。
〈聖剣士様、こんなしがない老人を助けてくださるなど〉
〈別にいい。……元気で〉
老人と、男性が話す。
〈せーけんしさま! これあげる!〉
〈ふふ、ありがとう〉
幼児と、女性が話す。
たくさんの呼び声。たくさんの応える声。
それらは、全て違う人間が発していた。
音の氾濫。
リセインは声たちのなかに沈んでいった。
目を覚ます。
リセインはベッドで横になっていたらしい。
時刻は深夜らしく、暗闇を短くなったロウソクの小さな光が映し出す。
周りに、誰かがいるとわかった。
剣士がベッドに突っ伏している。
魔術師は椅子に座っていて。
武闘家が壁を背に眠る。
ヒーラーは水差しの置かれた机に頬杖をついていた。
(嫌われてなんか、いなかったんだ)
お荷物だったのは事実だろうが、それでも仲間たちがリセインを守り続けたのも、事実だった。
リセインは喉の渇きを感じて、水差しを取ろうとした。
妙な、違和感。
「ん……ああ、起きたんだなリセイン……!?」
剣士は、水差しを掴めない右手を呆然と見つめるリセインを見た。
彼の右目が、濁っていた。
聖剣。別名、人喰いの剣。
所有者が身を捧げることで、絶大な力をもたらすもの。
多くの聖人が剣によって人々を守ってきたため、聖剣と呼ばれ神殿が建てられた。
聖剣は、静かに少年を待っている。
いったんこのお話は5話で完結とさせていただきます!
約1万字という短い作品でしたが、楽しんでもらえたら嬉しいです!
お読みいただきありがとうございました、感想や誤字指摘などがありましたが感想欄までお願いします!




