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聖剣ありきの英雄譚~人喰いの剣に選ばれた無能少年は、命を焚べて仲間を救う~  作者: 荒川千鶴


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第4話 燃えよリセイン

 部屋の中は暗く、少し先しか見えない。

 部屋、というよりも大きな建造物と呼んだほうが正しいだろう。


 土が踏み固められた床、壁は曲線を描く。天井は高すぎるのか目視できない。

 ボスが居座る部屋は闘技場に似ていた。


 リセインが剣を構えると、応えるように壁際のトーチが灯る。

 明かりがついたことによりボスの姿がわかるようになった。


「二本首のドラゴン……?」


 ずんぐりとした胴体、太い四本足、長い尻尾、一対の飛膜。

 ここまでは道中のドラゴンと一緒なのだが、違いは二つある頭とその巨体であった。


 先ほどまでのドラゴンが馬車程度のサイズだとすると、このボスは屋敷サイズ。比較にならないほど巨大だった。


「でかいが、今までのと同じ攻撃ならいける! やってやる!」


 勢いよく走り出す。

 大ドラゴンの二つ首がリセインを認め、ブレスを吐こうとする。


「ギュォォォオオオオオーーーーーーッ!!!」


『あれはヒュドラの分体だな。あやつの息なんぞ当てるなよ』

「ヒュドラ……!? っ!」


 前世の知識を刺激され、リセインはとっさにブレスを避ける。

 吐かれたのは炎ではなく、何かの液体だった。

 当たった床がジュワジュワと音を立てて急速に溶ける。

 悪臭を感じながら、リセインはまともに受けていたらと思いゾッとした。


『吐くのが魔炎ではなく酸だからな。取り込めぬわ』

「さっさと終わらせれば良いんだろ!」


 吸収できるやつとできないやつ、何が違うんだろうと考えたいところだったが、今は戦闘中だ。

 供給が期待できなくなったため、早くケリをつけなければいけなくなった。


「ギュォォォァアアアーーーッ!!」


 片方の首がブレス攻撃をする。

 それを避けるも、宙に飛んだリセイン目掛けもう片方が酸を吐いた。

 なんとか体をよじって回避するも、つま先が当たってしまう。

 ジュッという音とおぞましい臭いが発される。


「ぅぅあア゛ア゛……っ!!」

『切り落とせ。でなければ再生できん』

「〜〜〜〜〜っ!!!」


 聖剣の声のまま、リセインは足を切り離した。

 浅く息をする。

 体を這う炎が集まり、足を作り出す。

 視界がうるみ、頬を伝うしずくの感触があるも、絶対に目はつむらない。

 双頭がこちらを見ているからだ。


「ほとんど火が無い……! けど、行くしか!」


 走る。

 長い尻尾でなぎ払われるも、最低限の動きで避ける。

 なるべく隙をつかせない作戦だ。


「おりゃぁぁあああっ!!!」


 一本の首を切ろうとした。

 聖剣が、途中で止まった。


「切れなっ!!?」


 ずる、と剣が抜けて体勢を崩す。

 着地したリセインを踏み潰そうとするヒュドラ。

 転がって避けるも、違和感があった。


「痛っ……たいぃ…………」


 血しぶきを浴びた箇所からボタボタと血が垂れる。

 溶けている。ブレスとはやや異なる液体か。

 残り少ない炎がより集まって、癒やそうとした。

 同時に、リセインの体から力が抜ける。


「ま、魔力が……っ!」


 立てない。

 右手が動かない。

 膝が震える。

 足が床を掻く。

 尻尾が来るのが見えた。


 ガアンッ!!!


「……っ!!!」


 壁に激突する。

 ドサリと落ちて灯りの炎に突っ込む。

 土煙があがり、リセインの姿が消えた。




 もうろうとする意識で、リセインは確かに聖剣を握りしめていた。

 今度は手放さなかったな、と心のどこかで安堵する。

 何も見えないなか、リセインの耳が奇妙な音を拾った。


 ギィィ……ン


 聖剣の石が炎を吸っている。


「これは、魔炎ってやつ……なのか」



 頭がかってに思考を始める。

 吸収できるもの。ドラゴンのブレスとか、この炎とかの魔炎。


 人間は備わった魔力で魔法を使うって聞いた。

 じゃあこの火はおれが知っている酸化現象じゃなくて、魔法の一種なのか?


 吸収できないもの。酸。打撃や吹っ飛ぶダメージそのもの。


 聖剣は、魔力を使役すると言っていた。


「吸収するのは魔力?」


 いやでも、聖剣は『魂を喰らう者』とか、『命を焚べよ』とか言ってたっけ。

 おれの体には魔力が無いらしいけど、じゃあ聖剣が求めているのは?

 こんがらがる。思考がまとまらない。考えた意味がない。


「わっかんねーけど」


 リセインは転がったまま、剣を自身の右目に向けた。


「あの時みたいにやれば……」


 切っ先を右目に近づける。




(つまらない)

(つまらんな)


 ヒュドラは呆気なさを感じていた。

 ここに来たのがたった一人ということに驚いたが、所詮は人間か。

 おおむね、仲間の犠牲ありきで進んできたのだろう。


(あの人間、妙な剣を持っていた)

(煙がはれたら人間のほうは溶かして、剣だけ残すとしよう)


 ヒュドラは煙の中に、炎を見た。

 トーチにしては大きいその炎は、言葉を話した。


「力が出るんだな!!!」


(!?)

(!?)


 右の手と目から炎を噴くその姿は、ヒュドラの知る人間とはかけ離れていた。



「ギュラァァァァアアアーーーーーーッ!!!」


 ヒュドラは猛炎に向かいブレスを吐く。

 軽々と避ける炎に片割れの頭が追撃するも、炎は地面に剣をつきたて、掘り起こした土によって相殺した。


 ブレスと尻尾による攻撃を炎がいなしていく。


 まっすぐ己に突撃してくる炎に、ヒュドラは本能的に感じた


(怖い)

(近づけさせては ならない)


 ヒュドラの片割れがもう片方の首を噛む。

 片方は苦しみながらブレスをまき散らした。

 ついで、巨大な飛膜を羽ばたかせて飛沫を広げる。


 酸と毒の範囲攻撃だ。

 金属を腐らせ、肉を蝕む。


(我らが分かたれる前に、この攻撃を耐えた者)

(誰一人としておらぬ)


 炎は飛んだ。

 ヒュドラの真上に、飛沫を恐れることなく突っ込んでいく。

 ヒュドラは、炎がより一層大きく燃え上がるのを見た。


 ジュゥ〜〜ッ!!!


(溶けた?)

(違う)


 毒酸の水面を破り、炎が落ちてくる。


(蒸発された!!)


 炎は剣を振りかぶった。


 首を同時に焼き落とす。

 それだけに飽き足らず、炎はヒュドラの頭、体をひたすら切っていく。


(あれは……あのお方は)

(なるほど……剣になられていたとは)


(我らが負けるも致し方なし)


 ヒュドラの目は刻まれる直前、炎のなかに人間と、その剣を見た。

読んでくださりありがとうございます!

感想や誤字指摘などは感想欄まで!


~小話~

ヒュドラというのは本来、五つや九つの頭を持ち、首を切っても切っても生えてくる魔物です。

このダンジョンにいたヒュドラは本体から分かれた個体のため双頭だったんです。

再生に関しても、リセインは炎を纏っている状態で切り落としており、断面が焼き焦げたために再生しませんでした。

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