17 侍女になります(2)
(あれ?・・・謁見室はないのかしら、ここって多分私的な場所よね)
灰色のひっつめ髪の侍女頭の後に従いながら、シュリナはきょろきょろと辺りを見まわした。明妃は、玄武国第二位の身分と聞いていたが、それにしては離宮内に人の気配が少なく、閑散としていた。
(本当に、ここに明妃がいるの?本当に彼が明妃なの?)
シュリナの疑問は募る一方だった。
「こちらでございます。お入りください」と、侍女頭は恭しくシュリナを扉の前へ案内し、「シュリナ様をお連れしました」と、声をかけ、扉を開けた。
「ようっ、シュリナ」
「あれっ、デミトリー?」
シュリナは、まずデミトリーに気がついた。それから、天蓋つきの寝台の上を見て
「・・・・・」
呆気に取られて、数秒、目が離せなくなった。白金の面覆いで左半顔を隠した、絶世の美女が微笑んでいた。「シュリナ」と呼ぶ声は、確かに聞き覚えがあった。
「あ、あなた、リーユエンなの?本当にリーユエン?」
シュリナは礼法にのっとった挨拶をするのも忘れて、震える指先をリーユエンへ向けた。が、侍女頭は、無作法を許さず、横でオホンッと大きく咳払いした。
その音で、正気に戻ったシュリナは、慌てて拝礼し、
「大牙国、黄牙長老ダーダムの名代として参りましたシュリナでございます。明妃にご挨拶申し上げます」と口上を述べた。
けれど、リーユエンは「作法はもう気にしなくていいよ。ここは私室だから、寛いでくれ。待たせて申し訳なかった。ちょっと仕事が立て込んでいて、時間を取られてしまったんだ」と、話した。
その横で、げっそりした顔のデミトリーとヨークがうんうんとうなずいていた。今日は、書類の仕分けを二人も手伝ったので、疲れていたのだ。
「長老の名代だそうだが、彼は元気にしてる?」
リーユエンから聞かれ、シュリナは「ええ、元気よ。物凄く反省しているわ。それから、これは、父から預かった、あなた宛の手紙よ」と、親書を取り出し、侍女頭へ手渡した。
それを、侍女頭から受け取ったリーユエンは、ガサガサと中身を取り出し、読み出した。
「クッ、クックッククク」と、読む途中から笑い出した。
デミトリーが、「何がそんなに可笑しいんだ?」と尋ねると、リーユエンは親書の一枚目をひらひらと振り、デミトリーへ見せた。デミトリーはそれを声に出して読み、
「『麗しき玄武国の華、明妃におかれましては、お怪我の具合はいかがでございましょうか?卑しき僕ダーダムがお見舞い申し上げます。数日来、明妃の甘やかな唇の思い出が忘れられず、心を痛めております。明妃とは知らぬままに働いた無礼の振る舞いは、どうか広大無辺の大慈母心でお許しいただきますよう伏してお願い申し上げます』何だとっ、あのクソ親父、まだこんなふざけた妄言書きやがってっ!」と、親書を叩きつけ、髪を逆立てて怒り狂った。
侍女頭のウラナも目の色を変え明妃へ詰め寄り
「明妃、また、男絡みで揉め事を起こされたのですか」と詰問した。
「人聞きの悪いこと言わないでよ。向こうが勝手に絡んできただけなのに・・・」
「いつも、そうおっしゃいますけれど、こうなった男がどれだけしつこいかは、よくお分かりでしょう。もう、いい加減気をつけてくださいまし」
「エエェェッ、私は何も悪くないのに・・・」リーユエンは呆然とウラナを見上げた。しかし、ウラナは怖いくらい真面目な表情で
「あなたは自覚がなさすぎです。もう少し、ご自身で慎重になさってください」と注意した。
「これ以上、どう慎重にしろというんだ?」と、言いつつ、彼は、親書の二枚目に目を通し「あれ?シュリナ、君はこの事を承知したのか?」と、シュリナへ親書のある部分を指さしながら尋ねた。その文をのぞき見たシュリナが、今度は「エエッ」と、叫んだ。




