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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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16 白金の明妃(6)

 (侍女頭ウラナの独白)

 私は侍女頭ウラナと申します。おおよそ五年、尊い明妃のお世話を承っております。

 今朝、明妃のお目覚めに気がついた私は、寝台の帷をそっと開け、ご挨拶いたしました。すると、明妃は、私を見上げ、

「ウラナ・・・体を洗いたいのだけれど」と、小さな声でおっしゃいました。私は湯桶を運ばせ、部屋の外に控える他の侍女五名へ、湯を運ぶよう指示しました。離宮のある中庭に、温泉が湧いております。本来ならそちらにお連れしたいのですが、足の指先までお怪我されていらっしゃるので、お部屋の中でお世話することにいたしました。

 私は、昨日お帰りになられた時から、明妃のお髪がもつれてしまっているのが気に掛かっておりましたので、先に洗髪することにしました。明妃の髪は腰の下まであって、艶やかな漆黒で、触れるといつも冷んやりとしていらっしゃいます。四ヶ月も交易に同行されて、十分なお手入れもできず、明妃はさぞお辛かっただろうと思います。私が髪を洗いながら、頭をマッサージして差し上げたら、目を閉じて気持ち良さそうになさっておられました。

 私が侍女たちへ命じて、湯桶へ入れる湯を離宮へ運ばせておりましたら、猊下がそれに気が付かれ、お部屋へ入っていらっしゃいました。猊下は、明妃が浸かっていらっしゃる風呂桶のすぐそばまで入ってこられたので、

「猊下、私は今入浴中なのですが・・・」

 と、明妃は困惑した様子でおっしゃいました。しかし猊下は「その爪が剥がれた手で、体は洗えないだろう。他の者に、体を触らせたいのか?」と、おっしゃいました。

「・・・・・・」 

 明妃は、自分の手をじっとご覧になって、猊下のご指摘通りだと気が付かれたようでした。明妃は、普段、ほとんどの事はご自分でなさいますし、私以外が、体に触れることは許さないのです。私は「猊下、お体の方も私がお世話いたしましょう」と、申し出ましたが、猊下は首をふり、「いや、おまえは、髪に専念せよ」と命じられ、ご自分で海綿を湯につけ絞ると、明妃のお体を洗い始められました。

 明妃は目をつむり、頬を赤らめ、お肌の色もみるみる桜色に染まりました。それはもう、尊いほどお美しいお姿でした。

 猊下は明妃の耳元で「デミトリーに裸を見せたのか?」と、尋ねられ、明妃は無言で首を振って否定なさいました。それから猊下は、明妃の肋骨の浮き出た脇腹をそっと撫で上げながら「若獅子が気に入ったのか?」と、さらにささやかれました。感じやすい明妃は、眉をひそめ、「もう、おやめください」と、ささやき返されておられました。

 昨夜は、明妃は何だか不機嫌なご様子で心配しておりましたが、猊下と仲睦まじいご様子なので、本当に安心いたしました。

 

 ドルチェンは、明妃の反応に満足した。人の心を得させてやりたいと思う一方で、そのために明妃の心が自分から離れてしまうのではないかと、密かに恐れていたのだ。デミトリーに心を動かされることは万が一にもないだろうと分かってはいたが、若い者に特有の情熱を真正面からぶつけられて、明妃が(ほだ)されたのではないかと気になっていた。けれど、それは杞憂だった。明妃の体は、自分の思う通りに反応するし、自分を見上げる紫の眼差しには、含羞の中に隠しきれない情欲が揺らめいていた。

 入浴が終わると、ウラナは妃の髪に薔薇の香油をつけて、念入りに梳った。手足も同じ香油をつけて念入りにマッサージした。それから、薄地の部屋着を着せかけた。ウラナは自分の仕事の仕上がりを満足気に眺め、

「まあ、本当に、明妃のこのようなお姿を拝見するのは実に四ヶ月ぶりでございます。お戻りになられて、本当に安堵いたしました」と、言った。

 そこには、白い肌をほんのりと桜色に染めた妃が、花の精のように寝台に艶やかに横たわっていた。そこへデミトリーが、「リーユエン、お早よう、具合はどう・・・・」と言いながら入ってきたが、その姿を見るや顔を真っ赤にして絶句した。

 リーユエンはジロッと彼を見た。ウラナが、戸口へ行き、

「おはようございます。殿下」と、愛想よく挨拶し、「明妃は、今、ご入浴を終えられたところで、今から朝食をお召しですので、後ほどいらしてください」と、毅然とした態度で追い払った。

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