2 金杖国の王子様(2)
リーユエンとカリウラとハオズィの三人は、金杖国の都トラキアまで出向いた。リーユエンは宿に待機し、カリウラとハオズィの二人は、元老院前の広場の横、大理石の柱廊で飾られた三階建の法律会館で、法務院への調停手続きを引き受けてくれる弁護士を探した。金杖国は、数百年前までは共和制国家で、今だに王政に対して批判的な共和制支持者が多かった。その支持者は、法律家に多く、法律会館の中で弁護士業務についていた。二人は、共和制支持者で王政に批判的、今回の唐突な通行税引き上げを不当だとの訴えを引き受ける弁護士を探した。そして、条件に叶う金獅子国弁護士会トラキア支部所属弁護士クルクスを、法律会館で紹介してもらい、依頼することにした。
純白のトーガを体に巻き付け、髪は金獅子の特徴である、根本は濃い茶色先へ行くにつれ薄くなり金色へと変わる巻毛のクルクスは、派手な顔立ちの弁護士だった。二人から事情を聞き、最初は関心が薄い様子であったが、連署人に老師が加わると知るや
「私が引き受けましょう」といきなり快諾した。料金の交渉もなくすんなり引き受けたことを不思議に思い、ハオズィは念のため
「あなたのお国を訴えることになるが、よろしいのか」と尋ねた。
それに対してクルクスは、
「国の決定は手続き違反が明らかであるし、あなた方の訴えの連署人は、あの有徳の老師、リーユエンだ。私としてはリーユエン殿に審理の場に出席いただき、金杖国王政府の不手際を一緒に糾弾していただきたい。そうすれば、この審理は世間の注目を浴び、こちらに有利な流れが確実につくられる」と説明した。実は野心家であるクルクスは、いま世間の評判の高い有徳の老師と自分は協力し合う関係なのだと、皆に認知させ、自身の名を売り込み、来年開かれる予定の法務官選挙に立候補し当選したいという腹づもりがあった。
話を聞きながらカリウラは、心の中では、(リーユエンは、裏で画策するのは好きだが、自分が動き回るのは面倒くさがるから、どうだろうな)と疑問に思いつつ、それでもこの弁護士のやる気を煽り立てるために、リーユエンにも協力してもらうべきだなと思った。
法律会館から宿屋に戻ってきたカリウラは、リーユエンへ、クルクスの出した条件を伝えた。するとリーユエンは
「調停の場に出席するくらいはするが、喋るのは弁護士の仕事だから任せる。私が座っているだけでいいのなら、行く」と言った。
翌日、ハオズィとカリウラはもう一度クルクスのもとへ出向き、リーユエンの返事を伝え、調停手続きを引き受けてもらった。その日のうちに、クルクスは申立書を作成し宿屋へ持参した。そこで、カリウラが署名し、リーユエンが連署した。クルクスは、リーユエンを感激の面持ちで見つめ、署名し終えたところへ右手を差し出した。
「有徳の老師リーユエン殿にお目にかかれて光栄です。この弁護士クルクスがお引き受けした以上、必ず良き結果を出してみせます」と言った。
リーユエンは、羽ペンを脇へおくと立ち上がり、クルクスの差し出す手へ右手を差し出し握手すると、
「遺憾無く能力を発揮され、我らによろしき結果をもたらしてください」と、言った。クルクスは、手をぐっと握り、「もちろんです。お任せください」と叫ぶように言った。クルクスは、すぐさま法務院へ調停申立書を提出しに行った。
元老院前の広場には掲示板があり、法務院が受理した申し立てや訴訟が張り出される。クルクスが提出した訴状も、法務院の吏員によって張り出さた。それを確認したクルクスは、すぐさま掲示板の横に立ち、よく通る声を張り上げ演説を始めた。
「皆、聞いてくれ。我は、法と正義の神ユスティティアの忠実なる僕、クルクスなり。今張り出された訴状の作成者だ」
この広場は、すべての者に解放されており、演説や議論で、自身の名を売り込もうとする者が常に誰かいた。それにクルクスは、さくらを数人雇い、自身が演説をはじめるや広場にいる者が関心を持つように声を上げさせた。
「いいぞっ、クルクス、正義の味方」