14 中有の夢 (8)
継母とその娘たちは、リュエの登場がおもしろくなかった。表面はにこやかな表情を保ちながら、必死で粗探しを行った。一方、父親は、美しいリュエの姿に満足し
「ドルチェン殿に大切にされているのだな。あの方にお前の事を任せて、本当によかった」と喜んだ。
継母の長女、マイラが席についたリュエに近寄り、話しかけた。
「あなたの旦那様、今日はお見えにならないの?」
リュエは、マイラを見上げ、
「旦那様は、商用で旅行中です」と、答えた。
マイラは、目元は微笑むように細めながらも、口元は無意識に歪ませていた。
「そう・・・大切な妻の父の祝い事を欠席するなんてねえ・・・私が妻だったらそんな事は絶対許さないわ。あなた、結婚したのに、随分軽く見られているようね」
リュエは何と言ったらいいのか分からず、マイラを見上げたまま黙っていた。周囲の者には、マイラが言いがかりをつけ、リュエが戸惑っているように見えた。
「気の毒に、若奥様へあんな揚げ足を取るような言いがかりをつけて、そんなにいじめたいのかねえ」
「そりゃ、あのマイラだよ。気が強過ぎて、口も悪いから、縁談がまとまらないって仲人がこぼしていたよ」
その潜めた話し声は、マイラの耳にも届いた。彼女は顔を真っ赤にし、リュエから離れた場所に座った。
その後は、継母たちと会話することもなく無難に過ごすことができたが、気になる話が聞こえた。
「とうとう、青の長老までドゥルチェムの信者になったらしいぞ」
「俺もその話を聞いた。それに、長老たちは、銀牙へ税を収めるのを止めることを決めたそうだ」
「エエッ、金が入ってこなくなるのか」
「このままだと、大長老は、他の部族を謀反罪で裁こうとするかもしれないぞ」
耳に入ってくるのは、国中の不穏な空気を伝える噂話だった。リュエは、胸が苦しくなった。
祝賀の宴が終わり、屋敷へ夜遅くに戻ったリュエは、その夜恐ろしい夢を見た。銀牙の城郭が、他の部族に囲まれ攻撃を受け、街中では火の手があがり、大勢が斬り殺され、空からは無数の矢が、黒い雨のように降り注ぐ。そして、虎へ転身した歩兵たちが、街中で次々に銀牙の者を襲撃していた。そして、城壁の外側、六部族が包囲する陣の真ん中に、燕尾帽を被る僧形の人物がいた。風体は変わっていたが、その男は、リュエがよく知っている男だった。
寝台から飛び起き、リュエは目を見開き、激しい動悸に胸元を両手で抑えた。息ができなくなるほど、苦しかった。それは、明らかに予知の夢だった。
(どうして・・・私は、もう、生き神ではなくなったはずなのに、どうしてこんな恐ろしい夢を見るの・・・)
リュエの両目から、涙が溢れた。それは、銀牙の滅亡をリュエへ告げる残酷な予知夢だった。
「奥様、いかがなさいました?」
不寝番についていた侍女が、寝台の帷の外から、彼女が起き上がったのに気がつき、声をかけてきた。
「何でもないわ。ちょっと怖い夢を見ただけだから・・・」
翌朝、珍しいことにドルチェンがリュエのところへやって来た。昨日の夢見が悪く、気分が落ち着かず、リュエは朝食を前に何も手につかず、ぼんやりしていた。
「お早う、リュエ、どうした?顔色がよくないな」
ドルチェンに優しく尋ねられ、彼を見上げた。リュエの紫色の眸から涙が溢れた。
「リュエ・・・長い間一人にしておいたから、寂しかったのか」
ドルチェンはリュエの隣に座り、彼女の目元をハンカチでそっと拭いた。
「旦那様、方々お仕事でご出張でしたが、あなた様の本当のお仕事は、本当に貿易商なのですか?」
リュエは単刀直入に尋ねた。迂遠に追い詰めるような技巧は彼女にはなかった。ドルチェンは片眉をあげ、おもしろがった。
「私の奥さんは、何を言い出すのだ。貿易商だから方々出張するのだよ。それとも出張が少ない仕事へ変わってほしいのかい?」
リュエは紫の眸を、ドルチェンの薄緑色の瞳へ真っ直ぐ向け
「あなたが、修行僧のドゥルチェムなのでしょう?」と、小声で尋ねた。




