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2 金杖国の王子様(1)

 翌日、隊商は、狐狸国から西荒へ向けて出発した。中央大平原の西側は、四百丈の高さに隆起した高原地帯で、金獅子族が治める金杖国の支配下にあり、関所が設けられていた。そこで、金杖国は、隊商を組んで行き来する商人に交易通行税を課していた。関所破りは、重罪で、高額な罰金を課せられ、三回摘発されると通行禁止措置となり、隊商が関所を通行できなくなってしまう。金杖国の領土は広大で、この国を抜けずに西荒へ行くことはほぼ不可能なため、商人たちはしぶしぶ通行税を収め、関所を通って西荒へ出発するのだ。


 出立から四日後、彼らが金杖国へ到る巨大な断崖絶壁の下へ到着すると、先行隊を率いて、二日前に到着していたミンズィの叔父、ハオズィが難しい顔をして待ち受けていた。そして、総隊長のカリウラへ報告した。

「金杖国が、一昨日から突然交易通行税を、荷運び人三十人ごとに千デナリウスから三千デナリウスへ引き上げると布告を出している。(1デナリウス=百円設定)そのため、支払いを拒否する隊商が続出して、関所の前は大混雑でまったく進めない状態なんだ」

 カリウラは黒々とした太い眉をぐっと真ん中へ寄せ、琥珀色の目を光らせ、凶悪な顔つきとなった。

「何だと、いきなり三倍も上げる?金杖の野郎、俺たちにケンカ売ってんのか」

 何回見ても恐ろしいその凶悪ヅラに引き気味になりながら、ハオズィは、

「はい、王妃の布告だそうで、三倍の三千デナリウス出さないと一歩も通さないと、若獅子隊が動員されて関所は封鎖状態です」

「誰か、三千デナリウス支払った奴はいるのか?」

 ハオズィは首を振った。

「納得できないって、誰も支払っていません。調停を頼もうと、法務院へ駆け込んだ奴もいるそうですが、相手をしてもらえるかどうか・・・」

 二人が深刻な顔で話し込んでいると、相変わらずフードを目深に被った黒ずくめの老師がやって来た。カリウラは、老師に気がつき、名を呼んだ。

「リーユエン、大変だ。あいつら、通行税を三倍に上げやがった」

 老師は、彼らの側までやって来ると、自分を見上げるハオズィへ、

「三倍とは暴利だな、誰の名で布告が出ている?」と、尋ねた。

「王妃の御名で出されてます」

 リーユエンは首を傾げた。

「王妃?そういう勅令は、王あるいは担当部署の大臣名で出すものだ。王に何かあって、(すい)(れん)政治でも始めたのか?」

「いや、そういう話は聞いていません」

「だとすれば、越権行為になるかな?法務院へ弁護士を雇って訴えさせてみてはどうだ?」

 ハオズィの表情が明るくなった。

「そうですね。いい考えだと思います。さっそくうるさ方の弁護士を雇ってやらせましょう」

 カリウラは

「誰の名前で訴えますか」と、尋ねた。

「隊商の立ち上げをしたのは、総隊長のおまえだろう。おまえの名前ですればいい」

 リーユエンが言い終えるや、すかさずハオズィが口を挟んだ。

「老師のお名前も連署で是非加えてください。有徳の老師ですら、不服を申し立てたと知られれば、他の商人もこぞって訴え出る流れとなることでしょう」

 言われたリーユエンは、顎に手を当ててしばらく考え

「私の名前で、そんな効果があるのか?」と、尋ねた。

 ハオズィは、大きく頷いた。

「羚羊族も、蒼馬族も、巨像族も、この間の救護施設には感謝してます。それに、金杖国の中にも、孤児院を作ったでしょう」

「あれは、名を出していない。金を寄付しただけだ」

 ハオズィは、人差し指を立てて、チチッと振った。

「名前を出さなくったって、みんなちゃんと分かってます。あんな大金をポンと寄付するような、そんな奇特なことをなさる方は、あなたしかいらっしゃいませんから」

 カリウラも腕組みし、うんうんと頷いた。リーユエンは、肩をすくめ

「了解した。連署人になるよ」と言った。

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