14 中有の夢 (6)
リュエが、ドルチェンに娶られてから、一年が過ぎた。
その頃、新しい生き神が行った予知が、三回連続して外れた。
その頃の大牙の国の実権は、銀牙の一族が握っていた。大牙の国は、銀牙、青牙、紫牙、黒牙、赤牙、緑牙、黄牙の七部族の連合国家で、他の六部族を、銀牙が生き神の権威によって統制してきたのだ。その統制は、生き神の予知という、絶対的な権威の裏付けがあればこそ、保ってこれたのだ。ところが、権威の拠り所となる生き神が、続け様に三回予知を外してしまった。先代、つまりリュエは一度たりとも予知を外したことがなかったのに、新たな生き神の資質が疑われる事態となっていた。
そして、さらに銀牙の権威が傷つく大事件が起きた。
それは、西荒の地で春の訪れを祝う花祭りの日に起きた。
その日、神殿はあらゆる人々に解放され、神殿の敷地内では、様々な催しが開かれた。屋台も多く出店し、普段静謐な雰囲気の神殿は、俗世間の空気が一気に吹き込み、賑やかとなった。
神殿が主催する催しのひとつに籤引きがあった。様々な景品が当たる籤で、人気が高かった。その景品のひとつに、当選者の希望を、神官がひとつだけ叶えるという景品があった。
「甲五番下の籤をお持ちの方はいらっしゃるか」
その日、神官が、読み上げた番号の札を持ち上げ、群衆の中から前へ進み出たのは、異国の僧侶だった。薄い緑色の燕尾帽を被り、暗い緑色の細かい襞の入った異国の衣を体に巻き付けるように着ていた。神官は、意外な者が出現し、一瞬目を見開いたが、また無表情に戻り、僧侶へ「あなたは、どちらから参られた?お名前は何とおっしゃる?」と、尋ねた。
僧侶は丁寧に拝礼すると、
「私は、西荒の銀牙の神殿のご高名を慕わしく思い、北荒から参った修行僧でございます。名はドゥルチェムと申します」と名乗った。
神官は、ドゥルチェムの差し出した籤を検めると彼へ
「その籤の景品は、我が神殿の神官があなたの願いをひとつ叶えることです。どうぞ、あなたの願いをひとつおっしゃってください」と説明した。
すると彼は一度軽く会釈して「私は自分自身の力を試すため、神殿の神官の胸をお借りしたいのです」と、発言した。
神官は「それはつまり法術競べをお望みということか?」と確認すると、彼は「左様、法術競べをお願いいたしたい」と応えた。
神官は、念の為、神官長に伺いを立てた。
神官長は、「籤の景品の内容を今さら変更すれば、権威に傷がつく。ドゥルチェムの願いを叶えるしかあるまい」と言い、さらに声を落として「法術の準備は入念に行うのだぞ」と、ささやいた。
神官は「御意」とうなずいた。
民衆の前で行う法術は、教化のために行う一種の出し物に近かった。それは、演出があったり、何らかの仕掛けがあるのが常識だった。北荒から来たという若い僧侶は、経験が足らず、そのような事は知らないのかもしれない。しかし神殿の神官たちは、そのような法術の扱いには慣れていた。
神官とドゥルチェムは話し合い、法術競べを蓋付きの籠の中に入っているものを当てる、『隠しもの占い』で行うことにした。そして籠は双方に五つずつ用意され、彼らの法術比べを見物しようと集まっていた牙の民衆の中から任意に選ばれた者が、神殿側が用意した品物の中から適当に選び、彼らから見えない場所で、品物を籠に入れた。しかし、民衆が選んだ品物は、実は別の神官がこっそり見て確認しており、神官同士でしか分からない符牒(手の向きや、指の組み方でわかる合図)で、法術競べを行う神官へ伝える仕掛けとなっていた。
法術競べは、最初と、二回目、三回目は、両者ともに中身を言い当て、引き分けとなった。見物人は、北荒から来たという若い僧侶が、神官と一歩も引かぬ勝負をするので、すっかり魅了されていた。次の四回目、神官は中身を「白いハンカチ」だとい、ドゥルチェムもまた、「白いハンカチ」と言った。両者が同じものを中身として言ったのは、これが初めてだった。そして籠が開けられた。




