14 中有の夢 (3)
その日の日没、彼らは緑牙の城下へ到着し、宿に泊まった。
リーユエンはカリウラと風呂に入った。風呂場は宿の別棟にあったため、上がったあと一階の食堂の傍の廊下を通り、階段を上がって部屋へ戻った。二人の外見は、ひとりは禿頭の人相が凶悪な偉丈夫、もうひとりは、すらりと背が高く、柳の枝のような華奢な体つきに宿の白い浴衣を着て、色白な肌がほんのり桜色に染まり、後ろへ流した腰まで届く漆黒の髪は艶やかで、まつ毛に縁取られた節目がちの紫の眸が髪の間から、ちらっと見え、隠し切れない色香が匂い立って見えた。
そのふたりの姿へ視線を向け、他の宿泊客がヒソヒソと会話を交わした。
「あの禿頭の連れ、妾かな。肌が桜色だぜ」
「いいなあ、あんな妾がいたら、もう、他に女は要らんぜ。なんて、色っぽい姿だ」
「だが、顔に傷があるな。傷物だったら売ってもらえるかもな、交渉してみるか?」
ちょうど、階下にいたシュリナにも、それが耳に入った。何か言ってやめさせようとしたが、兄のマルバが止めた。
「兄さん・・・」
「放っておけ、口だけだ。面倒事を起こしそうなら、対処すればいい。それより、食事も部屋へ運ばせて、もう外へ出ないで済むようにしてやれ」と、妹へ指示した。
「分かったわ。それと、兄さん、あの二人の話がたまたまちょっと聞こえたんだけれど、やっぱり彼、デミトリーとは拗れているみたいね。主持ちだから、罰せられないかと、カリウラが心配していたわ」
「そうか、奴はデミトリーともう寝たのか?」
シュリナは肩をすくめた。
「分からないわ。寝落ちしたとかって言っていたけれど、よく聞こえなかったのよ」
「奴の主の手がかりは何かないのか?」
「さあ?ただ、隠し通すことはできないって言っていたわ。そうだっ、彼の胸と背中には、刺青があるのよ」
「刺青?どんな柄だ」
シュリナは、帳場から紙とペンを借りてきて、着替えを手伝った時の記憶を頼りに、神聖紋様と周りの蛇のような鎖の模様を描き出した。
「確か、こんな風だったわ。もの凄く細かい模様だったから、詳しく思い出せないけれど、外側の模様は、上下が亀の甲羅から始まっていたわ」
それを聞いた瞬間、マルバの顔色が変わった。
「あいつの主は、玄武なのか・・・」
「玄武って、北荒の玄武国のこと?」
「ああ、あそこの座主の原身が、玄武だ。数千年生きた大妖怪だ」
マルバの琥珀色の眸が不穏に光った。
「なるほど、おもしろい事になってきた。親父に烏を飛ばして言伝してやろう。玄武の手の者が現れるのは、一千年ぶりだからな。これは、まったく見逃せない」
その夜、アスラはリーユエンから生気をもらった。リーユエンと二人きりの寝室で、アスラは生気を吸い取り始めたが、すぐやめてしまった。リーユエンが、アスラを見上げ、尋ねた。
「もう、要らないのか?」
アスラは、仰向けで自分を見上げる彼をじっと見下ろした。
「なあ、デミトリーには、どうしてあんな顔を見せたんだ?」
リーユエンは、アスラを不思議そうに見た。
「あんな顔って、どんな顔?」
アスラは眉尻の下がった情けない顔つきで
「俺が生気を吸うと、おまえはいっつも顔を歪めて嫌そうにするんだ。なのに、あいつと寝た時は、おまえはうっとりして、気持ち良さそうだった」
リーユエンは、アスラを見上げて数秒固まった。それから、ため息をつくと、
「そんなの当たり前だろう。生気を吸われたら、凍えそうなくらい寒くなるんだ。彼は、体温が高くて暖かいんだ。引っ付いていると気持ち良かった」と、答えた。
「顔をしかめるのは、俺が嫌いだからじゃないのか?」
アスラは不安げに尋ねた。リーユエンは右腕を伸ばし、アスラの頭を撫でながら
「おまえが守ってくれたから、異界から脱出できたんだ。私の命の恩人なのに、嫌いなわけないだろう」とささやいた。
それを聞くや、アスラは目を輝かせ、「俺のこと嫌ってないんだね」と叫び、生気を猛烈に吸い出した。
「わっ、アスラ、不意打ちでそんなに吸うなんて・・・寒い」
リーユエンは、顔を歪め、身を震わせたが、アスラはもう全然気にすることなく
「リーユエンの生気は俺のもの」と言いながら、生気を貪った。




