14 中有の夢 (2)
正午前に、ようやくマルバが宿へ現れた。
「遅くなってすまない。ダーダンを用意したから、乗ってくれ」と、マルバは彼らを宿の外へ連れていった。そこには、三人乗れる巨体のダーダン三頭が用意されていて黄牙の騎手が手綱を握っていた。その一人はシュリナで、もう一人は従者のゴートだった。
マルバは自身の騎獣の両脇に大きな荷物をくくりつけていた。
カリウラが、その荷物を見て
「随分大きな荷物だな」と、言うと、マルバは、
「衣装だよ、大長老の謁見でも、大牙の衣装へ一式すべて取り替える規則だ。ただ、あそこは、いま大長老以外の一族は城内にいない。装束の用意が少ないからな。この間の親父の悪ふざけのお詫びも込みで、謁見用の装束はこちらで用意させてもらった。これを受け取りにいっていたので、今日は来るのが遅れてしまった」と、説明した。そして、「君たちは、多分、向こうでも適当なものが手に入るだろうが、リーユエンの装束が、また女ものなんて気の毒だから、こちらで仕立てておいた」と、付け足した。
マルバの騎獣にはハオズィが乗り、ゴートの騎獣にはデミトリーとヨーク、シュリナの騎獣にはカリウラとリーユエンが乗った。シュリナは、騎乗した二人を見ると、周囲をキョロキョロ見回し、「アスラはいないの?」と、彼らへ尋ねた。リーユエンが彼女へ「付いてきている」と、答えた。
ダーダンが並足で走りだすと、シュリナは後ろの二人へ「青牙へ行くには、禁足地があるため、迂回経路でしか行けないのよ。途中で、一泊することになるわ」と、説明した。
カリウラが「禁足地があるのか」と尋ねると、
彼女は、「紫牙の領地だったところと、大昔銀牙の領地だったところが、今は禁足地になっているの。黄牙からなら、紫牙の領土を縦断すれば、一日で青牙へ行くことができるけれど、禁足地を避けると赤牙、緑牙、黒牙の領土を通過しないと行けないから、途中で一泊する必要があるのよ」と説明した。
カリウラは「色々大変そうだな。まあ、よろしく頼むよ」と言った。
しばらく黙っていたカリウラは、シュリナが聞き耳を立てていないのを確認し、リーユエンの耳元でこっそり話しかけた。
「アスラの機嫌は直ったのか?」
「アスラの機嫌?」
何のことか分からないリーユエンは、尋ね返した。すると、カリウラは、さらに声を低めて「今朝のアスラは変だったぞ。おまえが席を立った後も、主のおまえに付き従いもしない。どうしたのかと尋ねたら『ひとりになりたそうだから、やめておく』と言ったんだ。その上、デミトリーをじとっと睨んで、『俺の顔に何かついているのか』と、彼が尋ねたら『リーユエンは、朝までぐっすり寝ていた。おまえの胸に頭をすり寄せてぐっすり眠っていた。俺は、あんな寝顔は見たことがなかった』と、そう言ったんだぞ」
「・・・・・・」
リーユエンの沈黙に、カリウラの胸の内には、疑惑の黒い雲が湧き上がった。思わず、リーユエンの右手をつかみ、
「おまえ、大丈夫か?」と、尋ねた。リーユエンは顔を上げ、カリウラを見つめ
「別に何もなかった。ふたりそろって寝落ちしただけだ」と、答え、「仮に何かあったとしても、それを隠し通すことはできない。その場合でも、罰せられるとしたら私ひとりだけだろう」と、付け加えた。カリウラは、生唾を飲み下したが、言うべき言葉がみつからなかった。
「何かあったら、私を見捨てて、さっさと逃げろ。絶対に巻き込まれるな」と、リーユエンはささやいた。
「お、俺はそんなつもりで・・・」
「いや、カリウラ、おまえは、絶対に巻き込まれるな。中央平原で、もう足場ができているんだから、やっていけるだろう。お願いだから、私の為に巻き込まれないでくれ」
リーユエンは真剣に訴えた。カリウラは、ただ黙ってうなずいた。




