14 中有の夢 (1)
翌朝、リーユエンは先に目覚めて、そうっと寝台を抜け出した。扉を開けると、ヨークが立っていた。
ヨークへ向かって彼は「殿下なら、まだ眠っている」と、話しかけた。
ヨークは、無言のまま、もの問いたげに、彼を見上げた。
「まだ、何か?」と、リーユエンは、ヨークへ尋ねた。
ヨークは、口元を引き締め一寸悩んだが、彼を見上げると
「殿下は、何もなさいませんでしたか?」と、思い切って尋ねた。
リーユエンは肩をすくめ「話が盛り上がって、そのまま寝てしまったんだよ」と、答えた。
ヨークは、ハーッと息を吐き出した。
リーユエンは、そのまま階段を降りかけたが立ち止まり、ヨークの方へ振り向くと
「昨夜は、どうして影護衛につかなかったんだ?」と尋ねた。
ヨークは、一瞬驚いたが、彼のそば近くへ行き、「殿下が、思い詰められたご様子だったので、遠慮いたしました」と、小声で答えた。
リーユエンは、ただ「そう」としか言わなかった。
カリウラと対面してリーユエン、その横にアスラがいて、カリウラの横には、ヨーク、それからやっと起きてきたデミトリーが腰掛けて、朝食を食べていた。カリウラは、アスラが落ち着かない様子で、さっきからずっとリーユエンを何度もチラチラ見るのが気になっていた。
「アスラ、どうしたんだ?リーユエンの顔に何かついているのか?」
カリウラは我慢できなくなって尋ねた。ちょうどその時、リーユエンが朝食を終えて立ち上がった。アスラは、立ち上がって二階へ戻っていく彼をぼうっと見送った。「おまえ、リーユエンに付いて行かないのか?」
いつもなら、一瞬でも彼から離れたがらないアスラが席を立たないので、カリウラは仰天して尋ねた。
「うん、ひとりになりたそうだから、やめておく」
アスラがぼそっと言った。カリウラは、目玉を剥いて、アスラを見た。
「おまえ、何か悪いものでも食べたのか?ちゃんとリーユエンから生気はもらっているのか」
アスラは、パンを頬張ったままうなずいた。それからパンを飲み込むと、
「もらってるよ。でも、ちょっともらいすぎかな?リーユエン、俺が嫌いなのかな?」と、言いながら、アスラは頬杖をつき、デミトリーをじとっと睨んだ。
今度はデミトリーが、スープをスプーンですくいながら、
「アスラ、何だ?俺の顔に何かついているのか?」と、尋ねた。
「リーユエンは、朝までぐっすり寝ていた。おまえの胸に頭をすり寄せてぐっすり眠っていた。俺は、あんな寝顔は見たことがなかった」
カリウラは、パンが喉もとで詰まりかけて、必死で胸を叩いて飲み下した。そして、デミトリーを指さし、口をパクパクさせた。デミトリーは、赤くなった顔をあげ、「話し込んでしまって、うっかりそのままほ寝てしまっただけだ」と言った。それを聞きながら、カリウラは、心の中で(デミトリー殿下、それに俺も、こんな事がバレたら猊下に呪殺されるかもしれない。お願いだから、リーユエンにだけは、手を出さないでくれぇぇっ)と叫んだ。
その日、黄牙城下の広場で、最初の市が開かれた。通常なら、まず青牙一族の居城へ、隊商の代表が挨拶へ行き、そこで市場開設許可証の発行を受けて、市を開くのだが、今年はあの沼地の事件のため、西荒へ向かう隊商は壊滅的な被害を受けた。結局、カリウラが総隊長をつとめるこの隊商が初めての到来となり、物資の不足が深刻で、特別に開設許可証が先に発行されたのだ。広場の使用料の交渉も、昨夜のトラブルで黄牙には引け目があるせいか、ハオズィの提案した比率で払うことに同意した。市は二日間開かれ、三日目の早朝、隊商は次の城下町、赤牙一族のもとへ出発した。一方、カリウラ、リーユエン、デミトリー、ヨークは、青牙の居城へ行くため、随行のマルバを待って、まだ宿に留まっていた。




