13 黄牙長老ダーダム(2)
城の大広間で夜宴が開かれた。ダーダムの家臣が七人と、城下の有力者数人も招かれていた。広間の奥の一段高い場所にダーダムが、巨大な椅子に腰かけていた。広間に集った牙の者たちの中でも、一際目立つ、筋骨隆々とした巨躯、黒い髪を頭頂部で結い上げ、冠をつけ、太い眉の下には、松明の焔を受けて反射する猛々しい琥珀色の目、にこやかに笑いながら、それとなく周囲を睥睨していた。
マルバとシュリナが先導し、マルバが、カリウラとリーユエンにワニ大トカゲの急襲から助けてもらった事をダーダムへ改めて報告した。ダーダムは、身を乗り出し、興味深げに聞き、それから彼らへ
「子供たちが危なかったところを助けてもらって感謝する」と、謝意を述べた。
城下の有力者が、気を利かして、妓楼から踊り子や琵琶や琴の奏者を呼び寄せて、場を盛り上げた。ダーダムは終始上機嫌だったが、酒も一巡し、皆にそろそろ酔いも回り出した頃に、突然、高い場所から下へ降りてきた。子供たちのところへ行くのだろうと皆が思っていると、ダーダムはリーユエンの横に胡座をかき、
「そなた、あまり食べておらぬな。大牙の食事は合わないのか?」と、尋ね、彼の顔の半ばを隠していたヴェールを頭の上へ巻き上げた。露わになった顔に、黄牙の者たちが息をのむ気配がした。カリウラは顔をひきつらせたが、隣のリーユエンが彼の太ももを手でそっと触れたので、黙っていた。
「美味しくいただきました」と、彼は答えた。
「そなた、故郷はどこなのだ?」
「東荒です」
「東荒?本当か、西荒ではないのか?」と、ダーダムは重ねて尋ねた。
「私は幼い頃の記憶がありません。覚えているのは、東荒にいた頃からです」
リーユエンは静かに答えた。ダーダムは、じいっと彼を見つめた。
ダーダムは、酒瓶を取ると、彼の前の高杯へなみなみと注ぎ、高杯を持ち上げると
「飲め」と、彼へ勧めた。リーユエンは、高杯を受け取ると、ダーダムから顔を背け、酒を飲み干した。すると、ダーダムは、飲み干した高杯を指し、機嫌良さげに
「それに酒を注いでくれ」と言った。リーユエンは黙ったまま、酒瓶を取り上げ、高杯へ酒を満たし、「どうぞ」と勧めた。ダーダムは高杯を持ち上げ、一気に飲み干すと、いきなりリーユエンを懐へ抱き寄せた。声にならない動揺が、全体に走った。
ダーダムが一瞬で発揮した怪力にリーユエンは不意をつかれ、腕の中に捕まった。ダーダムはリーユエンへ口付けすると、酒を流し込んできた。左腕を背中へ回して押さえ込み、右腕は後頭部を掴んで動けなくした。逃れられないまま、リーユエンの口元から飲みきれない酒があふれ、滴り落ちた。
シュリナが立ちあがろうとしたが、マルバが肩を押さえつけた。シュリナは兄を睨み「兄さん、止めなきゃ」と言ったが、マルバは頭を振り
「馬鹿、親父のもろ好みなんだぞ。邪魔なんかしたら、ぶっ飛ばされるぞ。放っておけ」と言った。
デミトリーは髪が逆立ち、怒りが湧き上がって、理性が焼き切れそうだった。が、ヨークが彼の胴回りへ腕を回し、耳元で
「ここで騒いではなりません。リーユエン殿が怪我をするかもしれない。我慢してください」と、ささやいた。
ダーダムが口を離した一瞬、リーユエンは目を見開き、顔を背けようとした。が、間髪入れず、ダーダムはまた彼の口を塞いだ。リーユエンの全身から力が抜け、背中は反り、頭が今にも床に付きそうになり、黒髪は扇のように広がった。彼の腕は力無く垂れ下がり、ただ指先だけが、髪の中で何かを掴みたそうに曲げられた。
ハオズィは、カリウラと、ダーダムの子供二人の間で、視線をおろおろと彷徨わせていた。家臣も有力者たちも、目のやり場に困りながら、知らぬふりを続けた。
リーユエンの腕が持ち上がり、ダーダムの肩へ弱々しく触れた。ようやくダーダムが顔を離した。
「どうか、もう、それ以上のお戯れは・・・」と、リーユエンはダーダムへささやいた。右側の普段より紅潮した頬と、薄っすら色づいた目元を満足げに見下ろし、ダーダムは
「戯れなどではないぞ。わしのものになれ」と言った。




