13 黄牙長老ダーダム(1)
東の丘陵から黄牙の城郭へ向かい、彼らは日没後の街へ入った。そして、長老ダーダムが主催する、夜宴に招かれて、城内へ入った。
シュリナは、彼らを案内し、城へ入ると、まず最初に、衣裳室へ彼らを連れていった。そして
「黄牙では、長老や高官への暗殺防止のため、他国からの客人は何人であろうとも、この衣裳室で衣を、わが黄牙が用意したものに、改めてもらうことになっているの。あなた方が持っている、衣裳も装身具も武器も全部、こちらで一旦預かるわ」
ハオズィは慣れていて、さっさと服を脱ぎ、下着姿になると、自分の名札が入ったカゴから服を取り出し着替え始めた。デミトリーは不満げにヨークと顔を見合わせたが、ヨークに促され、剣を外し、黄牙の衣服へ着替えた。着付けがわからないので、シュリナについてきた侍女が着付けを手伝った。カリウラは体格が良すぎて、用意された衣裳が合わず、侍女が慌てて大きい衣を用意し直した。が、リーユエンが問題だった。
「あなた・・・」
シュリナは絶句した。下着姿となると、背は高いのに、リーユエンの体は、肋骨が浮き出るほど痩せ細っていた。
「困ったわね。これじゃ、黄牙の男ものなんか、大きすぎて脱げてしまうわ」
「面覆いも、左の甲当ても全部外すのか?」リーユエンに尋ねられて、シュリナは
「そうね。あなたを疑っているわけではないのだけれど、一族の規則なので、全部外して頂戴」
リーユエンは黙って、面覆いと甲当てを外した。その下から現れた火傷の痕を目にしたシュリナは、痛ましげに眉をひそめた。
「顔はベールを用意するわ。それに手袋も用意させるわ。それから、悪いけれど、女もので、できるだけ男用らしく見えるのをすぐ用意させるわ」と、テキパキと侍女へも指示して取りに行かせた。
結局シュリナは、リーユエンには、黒っぽく見える濃い紫の男仕立ての女用の衣を用意し、薄紫のベールと手袋を身につけさせた。
「・・・・・・」
シュリナも侍女も、呆然と彼を見上げた。そこには、見たこともない麗人がいた。
男にも女にも見える、紫の眸の蠱惑的な麗人だった。
デミトリーは、リーユエンから目が離せなくなった。自分の体の内側から熱が広がるのを感じながら、じっと彼の姿を見つめた。
そこへ、着替え終わったカリウラがやって来て、
「おう、みんな、着替え終わったのか。リーユエン、おまえ、本当、何着てもよく似合う奴だなあ」と、快活な声を上げた。
それで、一気に呪縛が解けたようになり、シュリナは
「それでは、長老のところへ案内するわ」と、皆を先導した。
牙の一族の衣裳は、衣の幅が非常に広く、それを短冊状に何回も折り畳んで仕立ててあり、着慣れないものには、裾捌きが面倒だった。それに、上衣は前身頃を重ねて帯で結び止めるので、動き方が悪いと着崩れてしまう。中央平原の貫頭衣を着慣れたカリウラは、もう面倒臭くなって、途中から、裾を自分で持ち上げて歩いていた。デミトリーもそうしたいところだが、金杖国の王子としての矜持があり、必死でつまずかないように歩き、着崩れしないよう上体を揺らさないことに気をつけた。けれど、リーユエンは、着慣れているかのように滑らかな足取りで移動していた。シュリナはそれを横目で見ながら、まるで普段着みたいに着こなして、どこかで着たことがあるのかしらと不思議に思った。
慣れているハオズィは、のんびりと歩きながら、リーユエンを見上げ
「老師は、こういう衣裳は慣れておいでのようですね」と話しかけた。
「玄武の国で、似たようなのを着たことがある」と、彼はあっさり種明かしした。それを聞いて、ヨークは、それは明妃の装束のことだろうかと思った。




