12 黄牙一族(7)
「リーユエン、長風呂したら逆上せちまうだろう?俺たちは、そろそろ上がることにしような」と、カリウラが会話をさえぎった。
ヨークには彼の身分がバレている。その上、デミトリーにこれ以上詮索されて、余計な情報をつかまれたくなかった。リーユエンの身に、もし何かあったら、寛大な座主といえども、自分の事を許してくれないだろうと、カリウラは本気で恐れていた。
カリウラはザバッと水音を立てて温泉から上がり、自分の体でリーユエンを隠すようにして上らせ、頭から、大きな白布で全身覆い隠して脱衣場へ連れて行きながら、残った三人へは、
「君たちは、もう少しゆっくり入ってろよ。リーユエンは、火傷の痕に手当てが必要だから、先に上がるからな」と言い残した。
総隊長と彼を見送りながらハオズィは、
「本当に総隊長は、昔っから、老師の面倒をよく見てらっしゃる」と、感心した。
「あの二人は、長いつきあいなのか?」と、ヨークが尋ねると
「あのお二人にお会いしたのは、六年ほど前でしたかねえ・・・その頃の老師は、まだ小柄な方で、私の背丈くらいしかありませんでしたよ。その小さな少年が、いきなり、とんでもないお宝を持って現れて、玄人は絶対に手を出さない特別な薬材を仕入れて、玄武の国へ売りに行ったんですよ。その年の冬、玄武の国で傷寒が流行りましてねえ。持っていった薬材が、とんでもない高値で売れたんですよ。本当に、あの時は、リーユエン様様でしたよ」と、懐かしそうに語った。
「あの二人は玄武の国に滞在したことがあるのだな」と、ヨークがつぶやいた。
「老師はね、儲けたお金の七分の二を、ヨーダム太師へ入門料として、お納めになったのです。太師の高弟へお渡しするところに、私も立ち会いましたからね。それで、カリウラは、学問所で読み書きや計算をみっちり勉強して、老師は、ヨーダム太師について、魔道の術をみっちり勉強なさったそうですよ」
ヨーダムの高名ならデミトリーでさえ知っていた。魔導士界の最高峰だ。ならばどうして、彼が魔道士ではないと言い張るのかが、まったく理解できなかった。
ハオズィはさらに続けて
「四年ぶりにお会いした時は、リーユエン様はすっかり背が高くなって見違えるようにご立派になっていて驚きましたよ。しかも、昔と変わらず、今でも果断な決断ができる方だ。あの方が仕入れを読み間違えたことはないし、どんなに危険な経路でも、あの方がついていらっしゃれば、安全に進めるのです。老師が金主になって、カリウラが総隊長をつとめるこの隊商は、利幅が大きく犠牲者も少ないので、人気があるんですよ。狐狸商会は、ずっと関わらせていただけて、本当に幸運なんです」
ハオズィの老師礼賛は止まらなかった。
「世間の人は、あの方が巨万の富を独り占めする守銭奴みたいに思っているようですけれど、あの人は、ご自身の儲けのほとんどは、寡婦や孤児のための施設や経営に寄附なさっているのです。実際には、ご自身では、財を蓄えたりはされていない。むしろ質素なお方なんですがねえ。ご本人があまり内輪のことはおっしゃらないので、皆、誤解しているのです」と、残念そうに言った。
ヨークは、ハオズィへ
「今回はどうして大牙の国まで自ら出向いてきたのだろう。何か聞いていないのか?」と、尋ねた。ハオズィは、湯の中で肩をすくめた。
「いいえ、いつもは、こんな遠出の隊商には参加されないのですがねえ。今回に限って、無理を押して来られてますが、特に理由は聞いておりませんねえ」と、答えた。
デミトリーは
「あんなすぐ寝込むような、軟弱な奴が、大牙の凶悪な連中と商談なんかできるのか?」と軽蔑したように言った。それに対してハオズィは、にこやかに笑い
「狐狸商会の私がついている以上、老師にご損になるような事はいたしませんよ」と、目をキランと光らせて宣言した。




