12 黄牙一族(6)
「大牙の者は、皆、体が大きいからね。騎獣は大抵このダーダンなのよ」
シュリナは、ダーダンの背中を撫で付け、微笑んだ。
「リーユエン、目が覚めたのなら、ポックへ乗り換えるか?」と、アスラがいそいそと尋ねた。リーユエンは、アスラの顔をじいっと見ると、首を振り
「力が入らないから、このままの方がいい」と、言った。
昨日は、断崖に橋を渡すのに、かなり力を使い、崖下の凶獣をアスラに仕留めさせるのにも力を消耗した。座主の法力で余力はあったが、昨夜のアスラの凄まじい食欲は想定外だった。いくら貪っても貪り足りない様子に、リーユエンは抵抗する気力も失せて、途中で意識を手放してしまった。
「ごめん、今度から気をつけるよ。昨日は、色々あったから興奮していたんだ」
と、アスラは、リーユエンに頭を擦り付けて、あざとく甘えた。しかし、後ろのシュリナから、「アスラ、そういう事は、彼と二人きりの時にやってちょうだい」と、不機嫌に言われ、やっぱりふたりきりでいたかったなと物足りなく思った。
シュリナが口調をあらため、
「兄から伝言よ、あと二時間ほどで、城門に到着するわ。リーユエン、あなたと、総隊長のカリウラ、それから狐狸商会のハオズィは、父が会いたいそうだから、城の中へ入ってもらうわ。ただ、その前に、城の東の丘の麓にある、春陽泉で体を洗ってちょうだい。あとで案内するから。あっ、それと食い詰め獅子の二人組、獅子が来るのは久しぶりだから、会ってみたいそうなの。だから彼らも連れていくからね」と話した。
「春陽泉?」
まだ、頭がぼうっとして話がよく理解できないまま、リーユエンは呟いた。それへシュリナは
「温泉が沸いていてね。露天風呂なの。長旅で汚れているでしょ。父は気さくな質だけれど、それでも黄牙一族の長老だから、ちゃんと身綺麗にしてから、謁見してもらわないとね」と、付け加えた。
「分かった」と、リーユエンは答えて、また目を閉じた。
五時頃、日が傾き始め日差しが弱まる中、隊商の列から離脱して、彼らは東の丘の春陽泉へ向かった。
なだらから丘陵のふもとに、湯気がもうもうと立ち上る場所があり、湧き出した温泉が小川となって流れていた。その奥には、直径二丈ほどの温泉池があり、その周囲は大きな岩柱と木立に取り囲まれていた。
温泉池の中に、デミトリーとヨーク、少し離れてミンズィ、さらに離れた場所に巨体のカリウラがいて、その影に隠れるようにリーユエンがいた。デミトリーやヨークの場所からは、日が暮れて冷気を増した空気の中に、湯煙が濃く立ち込めて、リーユエンの姿はほとんど見えなかった。
カリウラはわざと腕をうーんと広げ、リーユエンの姿を隠していた。それでも、夜風がふっと吹き抜け、湯煙が途切れてしまう一瞬、リーユエンの姿が見え、デミトリーは無意識にその姿を目で追っていた。そして、背中と胸側に大きな円形の紋様があるのに気がつき、驚いて近づこうとした。近づきかけたデミトリーを、カリウラが体の向きをかえて阻んだ。カリウラに阻まれたまま、その肩ごしに
「おまえ、その紋様はどうしたんだ。焼印なのか?」
焼印なら相当痛かったはずだと思いながら、デミトリーは尋ねた。リーユエンは、紫の目で、デミトリーをちらっと見て
「いや、刺青だ」と答えた。
「誰がそんなものを入れたんだ?」
カリウラは、デミトリーの質問をやめさせたかったが、ただ二人の顔を見比べることしかできなかった。リーユエンは、カリウラの背後へそっと移動しながら、
「師父だ。弟子入りの条件だった」と、答えた。
デミトリーのいる場所からは、刺青の詳細な紋様も、その周囲の縄のような模様が玄武であることも薄暗さと湯煙のせいで判別できなかった。
「どうして、そんな刺青が条件になったんだ?」それでも、デミトリーは興味が惹かれるまま尋ねた。
「魔に堕ちないようにするための守護の紋だ。師父に必要だと言われたのだ」




