12 黄牙一族(5)
翌日の午前中、リーユエンは後ろからアスラに支えられ、騎獣の上でフラフラ揺れていた。
「あんなにフラフラ揺れているのに、よくもまあ騎獣から落ちないものだわ」と、大型の騎獣に乗り、その様子を遠目に見たシュリナは感心して、兄のマルバへ言った。すると、マルバの側についていた従者のゴートが
「ふん、大方、魔獣に生気を吸い尽くされたんでしょう」と、不機嫌に言った。
シュリナは目を見開き、
「アスラって子が、吸い取ったの?」と、指差して尋ねた。
ゴートは、顔をしかめ黙ってうなずいた。
彼らは、隊商を先導し、黄牙の城下へ向かう途中だった。大牙の国は、現在五部族の国から成り、東側の国境に接する地域は、黄牙の領地だった。黄牙から連れてきた騎獣は、ダーダンという大型の羚羊で、捻れた太い角が二本頭の上から生え、全身柔らかな長毛に覆われてふかふかの毛布ように乗り心地が良かった。それに体が幅広く大型なので、シュリナは侍女のエレと、共乗りしていた。
「危なっかしいわね。ダーダンに乗せてあげた方がいいんじゃないの?」
シュリナは、また気になって、振り返った。ちょうど、大きく体が傾いだ彼を、アスラが腕一本で軽々と起こしているところだった。彼女と視線が合ったアスラは、紅い目を光らせ、ニヤッと笑った。シュリナは、手綱で合図し、ダーダンをアスラの方へ早足で近づけた。
「おはよう、アスラ、彼、具合が悪そうね」
シュリナは、アスラへ声をかけた。
「まだ寝てるのさ。昼すぎには、目が覚めるよ」
「よかったら、こっちの騎獣に乗せてあげようか?何だか危なっかしいわよ」
アスラは、シュリナの乗るダーダンをじっくり眺めた。
「悪くないけど、別に、乗り換えなくていいぜ。もう、慣れちゃったからな」
「・・・・あんたはいいだろうけれど、彼は辛くないの?」
「どうしてもダメなら、オマの荷車に寝かせるから、大丈夫さ」
アスラは、リーユエンから離れたくないので、乗り換える気がなかった。
シュリナは、「この仔は、三人ぐらい平気で載せるわよ。エレには、別のに乗ってもらうから、二人でこっちへ来なさいよ」と、提案した。
アスラは一寸考えた。実のところ、昨日はちょっと興奮気味で、リーユエンが嫌がるのも無視して、生気を吸い取りすぎていた。朝から意識が全然戻らないので、内心焦っていたのだ。普段よりも姿勢を崩しがちで、支えるのに苦労しているところだった。バランスが崩れて受け止めるのに失敗して怪我でもさせたら、それこそ厄介な事になる。正直、ダーダンに乗せてもらうなら、大助かりだが、シュリナがどうにも邪魔だった。アスラは、どうしてもリーユエンと二人きりでいたかった。
しかし、シュリナは諦めなかった。
「さっきから私たちが喋っていても、リーユエンは全然反応しないじゃない。それ、寝てるんじゃなくて、気絶してるんじゃないの?そんな調子で、無理に騎獣させたら、怪我をするわよ」
「・・・分かった。乗せてくれ」
アスラは渋々彼女の提案を受け入れた。
リーユエンが意識を取り戻したのは、三時頃だった。目を開けると、体が横になっていた。それにいつもは、騎獣の固い鞍があるはずのところが、柔らかい敷物のような手触りだった。戸惑いながら、のろのろと半身を起こすと、後ろから
「目が覚めたのね」と、シュリナの声がした。
「・・・・?」
状況が飲み込めないまま、フード越しに目を眇めて振り返ると、アスラがいて、その後にシュリナがいた。
「シュリナ?」
アスラの後ろから、呼ばれたシュリナが嬉しそうに身を乗り出した。
「あなたが乗っているのは、ダーダンよ。平原のポックより、大型だから、乗りやすいでしょう」
「君の騎獣なのか?」




