12 黄牙一族(4)
「食い詰め獅子?」
リーユエンは、眉をひそめ、問い返した。彼女は、彼の顔を見て
「ほら、金髪巻毛君」と、頭の周りで指をくるくる巻毛の形に動かしながら言ったので、ようやくデミトリーの事だと気がついた。
「別にもめてない。向こうが勝手に絡んできただけだ」と、冷淡に答えた。
すると、シュリナは、身を乗り出し
「あんた、鈍感なのねえ、自分が関心の的だって事くらい自覚しなさいよ」と言った。ますます訳が分からなくなり、リーユエンは困り果てた。眉尻を下げ、
「何のことだ?」と尋ねた。
「もうっ、自分で分かってないのね。あの食い詰め獅子と、側にいた目立たない男も、すぐあんたのそばへすっ飛んで来たじゃないの。関心を持っていなければ、あんなに素早く寄って来る訳ないでしょっ」
リーユエンは口の中で、肉を噛みながら、彼女の言ったことを思案したが、やはり何が言いたいのかがよく分からなかった。反応の悪さに肩をすくめ、シュリナは真面目な顔つきで
「これから大牙の国へ入るんだから、あんたに忠告しておいてあげる。大牙の男も女も気に入ったら速攻なのよ。顔や腕に少々傷跡があろうが、あんたみたいな綺麗で色っぽい人は、絶対人目を引くのは間違いないから、一人では出歩かないことね。あの魔獣でも、食い詰め獅子でも、何なら私でもいいから、誰かと一緒にいなさいよ。でないと、遠方で、あなたの事を待っているっていう人に、顔向けできない事になるわよ」
「ご忠告、感謝する」
リーユエンは、簡潔に答えた。
「それから、私の侍女をひとり、先に父のところへ帰らせたから、市に店を出す許可証は、早く出してもらえると思うわ。三年目なのに、隊商が一組も到着しないので、物資が不足して困っていたのよ。到着しだい市を開いてもらえると助かるわ」
リーユエンは、彼女へ
「あなたの父上は、誰?」と、尋ねた。シュリナは、笑って
「ごめん、言うの忘れてたわ。父は黄牙の長老、ダーダムなの」と、説明した。
「確か、市場を立てる前に、大長老の許可が必要だったはずだが?」
「ええ、だから特例の許可をもらえるよう、交渉してくれるのよ。市を開いて、その後、大長老のところへ挨拶に行く段取りに変えてくれるはずなの。そうでないと、大長老のいるところまで移動するとさらに数日かかるから、市を開くのが遅れて、皆が困ってしまうわ」
「そんなに不足しているのか?」
リーユエンは、大牙国の状況が気になり尋ねた。
シュリナは、リーユエンの皿からまだ手をつけていない肉を摘み上げ、口へ入れた。それを頬張りながら、
「ここで手に入らない香辛料なんか、もう、在庫もないらしいわ。ちゃんと運んできてくれたのでしょうね?」と言った。
リーユエンは黙ってうなずいた。出発前、黒胡椒など香辛料は、普段の倍仕入れて用意していた。が、値段の交渉を控えているため、それはシュリナには教えなかった。
シュリナは手を拭うと立ち上がり
「明日の夕方には、黄牙の城郭に到着できるでしょう。また、明日、会うのを楽しみにしているわ」と、言い残し、仲間のところへ戻っていった。
彼女が行ってしまうと、闇の中からアスラが現れた。そして、先ほどまで彼女の座っていた場所で胡座をかいた。
「あいつ、おまえに馴れ馴れしすぎるな。気に食わない」と、低い声で言った。
「三年ぶりの隊商だ。珍しがっているだけだから、放っておけ」と、リーユエンはアスラをなだめた。
「でも、あの女の言ってることは正しいな。誰も、彼も、みんな、おまえに関わろうとするんだから、邪魔でしょうがないよ。おまえは、俺の大切な主なのに・・・」
「主?食糧の間違いじゃないのか?」リーユエンがぼそっと呟いた。
それを耳にしたアスラは、彼をのぞき込み
「俺の主はおまえだろう。仕えているから、生気をもらうんだ。で、今夜も、ワニ大トカゲ仕留めるのに、力使っちゃたから、食わしてくれよな」と、上機嫌で言った。
「やっぱり、食糧だろう」と、リーユエンはため息まじりに言った。




