12 黄牙一族(3)
シュリナが、マルバの方へ行ってしまうと、リーユエンは、ヨークへ小声で「ありがとう、助かった」と、礼を言った。
そこへ、デミトリーがやって来て、彼の顔を下からわざとらしくのぞき込み「へえ、おまえが言葉につまるなんて傑作だな」と嘲った。が、リーユエンは黙ったままだった。
何か言い返してくると期待していたデミトリーは、膨れっ面で「何だよ、無視かよ、何か言えよ」と、さらに煽った。けれど、リーユエンは、項垂れたままその場から立ち去ろうとした。
デミトリーは思わず、彼の右腕を掴んで引き留めた。
リーユエンは、立ち止まり、掴まれた腕をじっと見た。
デミトリーは、彼の右腕を掴んだまま、「なあ、おまえを遠くで待っている人って誰なんだよ」と、小声で尋ねた。が、その問いには答えず、リーユエンはただ「手を離してくれ」と、だけ言った。
しかしデミトリーは執拗で「本当にそんな奴がいるのか、ヨークが出まかせいったのに、乗っただけなんだろう」と言って、近づくと顔をのぞき込んだ。
デミトリーの顔は、リーユエンの顔の間近に迫った。彼は顔を背けようとしたが、デミトリーは顎を掴んで許さなかった。
「なあ、本当にそんな奴がいるのか」
「おやめください、殿下」
見かねたヨークが脇から止めようとしたが、デミトリーは無視した。
「俺の目を見ろ、本当にそんな奴がいるのか」
リーユエンの紫の眸に、デミトリーの顔が映った。
「いる、私の身も心もすべてその方のものだ」と、彼は静かに答えた。
デミトリーは、顎から手を離した。
「フンッ、そこまでおまえに言わせるのに、肝心のおまえをこんな辺鄙な場所まで来させるなんて、間の抜けた奴だな」そう言い残し、デミトリーは、大きく息を吐き出すと離れて行った。
デミトリーは、リーユエンの姿が見えない場所まで移動すると、地面にしゃがみ込んだ。ちょっと揶揄って怒らせるつもりだったのに、まさかリーユエンが大真面目に思い人の存在を認めるなんて予想外だった。それにしても、言ってる内容は熱烈な愛の告白も同然なのに、表情も態度も冷え切っていたのがどうしてなのか、気になって仕方がない。あれは、真実愛している相手に対する態度なのだろうか。リーユエンは、本当にその相手のことを愛しているのかが気になってしょうがない。それにどうして、そんな事に自分がこだわるのかも、訳が分からなかった。
「あいつは、男なんだぞ。俺はどうかしてるよ」デミトリーは頭を抱え込んだ。
対岸へ渡り終え、峡谷の崖は緩やかな傾斜面となり針葉樹林の森林地帯へ変わる。日没の赤みがかった弱い日差しの中、野営準備が始まり、オマは宣言通り、アスラの仕留めたワニ大トカゲのもも肉を丸焼きにして、皆へ振る舞った。肉を焼く時に脂が滴り落ちて、赤天幕の周りから、食欲のそそる匂いが広がった。
リーユエンは、オマからもらった肉の一皿と、特別につけてもらった酒瓶をもって、片隅でひとりで食事中だった。
「なんだ、こんな所でこっそり食べてんだ」と、シュリナが声をかけ、横へどすんと腰掛けた。
「あんた、酒もらったの、私にも頂戴」と、彼の返事も待たず、シュリナは酒瓶を取り上げ、直接グビグビと飲んでしまった。
「・・・・・」
リーユエンは、彼女の大胆さに絶句した。
「どうしたの?ちゃんと、まだ残してあるわよ」
「ほしいのなら、どうぞ」と、彼は、シュリナの方へ酒瓶を押しやった。
「いいのっ、ありがとう」
シュリナは、いそいそと酒瓶を持ち上げ、また飲み出した。
リーユエンは、自分用に茶碗に入れておいた酒を飲んだ。
酒瓶をテーブルにドンと置くと、シュリナは彼へ向き直り
「ねえ、食い詰め獅子のお兄さんともめてるの?」と、尋ねた。




