11 隊商は大峡谷へ至る(5)
正午を回った頃、リーユエンは、隊商がいる崖の頂に立ち、地面に魔法陣を描いた。それから、中空を渡り、対岸のほぼ同じ高さにある岩棚に魔法陣を描いた。 描き終えると呪禁を唱え始めた。すると崖を這うように伸びていた蔓草が両側の崖から水平方向に伸び始めた。
「あいつ、やっぱり魔導士だ。あんな邪術使って」
デミトリーは、その様子を指差し、憎々し気に叫んだ。彼とは対照的に、側に控えるヨークは
「ほう、見事な展開ですな」と、感心していた。
両側から伸びた蔓草は、絡み合い、吊り橋へと変じた。大弓を背中に背負ったカリウラが、腕をぐるぐる振り回し、
「皆、順番に橋を渡れ」と、叫んで移動を促した。
荷物を山のようにくくりつけ、蒼馬や羚羊が次々に橋を渡り、対岸へ移動した。オマは、巨大な灰色熊に転身し、両腕に解体した荷車の車輪、荷車の荷台部分と調理器具を背中に背負い、橋を何とか渡り切った。最後にカリウラが橋を渡った。
リーユエンがカリウラへ
「もう、全員渡ったか?」と、尋ねると、カリウラがうなずいた。リーユエンは術を解除した。橋は消え、蔓草が崖を這うもとの形へ戻った。
「おまえはやはり嘘をついていたな。魔導士じゃないなんて」渡り終えていたデミトリーは、わざわざリーユエンの間近まで行き、指差して非難した。リーユエンは、デミトリーを振り返り、「フン」と笑った。
「何だ、その太々しい態度はっ」
デミトリーは顔を真っ赤にして、さらに怒った。
「魔導士でないのは事実だが、修行は行った」
リーユエンは冷静に言ったが、デミトリーは混乱した。
「魔導士の修行をしたのなら、おまえは魔導士のはずだろう。途中でおちこぼれたのか?」と、聞きながらも、三十丈も離れた崖の間に橋を渡すなんて落ちこぼれにできるはずがない。しかし、リーユエンの方は、答える気がないようだ。実際のところ、ヨーダム太師の元で魔導士の修行は行い、玄武の国ではヨーダムの高弟として重きを置かれている。けれど、すでに明妃として定められている身では、魔導士を名乗ることが許されないのだ。それを、わざわざデミトリーに教える必要はないというのが、彼の判断だった。
ヨークが王子へ近寄り、耳元で
「この方は、魔導士を名乗れないほどご身分が高いお方なのです」と囁いた。
「はあ?訳が分からん」と、デミトリーが言ったちょうどその時、崖の下の方から
「助けてくれぇぇー」と、叫び声が響いた。
リーユエンは、背中の大弓を持ち出し、下をのぞくや、矢を放った。カリウラも駆けつけ、次々に大弓から矢を射かけた。デミトリーとヨークも崖下を一緒にのぞくと、遥か下、川岸に近いあたりで、旅装の五人組が、大顎ワニのような獣に襲われ、逃げ惑っていた。
「ワニ大トカゲだ」カリウラが叫んだ。
彼らが射かけた矢は獣の背中を次々射抜いたが、致命傷には至らなかった。
リーユエンが、アスラへ命じた。
「アスラ、あの凶獣を殺せっ」
アスラは黄金の三つ目の獣へ転身し、崖下へ飛び降りた。アスラは、ワニ大トカゲの頭と首の付け根の辺りの飛び降り、そこへ牙をたてて噛みちぎった。急所を切断され、凶獣はやっと息絶えた。
カリウラは崖の下をのぞき、
「大丈夫かあ」と、叫んだ。集団の中の、大柄な若者が、
「ありがとう、助かった。そちらへ上がる」と叫び返した。彼らは、男二人と、若い娘三人だった。皆、背中側には、弓矢、腰には刀を下げたベルトをつけて、頭に黄色い布を巻きつけ、後側へ垂らしていた。服装は、中央平原の者たちとは異なり、前身頃を交差させ、帯で止め、下は袴姿で、その上から、さらに長い丈の袍を重ね着していた。その袍の襟にも黄色の縁飾りがついていた。
「どうやら、大牙の国の黄牙一族のようだな」と、カリウラが言った。




