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1 飛魄がないけれど、飛べますか?(6)

  腰まで届く青草の茂みをかき分け、二人に近づいたカリウラは、目玉が飛び出しそうなくらい目を見開き、老師へ駆け寄った。

「怪我してるじゃないですかっ」

 と叫び、返事も待たずに彼の右腕を掴むと、袂から小さな薬入れを取り出し、甲の上に白い粉薬をこれでもかというくらい振り掛けた。

「痛っ、かけ過ぎだろう」と、老師が顔を顰めてカリウラへ抗議した。けれどカリウラは凶悪な目つきになって、

「よく効く血止め薬なんです。染みるぐらい我慢してください。あんたが血を流したら、碌でもないことばかり起こるんだから」と、唸るように言った。

「・・・・・」

 老師は、無言で、左手でフードを被り直した。

 次にカリウラは、ユニカに目を止めて、

「もう帰るぞ。まだ、ここでひとりで練習するのか」と、声をかけた。

 ユニカは涙目で、頭をフルフルと振った。

「足に力が入らなくて・・・」

 カリウラは、ユニカを見、次に口をへの字に曲げて老師を見て言った。

「リーユエン、あんた、どれだけこの子を怖がらせたんですか」

 老師は、肩をすくめ

「着地が難しかったんだ。途中まで、背負って連れて帰ってやってくれ。そのうち、歩けるようになるよ」と、言った。

「もうっ、飛魄のない奴に無茶させるから」と、小言を言いながらも、カリウラはユニカに近づき、後ろを見せてしゃがむと

「ほら、背中に乗んな」と、声をかけた。

 途方に暮れるユニカへ、老師が、

「背負ってもらえばいい。ここにひとりでいるのは、危険だから早く戻ろう」と言った。

 ユニカは頷くと、カリウラの背中に乗せてもらった。

 

 カリウラに背負われながら、ユニカは先ほど起きた事を振り返っていた。減速できないまま地面へ墜落しかけた自分を、老師が受け止めてくれたのだ。だから、その時、かぎ爪が甲を引き裂いたに違いない。老師は、ユニカが着地を失敗するのを見越して、麓の地面へ先に降りて待っていてくれたのだ。最初は、容赦のない残酷な人だと思ったけれど、老師は、意外にも優しい人なのかもしれないとユニカは気がついた。

「リーユエン、あんた、マントに鉤裂けができてますよ」

「知っている。戻ったら直すよ」

「あんた、裁縫は下手でしょ。賄いのオマに頼んでしてもらいましょう」

「・・・頼む」

 二人の会話を聞いていたユニカは、(老師のお名前は、リーユエンなんだ。それに老師と総隊長は親しい関係みたい。総隊長が、お世話係みたいで、ちょっと不思議な感じだ)と、思った。


 隊商の設営地についた頃には、ユニカは自分の足で立てるようになった。ユニカは、朝粥の列へ並んだ。粥をお椀に入れてもらい、大テーブルの角で食べていると、賄いのオマがやって来た。オマは、どっしりした体格で、焦茶の髪を頭の天辺で髷にした中年の女だ。隊商の賄いは、オマとあと一人助手の少年が担当していた。

 ユニカを見つけたオマが、隣に座っていた蒼馬の若者をひと睨みで追い払い、どすんと腰掛けた。そして、ユニカの顔を覗き込んで

「早朝から、老師に誘われてどこへ行ってたんだい?」と、いきなり尋ねた。

「草原の向こうにある岩山です」

すると、オマは、怖い顔になって

「あんた、老師に何かされたのかい?」と尋ねた。

「何かって・・・えっと」

 何と説明しようか躊躇っていると、オマが椅子をひっくり返す勢いで立ち上がり、

「そこで、待ってな。リーユエンの馬鹿を連れてくるから」と言い、すごい勢いで、どこかへ行ってしまった。

 しばらくすると、オマが老師の腕を掴んで引っ張ってきた。その後から、総隊長がオロオロしながらついて来た。

「オマ、手を離してくれ。一体どうしたんだ」

 老師が、困りきった様子で尋ねた。

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