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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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10 誘涎香血(1)

 ニエザは、思わず太師を見上げ、

「あの子は、魔獣使いなのですか?」と、尋ねた。

 太師は、ニエザを見下ろし

「あの齢で、自ら望んで魔獣と契約したとは思えない。恐らくは、事故なのか、故意なのか、あの者は異界へ堕ちてしまい、そこで魔獣に魅入られたのだろう」と言った。


 その後、自室へ戻って、再び眠ったニエザは、翌朝、少し寝坊して最上階へ上がってきた。本当は朝食の支度をしなければならなかったが、すでに太師が作り終えて、魔法陣の中でリーユエンに食事を与えようとしていた。けれどリーユエンは死んだようにぐったりして、何も食べられない様子だった。

「その様子では、今日はやめておいた方がよさそうだな」と、太師が言うと、リーユエンは「いいえ、今日なら出血が少ないでしょうから、気になさらず、続けてください」と言い、さらに「力も入らないから、作業しやすいと思います」と淡々と言った。

 ニエザは、それを聞いて、心底ぞうっとした。自分では、もう一人前の魔導士になったつもりでいたけれど、リーユエンの方がずっと達観していて、魔導士らしい心構えがすでにできていると思ったのだ。修行を初めてもいないのに、どうしてそんな心境に達しているのだろうと、呆れるやら、不思議やら、ニエザの内心は複雑だった。

 

 その日も、太師は午前中いっぱい刺青の作業を続けた。背中側はようやく紋が完成した。いつもは、作業が終わるとリーユエンを魔法陣の中にひとりにしてしまうのに、太師は今日に限って作業が終わった後も、リーユエンの側についていた。そして、リーユエンへ「おまえの体内に流れる血は、古来から『誘涎香血』と呼ばれる特別な血液だ」と話しかけた。「わしは、齢が七百歳を越えたが、実物に接したのはおまえが初めてだ。その血は、体外へ流れ出ると、凝固が遅く、魔を惹きつける香を発するのだ。その香に(あらが)える魔はいないと言われている。おまえ自身の意思に関わりなく、その血が流れ出れば、魔が集まってくるのだ。このまま何もしなければ、おまえは、魔に取り込まれ、お前自身が、強力な魔物に変じるだろう。いや、おまえならば、魔神になれるかもしれない」

 リーユエンは無表情なまま、太師の話に聞き入っていた。ニエザも少し離れた場所で、書籍の整理をしながら、話を同じように聞いていた。

「わしが、おまえの体に神聖紋を刻み込むのは、おまえの霊力を高め、神聖紋を通すことで力を増幅し、絡みついてくる魔の力を焼き切らせるためだ」

「焼き切る?そのような事が可能でしょうか?」

 ひっそりと問いかけられて、太師はうなずいた。

「まずは、神聖紋を胸側にも完成させ、両極を定め、それから修行を始めることになる。非常に難しい術だが、会得しなければ、人として生きる未来はなくなるだろう」

 リーユエンは、右側の瞼を閉じた。目尻から涙が流れ落ちた。

 ニエザは、心の中で、私は何も見てませんと三回唱えた。太師は禁術すれすれの修行を課す気でいらっしゃるのだと、並々ならぬ決断に心底驚かされた。けれど、万が一にも、法座主にこの事を知られたら、何らかの処分が降るのではないかと、恐ろしくなった。

 

 太師は、背中側の神聖紋の出血が完全に止まるまで、作業を中断した。その間も、やはりリーユエンは魔法陣の中へ閉じ込められたままだった。その上太師は、彼に、分厚い魔導書を五冊与え、読んで中身を覚えるよう言いつけた。

 太師は、リーユエンが来てからほとんど外出することがなく、外で済ますべき用事を溜め込んでしまっていた。そのため、一日中不在にする日が多かった。ニエザは兄弟子らしく、彼の勉学を手助けしてやりたかったけれど、魔法陣の中へ入る許可は出ないので、ただ外から遠目に見守るしかなかった。

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