47 離騒(3)
(ウラナの独白)
日付が変わった後、リーユエン様は戻っておいででした。ザリエル将軍が背負い、内官長が付き添って送ってこられました。
私は、リーユエン様が泥酔しているのを見たのは初めてでございます。内官長は、リーユエン様は常識外れな量の酒をお呑みになったと話しました。私は、ザリエル将軍にリーユエン様を寝室の寝台へ運んでもらいました。お着替えもできそうにない状態なので、そのまま寝かせておき、私は、こっそり帰ろうとする二人を呼び止め、お茶をふるまいました。そして、王女殿下と一緒に王宮に出向いた後、リーユエン様の身に何があったのかを、じっくり聞き質しました。
ウラナが寝室から戻ってこないうちにさっさと王宮へ戻ろうとしたふたりは、シュリナに呼び止められた。いつも空気を読まないシュリナは、将軍と内官長の動揺なんかお構いなしに、
「リーユエンをわざわざ送ってくださってありがとう。また、大酒呑んだんでしょ。リーユエンったら本当に大酒呑みなんだから、ハハハッ、ここまでご足労いただいたんだから、お茶飲んでから帰ってよ」と、快活に声をかけた。
将軍と内官長は顔を見合わせ、
「いや、もう夜も遅いから、失礼するよ。俺たち、明日も早くから仕事あるし」と、将軍が断りをいれ、帰りかけたところへ、ウラナが戻ってきてしまい
「お茶をお飲みになってからお帰りください。私も、あなた様方へお聞きしたいことがございますから」と、冷やかに宣告されてしまった。
(内官長の独白)
大蛇の精が、私めを睨んでおります。大蛇の精に睨まれたら、目の前のお茶が、たとえ猛毒入りだとしても飲むしかありません。
お茶は美味しゅうございましたが、ウラナは、リーユエン様が王宮へ出かけられた後、何があったのか一部始終を知ろうとしました。
最初、機密に関わることだからと、ザリエル将軍は抵抗していたのですが、何しろ相手は大蛇の精です。締め殺されそうな圧力に、とうとう負けてしまいました。もちろん屈したのは私めでございます。本来、勇敢なザリエル将軍は、大蛇の精の圧力に屈するようなお方ではありません。けれど、リーユエン様に同情なさっておいでのようで、それもあって、ウラナへ、一部始終を話してしまわれたのです。
(ウラナの独白2)
ザリエル将軍と内官長の話を聞き終えた私は、今、猛烈に腹が立っております。臓腑が煮えくり返るとは、まさにこの状態でございます。
リーユエン様は、明妃位につかれたお方ゆえ、本来魔導士ではありません。けれど、あのお方は、ヨーダム太師の薫陶を受け、魔導士学院創立以来といわれる優秀な成績でご卒業なさったお方です。自らを厳しく律し、魔導士の五箇条を守っておられるのです。
ゲオルギリー陛下は、リーユエン様のそういう生真面目なところにつけ込まれたのです。魔導士学院中途退学のご自分では相手にならないと悟り、王女殿下の父親としての面子を守るため、その魔導士の本心を探ることに、リーユエン様をご利用なさったのです。
魔導士が絡む以上、リーユエン様に断る選択肢などありません。そのうえ、王女殿下が勝手に決めたこととはいえ、配偶同然のお立場となってしまい、その責任も果たさないわけには参りません、やむを得ずお引き受けになられたのでしょう。
けれど、リーユエン様だって、王女殿下とそれほどお歳は変わらない、若い女性です。玄武の愛玩品だの、何だの言われて、傷つかない訳ないじゃありませんか。大酒飲まれるくらい当然でございます。
それに、私は感動いたしました。リーユエン様は、「猊下」と何度もお呼びになって、忍び泣きされていたというではありませんか。それでは、やはり、そのご本心にいらっしゃるのは、法座主猊下なのです。リーユエン様は、やはり法座主猊下を一番愛しておられるに違いありません。私は、リーユエン様が玄武の国に戻られるに違いないと確信いたしました。
ウラナが、将軍と内官長と居間で話し込んでいた頃、寝台の上でリーユエンは目を覚ました。
側についていたシュリナが、
「リーユエン、目が覚めたんだね」と、声をかけた。
リーユエンは起き上がると、
「ウラナは?」と、小声で尋ねた。
「居間で、ザリエル将軍と内官長と話し込んでいるよ、呼んでこようか?」と、シュリナが言うと、
「いえ、呼ばなくていい、浴室へ行くわ、それと水差し二本に水を入れてもってきてちょうだい」と言った。
(シュリナの独白)
リーユエンは泥酔していると聞いていたけれど、目が覚めた時は、全然普通だった。言われた通りにして、浴室に連れていったら、浴槽に湯を入れてほしいといわれたので、お湯を入れてあげた。そしたら、手品みたいなことを始めた。
水差しの水をいきなりがぶ飲みして、飲んだ酒を吐き戻し始めた。ええっ、どうして、そんな量が、体のどこに溜め込んでいたのよって思うくらいの量を全部吐き戻していた。それから、ぐったり湯船に浸かって、
「ハサミを持ってきて、寝室へ置いておいて」と、頼まれた。
私は、よく分からないまま、言われた通りにした。
その後、風呂から上がると、リーユエンは、寝台に倒れ込んで眠り続けた。もう、起きる様子もなかったので、私も自分の寝室へ引き上げた。
でも、後から考えたら、絶対一緒にいるべきだった。私は、おもしろいものを見る絶好の機会を逃してしまった。ものすごく、悔しい!




