表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/218

7 裸牙ネズミの女王(1)

 燻製肉の匂いに反応したリーユエンは、右目を見開き起き上がった。カリウラは、左手につかんだもも肉の塊を宙で揺らし、片目をつぶって

「食うか?」と(おど)けてみせた。リーユエンは、こくこく、とうなずいた。

 もも肉へ(かぶ)りつくリーユエンの横で、カリウラも自分の分に齧りつきながら

「胃袋の調子は良くなったのか?」と、尋ねた。すると、リーユエンは

「魔獣が、昨日の晩に治してくれた」と、答えた。

 もも肉が骨だけになると、リーユエンは、カリウラへ

「この先は砂漠地帯だな」と、話しかけた。カリウラは大きな肩をすくめ

「そうだ、大砂虫のいる砂漠だ」と応え「偵察がいるな」と付け加えた。

「私が行ってくるよ。ユニカを飛ばすのは、まだ無理だろう。羽を痛めているから」と言い、立ち上がった。

 カリウラも立ち上がり

「朝は、フラフラだったろう。空に上がれるのか?」と、心配そうに尋ねると

「三千丈くらい先までなら、見てこられると思う。すり鉢上の穴が空いている場所を見てくるよ」と答えた。それから、白虎へ転身すると空へ駆け上がった。

 

 中央大平原の南や北にも砂漠地帯があり、そこにも砂虫は生息する。その大きさはせいぜい一丈から二丈ほどで、性質も大人しい。ところが、西荒への途中、ゲル砂漠に生息する大砂虫は、全長が六、七丈に達するものもいて、気性も荒かった。砂地にすり鉢状の巣穴をつくって(こも)り、近づく生き物の振動を感知するや、巨大な顎を突き出し襲いかかり、巣穴へ引きずり込んでしまうのだ。砂虫には手足が見当たらない。何十個とある体節を伸縮させて移動する。眼球も退化してなくなっていて、ほぼ百八十度に開閉する巨大な口に、伸縮する巨大な顎が特徴だった。幸い、動きはそれほど素早くないので、巣穴を予め避けて十丈以上離れて通れば、襲われる可能性は低かった。

 黄金鷲のユニカほど遠目の効かないリーユエンは、かなり高度を下げて砂漠の上を走ったが、砂虫の所在を示すすり鉢状の穴は、ひとつも見当たらなかった。不思議に思い、さらに地上へ近づいたが、ただ風紋が刻まれた砂丘と、あとは石ころ混じりの荒地が茫漠と広がるだけだった。その時、彼は奇妙な幻視に襲われた。体毛のない皺だらけの皮膚の、醜い生き物が何百匹と集まり、大砂虫を食い尽くす様だった。

(この生き物は・・・)

 日が傾き始めたので、リーユエンは偵察を終わらせ、カリウラたちの待つ場所へ戻った。

 リーユエンの報告を聞いたカリウラは首をひねった。

「すり鉢状の穴がひとつもなかった・・・?」

 そんな事があるだろうか。過去何十年、いや何百年もの間、ゲル砂漠を行き交う旅人を悩ませてきた、あの災厄の生き物がいなくなるとは、にわかには信じ難い。

「変な生き物が見えたんだ」リーユエンがひっそりと言ったのを、カリウラは聞き逃さなかった。

「見えたって、例の頭の中で見える・・・あれか?」

 カリウラが自身の禿頭を指差し尋ねるのへ、リーユエンは黙ってうなずき返した。

「見えたって、どんなやつだ」

「口から長い牙がはみ出ていた。鼻先が尖って、体に毛がない。薄桃色でしわくちゃで、前足にも長い爪がある。目はほとんどなくなっている。尻尾も短い」と、淡々と説明したが、彼自身はその生き物を以前に見たことがあった。その生き物を見たのは、彼が異界へ堕ちたとき、墜落して動けない彼のもとへ無数の生き物が寄ってきて、その中に何百匹もいたのが、それと同じ生き物だった。

 彼の中の魔獣が

「おまえが幻視したのは、異界の裸牙ネズミだろう」と言った。

どうして異界の生き物が、ゲル砂漠にいるのか、不可解だった。異界に堕ちたリーユエンの体に噛みつき、真っ先に血を啜り出したのが、あの裸牙ネズミたちだった。それを思い出すと、体温が下がって目の前が真っ暗になった。それは、実に不快な記憶だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ