46 魔道具騒動(3)
王后から、サンロージア王女の魔道具濫用の報告を受けたゲオルギリー陛下は、影護衛府に命じ、魔導庁を直ちに捜査させた。そして、王女殿下に魔道具を与えたのは、魔導庁長官ミネリオスの甥、イカリオスであることが判明した。イカリオスは、捕縛され牢屋へ入れられた。イカリオス逮捕の知らせを聞いたサンロージア王女は、ひどく動揺し、父王へ会うため王宮まで出向いた。
王女からの先触れがあり、ゲオルギリー陛下は執務室で彼女を迎えた。部屋へ入るなり、王女は作法も忘れ、いきなり
「お父様、イカリオスを釈放して、悪いのは私なのっ。彼は、ただ私に魔道具を貸してくれただけなのよ」と、訴えた。
ゲオルギリー陛下は、愛娘を迎えたにもかかわらず、珍しく無表情なまま、サンロージアへ視線を移し
「釈放はできない。まだ取り調べ中だ」と冷たく拒否した。
サンロージアは、自分の頼みを、父王から、これほど冷たく拒絶されたことがなかったため、驚きに目を見開き、父王をじっと見た。そして、
「どうして?ただ魔道具を貸してくれただけなのよ。私の使い方が悪かっただけよ。リオは、ただ、私のおねだりに応じただけなのよ」と、さらに訴えた。
陛下は、琥珀色の目を冷たく光らせ、サンロージアをじっと見ながら、
「王后も、リーユエンも、おまえの話を聞いて、おかしいと気づいたのに、おまえは分からないのだな」と、話した。
「どういうこと?お母様やリーユエンは、何がおかしいと思ったのよ?」と、王女は不思議そうに尋ねた。そのまったく疑う様子のない彼女を見ながら、ゲオルギリー陛下は、イカリオスの丸縁眼鏡をかけて、獅子一族にしては貧弱な体つきを脳裏に映しながら、(イカリオスめ、気弱で無害な外見を利用し、サンロージアの好奇心につけ込んで、まんまと騙したな、まったく忌々しい奴だ)と、怒りを募らせた。そして、サンロージアへ、
「リーユエンは、おまえに魔道具の危険性を真っ先に説明したのであろう。ならば、イカリオスは、どうしておまえに、魔道具の便利さばかり強調して、危険性を説明しなかったのだ。別にリーユエンでなくとも、魔力のない凡人なら魔道具の起動に、生命力を使うことぐらい、魔導学を少しでもかじったことがある者なら分かることだ。まして、イカリオスは、魔導庁長官の甥子で、玄武の魔導士学院で魔導士の資格を授与されているのだ。通常ならば、真っ先に危険性を説明するはずだし、そもそも魔道具を貸す事自体があり得ないのだ」と、怒りを抑え、冷静に説明した。
父王から懇々と言い聞かせられたにもかかわらず、なおも王女は、
「それは、私がしつこく頼んだからだわ。気弱なリオは、私の押しの強さに負けて仕方なく貸してくれたのよ。彼は、何も悪くないの、だから」
「ダーンッ」いきなり、陛下は机の上へ手を叩きつけた。その音にサンロージアは、肩をビクッとさせた。彼女に対して、父王がこれほど怒りを露わにしたのは、初めてだった。
「馬鹿者っ、まだ分からぬのか。おまえほど、聡い者がどうして分からない?イカリオスは、おまえが魔道具を使いたくなるように、好奇心をそそって誘導したのだっ、それにどうして気付けないのだっ」
ゲオルギリー陛下は、とうとう声を荒げ、怒鳴りつけた。黄金獅子の怒りの風圧に、サンロージアは目をつぶり、必死で耐えた。その様子に、ゲオルギリー陛下は怒りを鎮め、また抑えた口調で、
「今は、詳しく取り調べ中だ。釈放はできないし、おまえと奴との面会も一切認めない。後宮で、沙汰が下りるまで待つのだ」と、言い、内官長へ退がらせるよう手で合図した。
(内官長の独白)
陛下が、王女殿下を怒鳴りつけるのを、初めて目撃いたしました。まったく恐ろしいことでございます。陛下が、ここまで自制を失われたところは、リーユエン様と、ゴホッ、その・・・色々あった時以外はなかったことでございます。それだけ、今回の件には、お心を痛めておいでなのでしょう。感情を明透けにみせていらっしゃるようでいて、実際は強く己を律っしていらっしゃる陛下が、自制を失われたのはよくよくのことでございます。ただ、今、それを王女殿下にお伝えしても分かっていただくのは難しそうでございます。それに、内官長の私めが、僭越な意見を申し上げるわけにもまいりません。私めは、王女殿下に退出を促し、後宮へお見送りするよう、内官のひとりへ命じました。
内官に付き添われ、後宮へ戻ったサンロージアは、殿舎を抜け出し、リーユエンが滞在する殿舎へ向かった。応対に出たシュリナから中庭の東屋にいると聞き、案内を断り、彼女は東屋まで歩いた。
東屋には、長椅子に腰掛けるリーユエンと、その横に腰掛け、顔をのぞき込むデミトリー王太子殿下の姿があった。
「リーユエン、俺にも玄武式の棒術を指導してくれよ」と、頼み込むデミトリーへ、リーユエンは物憂げな眼差しを向け
「黄金獅子におなりになったあなたに、棒術なんて不要でしょう」と、答えた。すると、デミトリーは、彼女の艶やかな髪を掬い上げ、その冷たい手触りを楽しみながら、
「黄金獅子は関係ないよ。あの棒術はすごかった、俺も自分のものにしたい。どうやって、習得したんだ?」と尋ねた。リーユエンは、デミトリーをチラッと見て、
「どうやって習得したのか、本当にお知りになりたいの?」と、尋ね返した。デミトリーはうんうんとうなずいた。




