46 魔道具騒動(1)
二日後
「リーユエン様、お茶をもう一杯いかがですか?」
「リーユエン様、この焼き菓子をもうひとつ召し上がられては?美味しゅうございますよ」
今日、リーユエンは、王后の殿舎の午後のお茶会に招かれ、四傑からやたら親切に給仕してもらい、戸惑っていた。先日、近衛右軍少将ビアロスとの決闘で勝者となった彼女は、四傑にとってはもう崇拝の対象だった。今日も王后に招かれやって来たリーユエンを、女神のように崇め、四人がかりで給仕につきっきりだった。
「ありがとうございます。でも、もう十分いただきましたので・・・」
と、やんわり断った。が、四傑はまだまだリーユエンに給仕がしたくて、不満そうだった。
「これこれ、そのように四人がかりで迫っては、さすがのリーユエンも困っておるではないか」
と、王后が機嫌の良い声で四傑たちを注意した。
王后陛下と、サンロージア王女殿下と、リーユエンが、中庭の薔薇園にある東屋でお茶を飲んでいた。
王后は、サンロージアの求婚騒動が解決して上機嫌だった。サンロージアも、卑怯者のビアロスを、完全に抹殺状態にできて喜んでいた。
王后は、リーユエンへ、
「先日、そなたがマエナスへ要求した通り、後宮での処罰の決定執行とビアロスについては軍法会議が開かれ、処分が決定した」と、話し続けて
「ビアンサは、側妃の位を剥奪のうえ、そなたに傷を負わせたことについて鞭打ち五十回を執行後、髪を切り落とさせ、庶人として後宮から追放した。ビアロスは鞭打ち八十回を執行、それに軍法会議で、軍籍剥奪のうえ、髪を切り落とさせ、庶人として国外追放処分となった」と、伝えた。獅子の鬣である髪を切り落とされるのは、最も不名誉な刑罰で、貴族にとっては家名を汚すことになるため、族譜から抹消され一族からは追放されるのが常だった。
王后は、
「そなたには、苦労をかけたが、後宮でも目の余る驕慢な振る舞いを糺すことができて、私も感謝しているのだ」と、付け加えた。
リーユエンは、特に、大きな反応も表さず、淡々と話を聞いていたが、王后が話し終えると、
「実は、王后陛下と王女殿下に、もうひとつお願いごとがございます」と、切り出した。
王后は微笑み、「何じゃ?何か欲しいものでもお有りか」と、問うた。
サンロージアは、その時、リーユエンの顔から微笑みが失せ、表情が冷たくなったのに気がつき、嫌な予感がした。
「王后の、母親として権限で、サンロージア王女殿下から、魔道具をすべて取り上げ、ここへ持ってきていただきとうございます」
リーユエンの抑揚のない声を聞いて、サンロージアは思わず大きな音を立てて椅子から立ち上がり
「いやよ、あれは私のものなのよ。お母様や、リーユエンに、勝手に処分なんてさせないわっ」と、抗議した。
けれど、リーユエンは冷めた視線でサンロージアを見上げ、
「ここに魔道具をすべて持ってきてください」と、言った。その声の調子の冷たさに、サンロージアはリーユエンが本気なのだと気がついた。
「わかったわ。持ってくるわよ」と、いい、一旦自身の殿舎へ下がり、魔道具を運んできた。
サンロージアは秘密の隠し場所から魔道具を取り出し、侍女に運ばせ、東屋まで持ってきた。東屋のテーブルの上に、見えないマントや、離れた場所をこっそりのぞき見できる手鏡や、盃一杯飲むと数時間姿を変えられる水薬、筆跡をかえられる魔法ペンなどが並べられた。
リーユエンは席から立ち上がり、その道具をひとつひとつ手に取って眺めた。そして、道具をどうするつもりなのか、気になって傍を離れないサンロージアへ、
「王女殿下、魔道具を起動させる力が何なのかはご存知ですか?」と、不意に尋ねた。
サンロージアは、不意の質問にキョトンとして、
「魔導士が術をかけて動かしてくれるのでしょう」と答えた。
リーユエンは、さらに、
「それでは、魔導士の行う魔導術の力の源は何か分かりますか」と訊いた。
サンロージアは首を振った。魔導士でもない自分になぜそんなことを尋ねるのかが不思議だった。
リーユエンは、初学の生徒へ講義を行うような丁寧な口調で、
「玄武の国に属する魔導士の力の源は、法座主猊下が作り出す太極石、そして南荒の神聖大鳳凰教に属する僧侶魔導士の力の源は、神聖大鳳凰の二百年ごとに生まれかわる不死再生の力が源です」と説明し「では、魔導士でないあなたが、魔道具を使うとき、一体何の力に依拠しているのかわかりますか?」と、さらに質問した。
リーユエンの質問の意味がわからず、サンロージアは戸惑った。
「さっき、私は答えたじゃないの?魔導士が術をかけて動かしてくれるのでしょう?」
リーユエンは紫眸でサンロージアをじっと見つめた。そして、
「魔道具には確かに術者の呪力が込められています。けれどそれを起動させるためには、使用する者の力が必要なのです。術者と同じ魔導士が使用するなら、呪力を使用するでしょうが、あなたのような凡人が起動させるには、一体何の力を用いているとお考えですか?」と、尋ねた。
サンロージアは、驚愕した。
「ええっ、では、私は何か自分の力を使って魔道具を起動させているってことなの?」
リーユエンはうなずき、
「そうですよ。使用禁止状態を解除し、起動させるために、王女殿下ご自身の力を使う必要があるのです。それが何だと思いますか?」
質問を聞くうちにサンロージアは不安を感じ始めた。
「何って、何なのよ?私は凡人で、魔力なんかないのに・・・」




