45 決闘(3)
デミトリーは、追いかけようとしたが、陛下が「追うな。やめておけ」と、止めた。デミトリーは、父王を振り返り、
「どうして?危険な真似はさせられない」と、言った。しかし陛下は、
「なぜ、決闘を受けねばならんのか、おまえより、リーユエンの方がよほど理解できている。おまえが代理で受けては、台無しになってしまうのだ。心配なら、立ち会って途中で交代してやれ」と、諭した。
(内官長の独白)
さきほどのリーユエン様は、本当に恐ろしゅうございました。あの方は、何と、実際に人を殺めたことがお有りなのでございます。王太子殿下は、そのような事は、まだご経験になったことはございません。あのお方がどれほどお強い方なのか、私めは存じあげませんが、決闘に応じるとおっしゃったからには、それなりの勝算がお有りのうえで受けられたのでしょう。陛下が、あえて止めようとなさらないのは、不思議でございますが、王太子殿下を危険にさらすよりも、リーユエン様を矢面に立たす方がよいとのご判断なのでしょうか?
王太子が不満気に退出した後、ゲオルギリー陛下は、内官長へ
「おまえは、リーユエンとビアロスが戦ったら、どちらが勝つと思う?」と、尋ねた。内官長は、眉尻を思いっきり下げ、気弱そうな笑みを浮かべ、
「そ、それは、私めのようなものには、何とも・・・」と、口ごもった。
ゲオルギリー陛下は、玉座の上で行儀悪く踏ん反りかえり、
「リーユエンは、棒術が得意だそうだぞ」と言い、「ドルチェンが直々に伝授したらしい」と、目を意地悪く光らせた。そして、「剣や刀で戦わせて、切りつけられて出血でもされたら、外苑から魔獣が飛んでくるだろう。ビアロスとは、棒術で戦わせよう」と言った。
翌日の正午過ぎ、王后は、密かに外苑の番人小屋を訪問した。番人小屋へ、三足長の燻製を届けにきたのだ。番人である老人は、足を括った燻製を持ち上げ、しげしげ眺めながら、
「ほうっ、三足鳥は燻製にするとうまそうだな。わしも、捕まえて作ってみるとしよう」と、言った。
その後、お茶を喫しながら、老人は、王后から、先日の夜の、ゲオルギリー陛下とリーユエンのやり取りを聞かされた。王后は、目から涙を流すほど大笑いしながら、その話を締め括った。老人は、宙をにらみ、感慨深げに
「なるほど、惜春楼か、玄武国でも指折りの、格式高い妓楼だ。なるほど、あそこの名妓から薫陶を受けたのなら、さもあろうなあ」と、つぶやいた。
王后は、それに続けて、リーユエンがビアロスと決闘することになった経緯も伝えた。老人は、
「リーユエンは、女性であろうに、近衛右軍少将と戦うなど無謀ではないのか?」と、尋ねた。ところが王后は、
「私も、そう思うのです。ところが、ロージーの意見は、違っておりまして、近衛右軍少将程度の実力では、彼女には絶対勝てないだろうというのです」
「まさか・・・ロージーの買い被りではないのか?」
「でもお父様も、ご存じでしょう。あの子は、頼りないようでいて、人を見る目は、確かな子です。そのロージーが見込んだのです。それに、先日ロージーが、ビアンサのところで捕まったときも、リーユエンが救い出してくれたのです」
「そうだった。その話は、ザリエルからも聞いたよ。少将を油断させて、股座を蹴り上げたそうだな」
王后は、顔を赤らめ、「ええ、随分思い切ったことをしたものです。ビアンサが、リーユエンを後ろから刺すなどというバカな真似さえしなければ、ここまで大事にならずに済んだものを・・・」と、小声で言った。
老人は、「怪我をしているのだろう?戦って大丈夫なのか?」と、心配そうに尋ねた。先日見たリーユエンの淑やかな様子からは、戦うところなど想像もできなかった。そして、「弓矢が得意なのだろう?せめて、射的で競わせてはどうなのだ」と、意見した。
王后は、頭を振り「陛下は、棒術でやらせろと仰せなのです」と、返した。
老人は、眉を寄せ、怪訝そうに
「棒術?また、どうして棒術なのだ?」と、尋ねた。
王后は、「陛下のお話では、リーユエンの棒術は、法座主猊下直伝のもので、少将といい勝負になるはずだと・・・」と、話しながらも、自分自身は不安に思う様子で、続けて「リーユエンは、今朝から離宮へ出かけ、ザリエルとヨークを相手に修練しております」と続けた。そこへ、番人小屋の外から、扉を叩く音が響いた。
老人は立ち上がり、「今時分、誰がきたのだろう」と、呟きながら、扉を開けにいった。
そして、玄関から戻ってきた老人とともに、部屋の中へ入ってきたのは、話に出ていたザリエルだった。ザリエルは跪き、王后陛下へ挨拶した。
王后は、ザリエルへ「ちょうど、お前たちの話をしていたところです。練習の結果はどうだったの?」と、尋ねた。そして、ザリエルの右眉の横に絆創膏が貼られているのに、気がつき、
「あら、おまえが怪我をするなんて珍しいわね」と、言った。するとザリエルは、
「王后陛下、嬢ちゃんは強いなんてものじゃありません。あれは、もう、何というか、人間離れした強さです」と、言い出した。




