6 カリウラ 東荒にてリーユエンと出逢う(2)
野営地の東の端で、カリウラはリーユエンを見つけた。彼の天幕をヨークが組立て中で、それを立ったまま見守るリーユエンの横に、デミトリーがふくれっ面で立ち、ヨークへ向かって
「どうして、おまえがこいつの天幕の設営をするんだ。お前は俺の影護衛のはずだろう」と、抗議するのが聞こえた。それに対してヨークは冷静に
「陛下から、この方からも目を離さないよう言い遣っております」と、答えた。
デミトリーは苛立った口調で、
「目を離すなと言われただけだろう?それが、どうして天幕の設営になるんだよ」とぶつぶつ続けた。
ちょうど天幕を組立て終えたヨークは、デミトリーへ向き直ると
「お怪我をなさっておいでです。天幕の設営をされたら、傷口に障ります」と尤もらしく答えた。
側まで近づき、それを聞いたカリウラは吹き出しそうになったが、必死で真面目な表情を保ったまま、彼らに近寄った。
「リーユエン、俺が手伝うまでもなかったな」
フードを被って表情は分からないが、リーユエンはうなずき、それからヨークへ
「どうも、ありがとう」と礼を言った。
ヨークはうなずき「お大事になさってください」と言い、デミトリーを連れて、自身の天幕へ戻っていった。
カリウラはリーユエンへ
「影護衛は、おまえの血の匂いにイカれちまったんじゃないのか?」と囁いた。
リーユエンは肩をすくめ、「さあ、どうだろう」と言った。
それからカリウラは、
「さっき、ユニカを見舞ったが、まだ眠っているそうだ。熱が下がらないらしい」と報告した。
「ユニカが目を覚ましたら、オマが私を叩きのめすかもしれない」と、リーユエンが物騒なことを言い出した。
「どうして・・・助けてやったのにか?」
「・・・・人面鳥の馬鹿が、ユニカを押さえつけて離さないから、見捨てるふりをしたんだ。でも、ユニカは、見捨てられたと思ったかもしれない・・・謝ろうと思って見舞いに行ったが、まだ眠っていたから」
「そりゃ、仕方ないだろう。俺から、オマにも説明しておくよ。今夜は、魔獣の餌やりなのか。あれだけ食い散らかしたんだから、今日は満腹だろう?」
リーユエンはため息をつき
「あれはデザートで別腹だから、主食は頂くって言われた」と言った。
カリウラはリーユエンの肩をそっと叩き
「それは大変だな。まあ、明日は鞍から落ちないよう、見張っててやるよ」と言い、慰めた。
東荒の地で、カリウラは見つけた子供を一族のもとへ連れて帰った。ひどい火傷を負って、満足に歩くこともできない子供を森の中へ置き去りにすることはできない。森で見つけた孤児は、それがどこの一族の者であれ、見つけた部族が一旦引き取り世話をするのが、東荒の民の慣わしだった。
引き取った当初、リーユエンは一言も話さなかった。火傷の傷は深く、耐えず出血しているのに、痛みを訴えることもなかった。ただ、無表情を保ち、何に対してもひどく反応が薄かった。カリウラは、一族の中の薬師のもとへ連れていき、彼を手当てしてもらった。薬師は傷の具合を見て首を傾げた。
「この子は、特殊な体質なのかもしれない」
「特殊な体質?」
「この火傷はもう大分日にちが経っているようなのに、治りが悪い、けれど悪化している様子もない。たぶん傷口が塞がりにくいのだろう。出血もしやすいようだから、薬をつけた上から、包帯を巻いて、なるべく安静にしていた方がいいだろう」と、薬師は診断した。
カリウラは、子供を自分の村へ連れて帰り、薬師の言う通りに養生させた。三ヶ月ほど養生するうちに、子供は、カリウラたちが話す言葉を理解できるようになった。覚束ない歩行も、自分で辛抱強く歩き続けて、カリウラの後を遅れずについていけるようになった。ある日、子供はカリウラヘ
「私の名前はリーユエンだ。これからは、リーユエンと呼んで」と言った。カリウラは言われた通り、彼のことをリーユエンと呼ぶようになった。




