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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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44 後始末(1)

 まばゆい笑みを浮かべ、颯爽と東屋へやって来たデミトリーは、リーユエンが腰掛ける長椅子へ割り込み、

「ほら、王立図書館から借りてきたぞ」と、いいながら、抱えていた荷物をテーブルの上に置いた。

「ありがとう」というリーユエンを、デミトリーは抱き寄せキスしようとした。けれどリーユエンは腕を伸ばし、その顎先を手のひらで押さえつけて制止した。

「何だよっ、何するんだ」と、抗議をあげる彼へ、リーユエンは眉をしかめ、中門の方角へ視線を動かした。デミトリーは、それにハッと気がつき、立ち上がるや、前栽へ向かって走り出した。

 こちらへ王太子が走ってくるのを見た女官たちは、驚き慌てて

「キャアー、大変っ、殿下がこちらへ来るわ。逃げなくちゃ」と、一斉に回れ右したが、中門との間には、一見温和に見える笑みを浮かべながら、目は陰険に光る内官長が、部下の内官二人とともに待ち受けていた。女官たちは、その姿に、

「ヒィィー、内官長さま」と叫び、跪いた。

 内官長は、彼女たちを睥睨し、

「あなた方、いつからリーユエン様にお仕えするようになりました?それにこんな所で、あのお方のお姿を盗み見することが、あなた方のお役目ですか?」と、詰問した。

「お、お許しくださいませ」と、女官たちは一斉に頭を地面につけるほど下げて謝罪した。

(まったく何という規律の緩みだ。女官が三人も、こんなところで仕事をさぼりおって・・・)

 どうしてくれようかと女官を睨む内官長のそばへ、王太子殿下がやって来て、女官たちへ、

「おまえたち、早く持ち場へ戻れ、こんなところでサボっていたら、母上から厳しい罰をくらうぞ」と、声をかけた。女官たちは、さっと立ち上がり、王太子殿下へ丁寧に揖礼するや、中門から次々と逃げ出していった。

 女官を追い払ったデミトリーは、内官長へ、

「内官長、今日は何の用向きで、来たのだ?」と、尋ねた。すると内官長は拝礼して、

「はい、王太子殿下、リーユエン様へ、陛下から、お見舞いのお品をお持ちしました」と、答えた。

 デミトリーは、内官長とその部下を引き連れて、東屋もどって来た。そして、長椅子に座るリーユエンを抱き上げると、そのまま自分が長椅子に 腰掛けた。そして、懐に抱いた彼女の耳元で「父上から見舞いの品をもって来たそうだ」と、内官長の用向きを説明した。リーユエンは挨拶するために起きあがろうとしたが、デミトリーはがっちり抱き抱えて離そうとしなかった。

 内官長は、眉毛の一筋すら動かさず、あくまでにこやかな顔のまま、

「ご療養中でいらっしゃるのですから、どうぞ、お気楽になさってください。私めに礼儀は不要でございます。陛下から、見舞いの品をお届けに参りました。三足鳥の燻製と、酒でございます」と、口上した。

 酒と聞いた瞬間、リーユエンの表情は明るくなったが、デミトリーが、

「内官長、酒は、私が預かっておく」と言い出した。リーユエンは、思わず小声で

「エエッ、私が頂いたのに・・・」と、抗議した。けれど、デミトリーは

「まだ、完全に治っていないだろう?医師が、内臓の傷は癒えているが、背中を刺した傷が治りきっていないと言っていたじゃないか。酒は傷口に障るから、ダメだよ。飲んだら、ウラナが心配するぞ」と、たしなめた。

 リーユエンは、つまらなそうに「分かったわ」と返事した。

 内官長は、テーブルの上に燻製肉を乗せ

「こちらの燻製肉は、昨日作ったものでございます。リーユエン様のレシピと、それを元に王宮の料理人が改良を加えたものと両方ございますから、ご賞味くださいませ」と、説明した。

 リーユエンは、優婉な笑みを浮かべ、

「内官長、陛下のお心遣いに感謝申し上げます。よろしくお伝えくださいまし」と、淑やかに礼を述べた。その横から、デミトリーが手を伸ばして、もも肉の燻製を取り上げ、勝手に食べ始めた。そのすきに、リーユエンは彼の懐から脱出し、隣の肘掛け椅子へ移って腰掛けると、デミトリーの持ってきた包みを開き、中から大版の古びた書物を取り出した。

 内官長は、それに王立図書館の刻印が押してあることに気がつき、興味がわき、

「それは、何の書物でございますかな?」と、尋ねた。

 するとリーユエンは、

「これは、百五十年余前に三荒大平をすべて踏破したという、バトゥーダ上人の旅行記の一冊のうちの、『東荒見聞録』です」と答えた。そして、「貸出禁止だから、本当は図書館へ行って見せていただこうかと思っていたのだけれど、王太子殿下が特別に借り出してくださったの」と付け加えた。すると、燻製肉を呑み込んだデミトリーが、

「リーユエン、もう私のことは名前で呼んでくれよ」と、声をかけた。リーユエンは眉を下げ、首を傾げて

「馴れ馴れしくお名前を呼ぶなんて、恐れ多いことですわ」と、小さな声でいった。そして、また『東荒見聞録』を読み始めた。デミトリーは、もう一本燻製肉を取り上げ、それを手でブラブラさせながら、

「そんな本、あとで見ればいいだろう。早く燻製肉を食べないと全部食べてしまうぞ」と、からかった。けれど、リーユエンからの反応がないのが不満で、子供みたいに膨れっ面になり

「私は、おまえを必ず王太子妃にすると決めている。だから、遠慮なんかしないで、名前を呼んでくれよ」と言った。

 リーユエンは、本から顔を上げ、デミトリーを一瞥すると、

「私は療養中で、こちらにご厄介になっている身でございます。先々の事を軽々しく口にはできませんし、礼儀をわきまえない振る舞いもしたくはございません」と、淡々と言った。

 デミトリーは「やれやれ、お堅いなあ」と、つぶやいた。

 リーユエンは、「殿下は、今日も午後から、法務院の会議にご出席の予定でいらっしゃいましたね。そろそろ、ご出立されてはいかがですか」と促した。デミトリーは、

「そうだな、行ってくるよ」と、リーユエンへ近づき、軽く口付けすると行ってしまった。

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