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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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43 本心(3)

 乾陽大公は、ゲオルギリー陛下へ、

「陽気が尽きたのなら、法力を送り込めない」と宣告した。陛下は、驚き

「どうしてだ?剣の刺傷を早く塞がなければ、止血効果がなくなり次第、また出血するぞ」と、訴えた。

「すでに陰陽の均衡が失われた体内に法力を送れば、内傷が起き、心の蔵まで傷つくだろう。だから、陽気がない状態では送れない」と、乾陽大公は淡々と説明した。それに対して陛下は、

「リーユエンの元へ、今、デミトリーが行っている。もう、愚息に任せるしかないだろう。リーユエンは、躊躇うことなく朕と同衾したが、陽気の受け入れは微々たるものだった。従順な態度をとりながら、心のどこかで、朕のことは拒んでおったのだ」と、珍しく沈んだ口調で言った。

 乾陽大公は、「魔導士学院で、今でも語り草になるほどの武勇伝をお持ちの陛下なら、リーユエンの事も何とかしてくれると期待していたのだが、荷が重かったのか?」と、皮肉げに尋ねた。陛下は、

「いいや、朕はリーユエンの母親を知っている。大牙の国から連れ出して、逃してやりたかったが、力及ばず助けてやれなかった。その事はずっと心残りだったから、リーユエンの事は何としてでも助けてやりたいと思っているし、荷が重いなどと思ったことはない。実際、素晴らしい女だし・・・」と、最初は真剣に話していたのに、最後は惚気(のろけ)に変わってしまい、陛下の顔が一瞬デレッと緩んだとき、乾陽大公の眸は糸のように縦に細くなった。こんな奴が、彼女に手を出したのかと思うと業腹で、思わず

「ふんっ、陽気の受け渡しがうまくできなかったのだから、陛下は、ただリーユエンを(もてあそ)んだだけということか」と、言わずにはおられなかった。

「何を言うか。朕は、本気だ。大いに本気だ。だが、リーユエンが選んだのが、朕ではなかったのだから、仕方ない。まったく、愚息より朕が先に目をつけたのに、どうしてこんな事になったのか」と、ゲオルギリー陛下は、未練たらたらな様子で訴えた。

 その時、陛下の側に控える内官長のもとへ、部下の内官が内股の小走りで近寄り、小声でささやき、報告した。その報告を聞くうちに、内官長の顔色が明るくなった。聞き終わった内官長は、陛下へ近寄り、一礼すると

「王太子殿下が、リーユエン様の寝室へ入られたそうです。ヨークからの報告によりますと、寝室の扉の隙間から、黄金色の光が溢れ出たとのことでございます」

 陛下は、琥珀色の眸を見開き、喉を上下させ、

「い、今、黄金の光と申したのか」と、上擦った声で確認した。

 内官長は、「さようでございます」と、力強く答えた。

 乾陽大公が怪訝な顔で見守る中、陛下は、突然、大笑し、

「ワハハハッ、やった、出来(でか)したぞ、デミトリーの奴、とうとうやりおったわい。朕は、これでドルチェンとの約束が果たせる。乾陽大公、喜べ、リーユエンは死なない。必ず、助かる」と、吠えるように言った。


 寝室の扉を開けて中へ入ると、デミトリーは扉を静かに閉めた。そして、寝台に横たわるリーユエンに近寄り、見下ろした。

 リーユエンの顔色は透き通るように青白く、表情は穏やかで、あるかないかの、儚い笑みが浮かんでいた。

(リーユエンって、特に意識しない時は、こんなに無邪気な笑い方をするんだ)

 デミトリーは、彼女を見下ろしながら、自分がどれほど強くリーユエンを求めてきたのかを、あらためて自覚した。

(俺は、初めて逢ったときから、ずっとリーユエンを求めてきた。法務院の中庭で、紫の眸に睨まれて、気圧されそうになった時から、俺は、こいつのことばかり意識するようになった。こいつにだけは、負けたくないと思った。ヨークから世話を焼かれるのを見ていても、アスラに話しかけるのを見ていてもイライラするぐらい意識して、リーユエンに、俺を認めてもらいたかった。リーユエンを振り向かせて、そのの眸に、俺だけを映してほしかった。ダーダムの野郎が、口付けした時は、ぶちのめしてやりたかったし、大牙の国で身動きできないほど痛めつけられた彼女を見たときは、発狂しそうなくらい腹が立った。リーユエンを取り囲む長老どもを、皆殺しにしてやりたかった。こんなに好きなのに、ただリーユエンだけが欲しいのに、このまま逝かせてしまうなんて、そんな事できない。絶対、死なせたりなんかするものかっ)

 そう固く決心した瞬間、体内に、今まで感じたこともない、強い波動が現れた。心の臓の鼓動とも違う、もっと力強く、熱した鋼を打ち付けるような波動だった。デミトリーの体から黄金色の霊気が、ゆらゆらと立ち上り、彼の髪は逆巻き黄金色に輝き出し、眸の色も金色に近い琥珀色へと変わった。身内から、無尽蔵の力が湧き出してくるのを感じ、デミトリーは、リーユエンを抱き起こすと、口付けした。


 半日が過ぎた。けれどリーユエンの寝室の扉は閉ざされたままだった。

ヨークから続報が入らないまま、王宮で待ち続けたゲオルギリー陛下は、とうとう痺れを切らして、リーユエンの殿舎を訪れた。出迎えたウラナに、

「愚息は一体何をしておるのだ?」と、尋ねた。するとウラナは、

「寝室に入られたきり、出ておいでにならないのです」と、答えた。

「もう、半日だぞ。何をしておるのだ?」と、重ねて尋ねる陛下に、ウラナは珍しく顔を赤らめ

「陛下、若いおふたりがお部屋にこもり切りでいらっしゃるのでございますよ。何をしているかなんて・・・お察しくださいませ」と、ささやいた。

 ゲオルギリー陛下は、目を見開き口をポカンと開けた後、

「はあ?半日だぞ・・・いくらなんでも、いや・・・ありうるか」と、己の若かりし頃を省みてぶつぶつ呟いた。そこへ、超法規的処置で、特別に後宮への立ち入りを許可された乾陽大公も入ってきた。そして慌てて拝礼するウラナへ、

「礼などしなくていい、私は、リーユエンの親族扱いで、後宮へ立ち入らせてもらったのだ」と言い、続けて

「陽気の受け渡しに成功したとしても、傷を直すには法力が必要だ。陛下の話のとおりの怪我だとしたら、そろそろ治療しておいた方がよいだろう」と、言った。

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