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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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43 本心(2)

 無力感に打ちひしがれていたデミトリーの耳に、ウラナの言葉が、水が土へ染み通るように入ってきた。鼓動が早まり、話の内容が信じられなかった。

「ウラナ・・・リーユエンは、俺のこと・・・」

 デミトリーは頭から手を下ろし、ウラナを見上げた。子供のような無垢な眸に、慈母のような微笑みを浮かべ、うなずく顔が映った。

「今は、寝室でお寝みでございます。どうか、見舞って差し上げてくださいませ」

 ウラノの声は、いつもと違ってひどく優しく聞こえた。デミトリーは立ち上がり、リーユエンの寝室の扉をそっと開けた。


 リーユエンは、意識が戻った。アプラクサスの神気が、出血を止め、痛みを和らげていたけれど、凍えるような寒さは、そのままだった。

(これは、致命傷だな。半日だと言っていたから、それを過ぎたら、私は死ぬ。魂は塵となって消えてしまうだろう)

 心の中は、死期を悟って諦観しつつあったけれど、やはり心残りな事柄はあり、水面に落ちてくる枯葉のように、それは不意に現れた。

(最後に猊下へお別れを言いたかったのに、玄武紋には、何の反応も現れない・・・南荒では、些細なことでも反応して、私のことを苛めたくせに、もう死にかかっている今になっても、何の反応もないなんて、猊下は、やはり私のことを見限ってしまわれたのかしら・・・)

 瞼が閉じたまま、目尻から、涙が一筋流れ落ちた。

(どうして、西荒へ行くのを止めてくれなかったの・・・前世の記憶なんか思い出すんじゃなかった。そうすれば、何も知らないまま、玄武の国で明妃のままでいたのに・・・前世の最後に願った通り、せっかく男に生まれたのに、誘涎香血が呪いのように付きまとい、私は生き神として育てられ、異界に落とされ魔獣つきになってしまった。東荒の龍穴でヨーダム太師の姿を幻視して、その力を頼ろうと玄武の国にきたら、また旦那様に捕まってしまい、経絡まで触られて女に戻されてしまった。何も知らなければ、猊下にお仕えするのが私の定めなのだと思って暮らしていたのだろうに、猊下と睦み合い、猊下の寵愛だけを頼りに生きていたのだろうに・・・)

 リーユエンは目をあけた、けれど視界が霞み、まわりはぼんやりとしか見えなかった。

(仕方ないわ、死ぬ運命にあったドルチェンを生かそうとして、私の血を与えたのが、そもそもの過ちだった。情に流されて、彼の運命を変えたのが、そもそもの過ちだった。銀牙の一族を滅ぼした張本人、憎んでも憎み足りない恨めしい猊下を助けたのは、私の過ち・・・それを思い出したから、もう自由に生きるのはあきらめて、今生の、私の凡人としての一生を猊下に捧げて、添い遂げようと思っていたのに・・・こんな事になってしまうなんて・・・猊下は玄武でいらっしゃるから、私のようにいつまでもお気持ちをひきずるような事はなさらないのね。一千年も私を中有に繋ぎ止めておきながら、私がもう助からないとなったら、私を省みようとはなさらないのね。ふふっ、玄武らしいご気質だわ)

 そんな事を考えている間にも、体の寒さは増すばかりだった。寒さに体が震え、体が震えたことで傷の痛みがぶり返し、リーユエンは眉をしかめ、歯を食いしばった。

(どうして、国王陛下は、デミトリーの世話を私に押し付けたのかしら?隊商へ入ってからも、正論ばかり言い立てて、私の言う事も聞かないで、危ないことにすぐ鼻を突っ込んできて、いつもイライラさせられたわ。それに、彼だけが、私にまっすぐ気持ちをぶつけたきた。他の人は、みな、遠慮したり、何か願い事があったりとか、思惑があるようなものばかりだった。王子様育ちの大らかさなのか、デミトリーはいつも率直に接してくれた。それに、彼の体は暖かかった。母の記憶を無くした私に、人肌の暖かさを教えてくれたのは、彼が初めてだった。この気持ちを、猊下には、知られてしまったけれど、仕方ないわ。猊下は玄武なんだもの、いくら睦み合っても、ああいう暖かさはないもの・・・男のままでいたら、デミトリーなんか、あんな生意気な奴、ぶん殴って、蹴飛ばしてやっていたのに・・・まあ、いいか・・・どうせ、私はもうすぐ死んでしまうのだから)

 その時、扉の開く音が聞こえた。よく見えない目で、扉の方を見ると、誰かが近づいて来た。

(あれ?この人のまわり、金色の光が取り巻いていて、顔がよく分からないわ。これって先見で見た光景だわ。そうか、私は自分が死ぬ光景を見たから、気分が悪くなったのね。これって、きっと死神が迎えにきたのよ)

 リーユエンは、そう考えて、うっとり微笑んだ。


 一方、王宮では、またもや呼び出された乾陽大公が、怒り狂って国王陛下に詰め寄っていた。

「数日前に治療したばかりだというのに、また負傷した、それも重傷だとは、一体どういうことだ。貴様、一体どういう管理をしておるのだっ」

 内官長は、あまりに無礼な口調を注意したかったが、玄武の凄まじい怒りは、実際空気を震わせるほどで、恐ろしくて何も言えなかった。そんな中でも、黄金獅子である陛下は、玄武の怒気に圧倒されることもなく平然と、けれど眉は深刻にしかめたまま

「想定外の事態が起こったのだ。謝罪ですむようなことではないと分かっている。アプラクサスが出血を止めたが、半日が限度だそうだ。それに陽気が尽きたと言っておった」と、説明した。

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