5 断崖絶壁の怪鳥(2)
怪鳥の胸元にある人面の目が動き、白虎と黒豹の姿をとらえ、黒い唇が引き攣るように弧を描き、歪んだ笑いとなった。
「おや、白虎に影がついてくるなんて、珍しい組み合わせだね」
甲高くきしきしと響く耳障りな声だった。それを聞いた魔獣がリーユエンへ
「悪いが、こいつは不味くて食えない。人の慣れの果てで肉に毒が回っている」
「元は人なのか?」
「ああ、たぶん魔導士か、魔獣使いだろう。生気を吸い尽くされて、人外に堕ち、魔獣と融合したのさ。こんな奴はまずくて食えない」
人面が目をすがめ、白虎を睨んだ。
「おや、おまえも魔獣をつけているのか。そんな立派な転身ができるのに、わざわざ魔獣をつけるなんて物好きは奴だ」と、馬鹿にした口調で言った。リーユエンは、ユニカを取り戻す隙をうかがっていたものの、かぎ爪のついた獅子のような足でしっかり押さえつけられていて、手が出せなかった。
「人外に堕ちたおまえのような者は、異界にいるべきはずなのに、どうして、こんなところにいるのだ?」と、リーユエンは尋ねた。
すると、怪鳥は
「あたしは、幸いなことに翼持ちだからね。異界と人界を自由に行き来できるのさ」と答えた。
「おまえが抑え込んでいる、それは、鳥か?食べるのか」と、さらに尋ねると、人面はユニカを見下ろし
「さっきヒョロヒョロ崖の下から飛んできたから、捕まえたのさ。まあ、おやつに食べるのもいいかもしれない。せっかく人界まで上がってきたのに、何を食べても砂を噛んでいるような味しかしない。この若い鷲なら、少しは食べでがあるかもしれない」と、白虎の顔色をうかがいながら、わざとらしく舌なめずりしてみせた。
「そうか・・・助けに来たが、おまえから取り上げるのは無理そうだな」と、白虎はあっさり引き下がり帰ろうとした。人面は、予想外の反応に慌てて、
「待てっ、こいつを見捨てるのか。可哀想とは思わないのか」と、引き留めようとした。白虎は振り返ると
「可哀想だとは思うが、おまえと争ってまで取り戻す気はない。ただ、それは黄金鷲の国の中でも、身分の高い者だ。お忍びで旅行中だったのに、おまえに食われてしまったら、私は雇い主から護衛料の後払い分をもらい損ねるかもしれない」と、残念そうに言った。
それを聞いた人面は、ギョッとして
「こいつは、貴族なのか。もしかして身代金が取れるのか」と、尋ねた。白虎は
「それはどうだろう?身代金を取るなら、体を傷つけずに五体満足で返してやらないと、納得しないだろう」と言った。
「ううむ・・・・」ユニカを抑え込んだまま、人面は悩み始めた。
その様子を見ながら、リーユエンは
「異界を棲家にするおまえには、金なんて必要ないだろう。さっさと食ってしまったらどうだ」と、冷淡に言い放った。すると、しばらく黙りこんだ後、人面は
「いや、黄金はどこを棲家にしようと身近に置いておきたいことに変わりはない。黄金の輝きこそ、何物にも変え難い」と、唸るように言った。それへリーユエンは軽蔑した口調で「人外に堕ちたおまえが黄金なんぞ所有して何の意味がある」と、返した。
人面は眉を逆立て
「うるさい、人外に堕ちようともあたしは人間だ。黄金を愛して何が悪いっ」と、怒鳴り返した。その時、一瞬前足の力が緩んだ。リーユエンの左前足から黒い鞭がしなり、ユニカを一瞬で取り返した。それを、リーユエンはヨークへ横滑りさせ
「守ってくれっ」と叫んだ。ヨークは、ユニカを口に咥え、リーユエンの背後へ下がった。
「おまえ、人のものを横取りしおって、我を騙したな」
「もともと、おまえのものではないだろう」
人面の体の尾羽から無数の蛇が蠢き、蛇体を伸ばし、白虎へ襲いかかった。全身を包む白銀の霊気が、突然青白く発光し、蛇は一瞬で消滅した。
「ヒッ、おまえ、その業は・・・」
人面は恐怖に顔を歪めた。




