5 断崖絶壁の怪鳥(1)
彼らは、巨人が作り出したという絶壁の前で、半時余り休憩した。戻ってこないユニカの事が気になり出したカリウラは、もう一度リーユエンがいる大岩まで行き
「ユニカを偵察へ飛ばしたが、まだ戻ってこないんだ」と、声をかけた。
リーユエンから「いつ偵察へ行かせた?」と、尋ねられ、カリウラは「半時ほど前だ」と、答えた。
「時間がかかりすぎているな」と、呟きながら崖の上を見上げたリーユエンは、突然ユニカが何かに襲われる幻視を見た。
「まずい・・・襲われている」と、言うや、リーユエンは駆け出すと同時に転身し、ほとんど垂直の崖を猛スピードで一気に駆け上がった。
「おい、リーユエンどうしたんだ。俺も行くって・・・無理か・・・垂直の崖を杭を打ち込んだ隘路を無視して登るなんて、俺には無理」
白銀の霊気が、垂直の崖を流れ下る一条の滝のように輝き、リーユエンは絶壁の上へ消えた。
崖に突然現れた白銀の光跡に気がついたヨークが、駆けつけてきた。そして、総隊長を見つけ「何かあったのか」と、声をかけた。
「ユニカが、上で、何かに襲われたらしい、リーユエンが登っていった」
ヨークは「この絶壁を、あの光跡がそうなのか」と驚いた様子で尋ねた。カリウラは肩をすくめ「あいつは、転身すると空中でも自由自在に移動できるんだ」と、答えた。それから、ヨークに
「あんたは、あの崖を登れるか。リーユエンはひとりで行ってしまったから、俺は追いかけられないし・・・金主であるリーユエンに、もしもの事があるとまずいんだが・・・」と、続けた。
「私は、王子の警護があるが、あなたがしばらく代わりを務めてくれるのなら、登っていってもいい」と答えた。
カリウラは目を輝かせ
「もちろん、任せてくれ。俺が絶対目を離さないようにするから、心置きなく上へあがってくれ」と言った。
ヨーク自身も、リーユエンの能力に興味があったので、カリウラに王子を任せて、崖を登ることにした。影護衛は警護につく者の気配を追って動くことができる。ヨークは、黒い影と化し、リーユエンの残した光跡に添いながら絶壁をスルスルと登っていった。
絶壁の上に登ったリーユエンの視界に、暗灰色の地面に落ちる黄金の羽毛が飛び込んだ。羽には血が滲んでいた。
虎面を上げ、空気を匂いを嗅ぐと、血の匂い以外に何か獣の匂いがした。
「リーユエン、何か見つかったのか」と、遅れて崖に上がってきたヨークが声をかけた。そして、彼の足元に広がる羽毛に気がついた。
「襲われたのか」
黒い影を地面から起き上がらせ、黒豹姿となったヨークも空気の匂いを嗅ぎ、「この岩場の奥の方に何かいるぞ」と言った。
ヨークは、リーユエンが全身に白銀の霊気を纏う巨大な白虎に転身していることに衝撃を受けていた。霊気を纏う白虎は、太古の時代に滅亡した、牙の一部族である銀の一族の転身した姿であると言い伝えられていた。それは、もう存在しないはずの伝説の神獣なのだ。昨日も一瞬目にして信じられなかった。それが、いま間近にその姿をはっきり目にして、あらためて衝撃を受けていた。
リーユエンは、ただ「行ってみよう」と、先へ進み始めた。
崖の上の岩は風化が進み、ところどころ深い亀裂が入り、底無しの裂け目となっていた。リーユエンは、柱状の岩と岩の間を軽々と跳躍して渡り、さらに奥へ進んだ
岩場の奥にさらに切り立った崖があり、地面に接したところに大きな窪地があった。そこで、巨大な鳥に押さえつけられ、逃れようと暴れるユニカがいた。
ユニカを押さえつけているんのは、翼を広げた怪鳥だった。飾り羽に縁取られた鷲のような顔で鋭い嘴を開き、蛇のような鱗に覆われた首に、正面の首の付け根から胸にかけて人面が隆起し、翼の途中にも二対の鉤爪、獅子のような茶色の毛に覆われた足にも鋭く黒い鉤爪があり、尾羽は一本一本が蛇体で、無数の蛇の頭が蠢いていた。




