32 百鳥の王と飛魄の謎(3)
「そのような事件はいつ頃から起きているのだ?」と、ダルディンが問うと、公爵は、
「私が調べた範囲では、五十年くらい前から散発的に起きている。そしてここ二十年あまりで、頻度が増している」と、答えた。
その時、扉が開き、アプラクサスが明妃めがけて飛んでくると、
「お帰り」と、肩へとまった。明妃は、一瞬眉をしかめた。アプラクサスは、明妃の異常にすぐ気がついた。
「どうしたの?怪我してるじゃないかっ、誰にやられたんだっ」と、アプラクサスはテーブルへ飛び移り叫んだ。
その姿を見た公爵は、また椅子からガタンと立ち上がり、
「あ、あなた様は、アプサクサス様、百鳥の王ではありませんかっ」と、叫んだ。
彼の方へ振り向いたアプラクサスは、
「おや、タイ鳥の長の息子か、ちょっと見ないうちに、すっかり大人になったね。昔は、小っちゃかったのに・・・」と、声をかけた。
公爵は目を見開き、全身ブルブル震わせながら、アプラクサスへ深々と拝礼し、
「王はどこへ隠れていらっしゃったのですか。私たちは、あなたの行方をずっと探しておりましたのに・・・」と、話しかけた。
アプラクサスは、公爵から視線を外し、
「ちょっと待って、その話は後でしよう。それより、明妃に怪我させたのは、誰なんだ」と、ヨーダム太師とダルディンを交互に見ながら尋ねた。すると、ダルディンが
「すまない。私がちょっと目を離したすきに、第二王女が、ユニアナ王女へものを投げつけて、それを庇って彼女は怪我をしてしまった」と、説明した。
アプラクサスは目がギラッと光らせ、
「あの、馬鹿王の子供たちは、我の大切なミンを傷つけるなんて許せない。今から王宮へ行って、第二王女を突き回してやる」と、意気込んだ。
明妃は立ち上がり、アプラクサスをそっと抱き抱えると、背中を撫でながら
「そんな馬鹿な真似するのはやめてちょうだい。ちょっと青あざができただけよ。すぐ治るわ。それより、アプちゃんって、百鳥の王って呼ばれているのね。偉い鳥だったの?」と、尋ねた。
「ア、アプちゃん・・・アプラクサス様を、アプちゃん・・・」公爵は、目も口も大きく開けて、親密な様子に非常に驚き
「明妃殿下は、アプラクサス様とお知り合いだったのですか?」と、尋ねた。
明妃は、「ええ、海岸でみつけて汚れていたから、体を洗ってあげたのよ。ねっ」
「うん、綺麗にしてくれたよね。それに食事もおいしいのを食べさせてくれる。ここ百年の間では、ミンが我の世話を一番よくしてくれたよ」と、明妃とアプラクサスは顔を見合わせた。
ヨーダム太師は、咳払いすると、明妃へ
「明妃殿下、あなたも魔導書でご覧になったことがあるでしょう?二百年に一度青い劫火に焼き尽くされ復活を果たす不死の鳥、百鳥の王、大鳳凰の御名が、アプラクサスなのです」
「・・・・アプちゃん、大鳳凰なの?」
と、明妃から問われたアプラクサスは、コクコクと頷いた。すると明妃は、目を見開き「へえー、アプちゃんって偉いのね。でも、私が見た魔導書では、大鳳凰は、極彩色の羽で尾羽は長さが一丈余りって書いてあったし、その時見た挿絵とあなたは似ていないわね」と言った。
するとアプラクサスは、嘴を開き、羽をバサバサ羽ばたかせながら
「我は、二百年前の復活の儀式で、劫火の中から甦った時、どうしたわけか、尾羽が生えてこなかったのだ」と、訴えた。
明妃は、ウラナが配膳してくれた軽食の皿から、オレンジの房をとりあげ、アプラクサスへ与えながら、
「あなたが言っていた復活の儀式の中断って、それが原因だったの?」と、尋ねた。 アプラクサスは、オレンジを美味しそうに食べながら
「そうだ、我の姿が醜いと、教皇は怒り出したのだ」と言った。
「尾羽が生えてこなかったことって以前にもあったの?」と、明妃が尋ねると
「いや、あの時が初めてだった」と、答えた。
「尾羽の一本や二本生えなかったくらいで怒り出すなんて、随分狭量な方だったのね」と、明妃はつぶやいた。




