32 百鳥の王と飛魄の謎(2)
明妃とウラナは顔を見合わせた。ウラナは、アーリナへ
「明妃は、今、ご入浴中で、これから打撲の手当てもしますし、少し休憩もなさりたいそうだから、すぐには面会できませんよ。そうね、二時間後になるかしらね。明日ではいけませんかと、うかがってみてちょうだい」と、応えた。
しばらくして戻ってきたアーリナは、申し訳なさそうな顔で
「ヨーダム太師も一緒について来ておられて、今夜中に、大公殿下と明妃殿下に是非お話を聞いてほしいとおっしゃっておいでです」と、告げた。ウラナは、眉をしかめたが、明妃は、「わかりました」と了承し、「ウラナ、もう上がるから、悪いけど支度を急いでちょうだい」と指示した。
風呂から上がった明妃は、長い髪を術で乾かしてしまった。
それを目撃したウラナは
「もう、お止めくださいませ。術でなんかで乾かしたら、お髪が傷んでしまいますよ」と、嘆いた。けれど明妃は、
「急ぐのよ。手入れは後でお願いするわ。背中に湿布を貼ってちょうだい」と、指示した。そして、(はあっ、筒袖が着たいのに、お客が来たから、また広袖を着ないといけないのか。でも、ヨーダム太師も一緒なら魔導士服でも・・・)と、内心企む明妃のことをお見通しのウラナは、
「明妃、相手は公爵なのですから、ちゃんと明妃らしい格好で面会してくださいまし」と、夜用の柔らかい生地の広袖服を着せかけた。
半時間ほどで支度し終えた明妃は、客間に姿を現した。公爵とヨーダム太師とともにそれを待っていたダルディンは、彼女の姿を見て額を抑えうつむいた。
(ああ、ウラナ、どうして明妃にヴェールを被せない。風呂上がりの薔薇色に上気した頬がまる見えで、危うすぎるじゃないか・・・)
薄手の白い柔らかな上下繋がった広袖の着物の上に、流水紋様織の紺青色の袍をまとった姿の明妃が現れるや、公爵は思わず椅子から立ち上がり、目を見開き、その姿をしばらくじっと見つめていた。
(この方は、天界の鳥だ・・・)
地味な装いなのに、かえってそのために、風呂上がりの輝くような肌の艶が強調されて、目のやり場に困る眺めだった。
「お待たせしましたね、公爵様」と、明妃から声をかけられ、はっと我に返り、公爵は、「いや、こちらこそ、夜分に押しかけて申し訳なかった。しかし、どうあっても、至急お知らせしておきたい事があり、参り申した」と話した。そして、椅子へ掛け直すと、横に腰掛けるヨーダムの耳元へ、
「ヨーダム、明妃殿下を決してお一人にはするなよ。大鵬鳥や、畢方鳥や酸与など巨鳥の一族に見そめられたら、大空へ一瞬で攫われてしまうぞ」と、ささやいた。太師は黙ってうなずいたが、心の中では(そんな真似をしてみろ、たちどころに鳥一頭分丸焼けが出来上がるだろうよ)と思った。
彼らが席につくと、ウラナとアーリナがお茶と軽食を配膳した。
まず、公爵が「夜分に押しかけ本当に申し訳ない。それに、今夜の舞踏会の数々の失礼は、私の方からもお詫びしたい」と言い、それから、「ハトシェアラが、まさかあのような乱暴な真似をするとは、まったく予想外だった。王女といい、あの無礼な王子といい、一体王妃は、子供たちにどういう教育を授けているのだろう。彼女は、シンハイラ南西領公爵の長女で、見識高く、淑女の鏡と謳われた方であったのに、実に残念なことだ」と、嘆いた。
乾陽大公が、彼へ「それで、急ぎ話したいこととは、どのようなことなのだ?」と、尋ねた。
すると公爵は「飛魄のことだ」と言い「私とヨーダム太師は古い知り合いなのだ。三ヶ月ほど前、太師よりユニアナ王女殿下について照会を受け、その際に、王女殿下が飛魄を失った経緯について教えてもらい、私は気になって、独自に調査を行ったのだ。すると、王女以外にも何名か飛魄を失った者がいて、絶望のあまり自殺したものまでいたのだ」
公爵の言葉に、大公と明妃は顔を見合わせた。




