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1 飛魄がないけれど、飛べますか?(2)

 面接を待っていたのは、柔らかな茶色がかった金髪巻毛に、薄緑色の眸の、ミンズィとほぼ同じ背丈の少年だった。少年は、辛そうに顔をゆがめて(うつむ)いた。

「僕は、転身ができないんです」

「でたらめを言わないでくれ。黄金鷲の一族は、みんな()(はく)の持主だ。飛魄を持つ者は、十五歳になったら、必ず転身有翼となり、飛翔できるはずだ。俺のようなただの赤狐には、逆立ちしたって真似のできないことだ」

 転身ができないなんて何を甘ちゃんな事を言っているのだと、半ば呆れ返ったミンズィは、つい強めの口調で言ってしまった。ところが、少年の方は、

「ぼくは、飛魄がないので、飛べません」と言い返して来た。と、その時、天幕の入り口の垂れ下がった幕を上げて、フードを真深く被り、全身を覆う黒いマント姿の長身痩躯の男がそっと入って来た。

 老師が来たと思い、ミンズィは挨拶しようと立ち上がりかけたが、老師は口元に人差し指を立てて、黙っているよう合図してきた。そのまま、彼は、入り口の脇で立ち聞きするつもりのようだ。彼は、数年前、突然中央平原に現れ、信じられないような財力で通商交易隊を立ち上げ莫大な利益をあげ、さらに巨万の富を築いた。財力も大きいが、孤児や寡婦、病人、怪我人への手厚い施しで、感謝され、皆尊敬の意を込めて彼を老師と呼んでいた。今回の大牙との交易も、老師が七割方資金を負担していた。

 老師がどうして興味を持ったのかは分からないが、ミンズィとしては、もう心の中では不採用と決めて、あとはそれをいつ切り出すかだけのことだった。黄金鷲の少年も、ミンズィの表情から察した様子で、なおも必死で食い下がろうとした。

「お願いします。どんな荷物だって頑張って運びます。途中で脱落なんて絶対しません。どうか、雇ってください。お願いします」

「いや、結論から先に言うよ。不採用。君の骨格は華奢すぎて、荷物運びは無理だ。最低でも二十貫の重さだよ。君は四貫だって持てないだろ」(※一貫:3キロ設定)

「・・・・持てますから、雇ってください」

 黄金鷲の若者は、その場でいきなり土下座した。誇り高い黄金鷲が、赤狐風情の前で土下座なんてよしてくれと思い、ミンズィは引いてしまった。

「土下座なんか()してくれ。とにかく、君には無理だよ。体を壊すだけだぞ。悪いことは言わないから、他の仕事を探すんだな」

 老師が足音も立てずに少年へ近寄ると、その前にしゃがみ込んで、肩を軽く叩いた。

「何でもする覚悟があるのか」

少年は、顔を上げ、「はい」と大きな声を出した。

「では、私がおまえを雇うことにしよう」

 老師はそう言うと、ユニカの腕を取り立ち上がらせた。老師は背が高い、ユニカの頭は、老師の胸元にやっと届くくらいだ。

「名前は何という」

 老師に尋ねられて、黄金鷲の少年は、

「ユニカです」と、答えた。老師は、ユニカを見下ろし、

「明日から、転身して飛ぶ練習をしろ。おまえの仕事だ」と言い置き、天幕の外へ出ていった。

「エエッ、でも僕は転身が・・・」

 ミンズィは、呆然と立ったままのユニカへ近寄り、肩をポンと叩いた。

「雇ってもらえて、よかったじゃないか」

「で、でも・・・」

 ユニカは、途方に暮れた顔で、ミンズィを見た。狐狸特有の吊り上がった目尻を細め、ミンズィはニヤッと笑った。

「転身してすぐ飛べって言われた訳じゃないだろう。練習しろって言われたんだから、取り敢えずやってみれば・・・その間は、雇ってもらえるんだからさ。何事も、やってみなくちゃ分からないよ。それでダメなら、クビになるだけだろ?」

「う、うん・・・」

 戸惑うユニカへ、ミンズィは、さらに

「老師は、無茶を言う人ではないよ。あの方の指示は、明快で分かりやすい。まあ、明日から頑張ってみることだね。とりあえず今日から、君が生活できるよう、天幕を確保しに行こう」 

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